第13話 話が違う
マリアはナキ達に右手を挙げると「提案がある」と言う。
「提案?」
「そう、私からの提案よ」
「それって危なくはないのかな?」
「ん~大丈夫じゃないかな。多分だけどね」
「多分なんだ……」
「だって、私にも予測出来ないわよ。でも、私は領都から追放された立場だから、領都に行くことは出来ないし。かと言ってキュサイの町に行くにしても同じ様に領都から追放された私がすんなりと入れる保証はないわ。それにナキもこの子達も身分証はないでしょ。だから、今はどこにも行けないのよ」
「え?」
「どう、分かってもらえたかしら」
「でもね……」
ナキはよくあるラノベの導入部分で町に入る際に野盗に襲われたり、田舎から出て来たと言えばすんなり入れていたよなというのを思い出す。そして、それをマリアに尋ねると「甘いわね」と一言で返された。
「甘い……の?」
「ええ、甘いわよ。そんな町の入口で身分を保障する物が何もないって言ってみなさい。すぐにどこかの奴隷商に連れて行かれるわよ」
「嘘っ……そうなの?」
「そうよ。だって、どこの誰かも分からないのよ。奴隷商にしてみればお金が歩いてやって来たようなものよ」
「でも、衛兵に言えば「甘い!」……え~」
「そういうのも奴隷商に通じている衛兵が連絡すればすぐに奴隷商に捕まるわよ」
「……もう誰も信じられないよ。でもさ、実際に野盗に襲われたりする人はいるんでしょ。そういう人はどうするの?」
「そうね、私が知っているのは町の中に知り合いがいるのなら、その人に面通ししてもらってから、その人が保証人になることで身分証を手に入れるのよ」
「へ~なら「いないわよ」……また、先回り」
「ナキが言いたいことなら分かるわよ。私の知り合いならキュサイにもいるんじゃないかって言いたいんでしょ」
「そうだけど」
「だからね……」
マリアはナキの考えを先回りして、いないと答えてからキュサイに行けないことを説明する。
「あのね、キュサイに知り合いと呼べる人がいないことはないんだけどね。さっき話したでしょ」
「え?」
「だから、衛兵が知り合いに行く前に先に奴隷商に行く場合があるのよ。あの女ならそこまで手を回していないとも言えないからね」
「あ~そういう」
「そ。そゆこと」
「じゃあ「どうするの? って言いたいんでしょ」……また」
「ふふふ、それを今から話すんじゃない。いい?」
マリアに被せるように先回りされてナキは少し不貞腐れるが、マリアはそんなナキも可愛いと思いながらも話を続ける。
「あのね、だから私はここでお父様から派兵される人達を待つの」
「待つって……大丈夫なの?」
「そうね。絶対に大丈夫とは言えないけど、町に行くよりは成功率が高いと思うの」
「へ~マリアにそこまで自信があるならいいけど。でも、待つだけなの?」
「ううん。待つけど、ちゃんとお土産も渡すわよ」
「お土産? て、まさか……」
「そうよ。全部は渡さないけど、それが
「……」
「だめ?」
「いや……だめって言うか。安直すぎないかなと思ってね」
「そうかな? ま、やってみればいいんじゃない。もし失敗しても、ここから逃げればいいだけだし。ね」
「それもそうだね。モノは試しって言うし」
「そう!」
「でもさ……」
ナキはマリアの提案を受け入れる気にはなったが、どうしても気になっていたことがあったので、それを聞いてみることにした。
「あ~それね。多分だけどお父様は私が奴隷商に売られたとは思っていないんじゃないかなと思うの」
「その根拠はあるの?」
「ないことはないけど、あのお父様だもの。私が奴隷商に売られたと知ったら、どんなことをしてでも買い戻しに来たと思うの。それくらいには愛されていたと思うわ」
「そうなんだね。ちょっと羨ましいな……」
「ナキ……」
ナキの身の上話を知っているマリアはちょっと悪いことしたかなと思ったが、ナキはそう口にしただけで特に悲しそうにしている様子でもないので安堵する。
「そうと決まれば、お客さんが来る前に用意しとかないとね」
「そうだね」
マリアはナキにそう言うと横穴の中に入っていく。これから父親に向けた伝言……手紙をしたためるのだろう。
「ねえ」
「ん? どうしたの。ハジ」
「俺達、どうなるの?」
「何も心配することはないよ。大丈夫だから。僕とマリアに任せてよ」
「でも……」
心配しているのはハジだけでなく他の子もなんだか不安げな顔をしていたのに気付いたナキが子供達を呼び寄せるとしっかりと抱きしめる。
「大丈夫! 何があっても絶対に守るから」
「ホント?」
「うん、本当だよ。僕が凄い魔法が使えるのは知っているでしょ」
「「「うん!」」」
「じゃあ、僕が言っていることは信じてもらえるかな」
「「「うん、分かった!」」」
「ふふふ、ありがとう」
子供達もナキの言葉に表情が明るくなり、ナキも嬉しくなる。
「これでお客さんがいつ来ても大丈夫だね」
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