第24話 僕の用事は終わったから
小屋に使われていた棒や板などの廃材を横穴に持ち帰るべく回収を進めている少年の様子を女性達は不思議そうに眺めており、何か言いたそうにしているが、さっき少年に不躾に聞いてしまったせいか、少年は少女達を無視するように淡々と回収作業を続ける。
「これってアイツの小屋だよね」
この集落の中でいよいよ最後の小屋でもある一際大きな小屋の前に立つと、一番大きなゴブリンを一瞥する。
「アイツがここの大将ってことは、ここの中に貴重品があるかもしれないよね。じゃあ、注意しながら、回収しようかな」
少年はその大きな小屋の前に立つと、先ずは屋根部分を鞄の中に入れ、次に壁部分をと丁寧に回収していくと、その小屋の中が露わになり、何か箱のような物が積み上げられていた。そして、中央部分には見るからに人骨っぽい物を組み合わせた椅子が置かれていた。
「うあぁ悪趣味だなぁ~使われた人には悪いけど、僕はいらないな」
少年はそう呟くと、その椅子の下に大きな穴を開けると、そのまま下へと落とし土を被せてから、軽く手を合わせる。
「出来れば安らかに……」
「「「……」」」
少年が手を合わせるとその様子を見ていた女性や子供達も少年と同じ様に手を合わせ、何やらこちらの世界でのお祈りの言葉を唱える。
「よし、じゃあ……」
「ちょっと、待って!」
「えっと何?」
少年が積み上げられた箱に手を伸ばそうとしたところで、女性から待ったを掛けられる。そして、女性は少年に対し「お願い!」と言う。
「お願い?」
「そう、その箱を私達に見せて欲しいの」
「なんで?」
「なんでって……それは……」
少年は箱の前に立つと、お願いと言ってきた女性に対し「なんで?」と聞き返す。すると、女性は途端に口籠もる。
少年からしてみれば、ここのゴブリンを掃討した……実際には、結界に閉じ込めただけだが……のは自分だから、箱の所有権は自分にあると思っていた。だけど、女性は自分達に箱の中を見せて欲しいと言ってきた。女性達は所有権を主張している訳ではないが、最初に見せて欲しいと言うのは、女性達に必要な物であれば、寄越せと言っているのと同義ではないかと少年は思い、その理由を女性に聞いたのだが、女性から答えは返ってこない。
「箱の中身を僕が見て、僕に不要な物だと判断したら後は、好きにしていいから」
「……分かったわ」
少年としては最大限の譲歩のつもりだったが、女性としては不承不承という感じで了承する。そんな態度に少年は納得いかないものを感じるが、今はそんなことは「ま、いっか」と箱の中身を確認する。
積み上げられた一番上の箱を下ろし、その中身を確認するが、その箱の中身は少年には不要な衣類だ。それも一目で女性用と分かる物ばかりだったので、少年は無言でその箱を女性の前に置き「好きにして」とだけ伝える。
女性は少年に対し「ありがとう」とだけ言うと、その箱の中の衣類を取り出すと一つずつ確認するように「これはダメ。これは使える」と選別していく。子供達は女性の側でその様子を大人しくジッと眺めているだけだった。時折、「あっ!」と声を出すが、その場合は派手な色合いの服だったり、極端に露出の少ない衣服だったりするので、女性が気まずそうに「まだ、早いから」と横に置くのだった。
そんな風に少年が箱を確認して、不要と感じた場合は女性に任せることにして作業を続けていると、漸く少年が使えそうな物が詰められた箱が出て来た。
「よっと、これは今までのと違って重いな。まあ、重いから一番下にあったのかもね」
あれだけ積み上げられていた箱の一番下の、一番最後の箱になり、少年は少し自分の方に引き寄せようとしたところで、今日一の重さに驚く。
「じゃあ、中味がなんなのかを確認しましょうか……うわぁ」
「「「うわぁ……」」」
いつの間にか少年の側にいた女性と子供達も箱の中を覗き込み、感嘆の声を漏らす。その箱の中には壺らしき物が六個と金色や銀色の硬貨が入っていたからだろう。
「いつの間に……ま、いいけど。お、これは……」
少年は光り輝く硬貨には目もくれず箱の中に手を入れ、取り出したのは高さ三十センチメートル、直径十センチメートルほどの茶色のツボだった。それは箱の中に敷き詰められた藁の中に納められていた。
少年はツボの蓋を開けると、中を覗き込み「うん、これは当たりだね」と直ぐに鞄に仕舞うと、他のツボも同じ様に確認し、どんどんと回収していく。
「あとは……いらないか」
「「「え?」」」
「え? って何?」
「だって、お金だよ?」
「そうみたいだね」
「……これ、いらないの?」
「うん、いらないかな」
「なんで?」
「なんでって、使うところもないし」
「なら……これ、もらってもいいかな?」
「どうぞってうわ!」
少年が了解すると、箱の前にいた少年を押しのけ、女性も押しのけられ、子供達がワッと群がり、箱の中の硬貨を手に一杯握りしめるが、子供の小さな手ではどうやっても端から零れる。だからと両手で掬うが、今度は掬った硬貨を置くところがないとウロウロしてしまう。
少年はそれを見て、弟達がお菓子を奪い合っていたのを思い出し微笑ましくなるが、このままじゃ収拾が付かないと一つの提案をする。
「ねえ、ひとついい」
「何?」
「あのさ、ここにはその硬貨を盗る人はいないよね。なら、今そんなに慌てて掴まなくても皆で分ければいいんじゃないの?」
「「「あ!」」」
少年が女性にそう声を掛ければ、それまで自分の物だと一生懸命に硬貨を集めていた子供達も正気を取り戻し、少し恥ずかしそうになる。
「じゃ、そゆことで」
「「「え?」」」
自分の用事は済んだからと少年は女性達に対し軽く挨拶を済ませ、その場を離れようとすると、女性や子供達が驚く。少年はそんなに驚くことなのかと思ったが、言われてみればゴブリンをそのままにしていたことを思い出し、これのことかなと結界に閉じ込められたゴブリン達に対し『粉砕』と呟くと、結界内に閉じ込められていたゴブリン達は文字通りに粉微塵となり、結界が解かれると風に舞って飛ばされていく。
「「「え~!」」」
少年はこれで何も気にすることはなくなったと、その場を離れようとしたところで服の裾を引っ張られていることに気付く。
「何? 帰りたいんだけど?」
「なんで?」
「え? なんでってどゆこと?」
「だから、なんで私達を放っていくの?」
「え?」
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