第18話 やれば出来る

「ん~ふぁ~」


 ベッドから体を起こした少年は欠伸をしながら、辺りを見回す。すると、入口の方は既に明るくなっていて横穴の中にまで光が差し込んでいる。


「さて……と、今日は何をしようかな。でも、その前に」


 少年はベッドから下り用を足すと自分のパンツが汚れていないことを確認し、昨日使ったクリーンがちゃんと機能していたことに安堵するが、顔を洗おうとしたところで「あ!」と声が出る。


「そうだよ、洗面台も流しもないじゃん。まあ、地道に作るしかないか。だけど、その前にご飯にしようかな」


 少年はベッドに座ると、鞄からパンとコップの大きさの結界に水を移す。


「モグモグ……味気ないな。調味料もないし、ハムも欲しいな。それに卵も欲しいな。やっぱり人がいるところに行かないと駄目なのかな。でも、人に会うのはちょっとな。何もここの人達に虐められた訳じゃ無いけど、やっぱりまだ人に会うのは苦手だな」


 少年は鞄の中にあるパンが残り少ないことを危惧し、人がいる場所に行くべきだろうかと考えてみるが、どうしてもその気になれない。


 ならば、自分で食糧を用意する必要があるが、パンを作るには小麦粉が必要だし、塩やイースト菌も必要になるなど、今の少年には何もかもが足りない。


「え~もうどうすれば……ん? いや、待てよ。もしかしたら、どうにかなるかもね。モノは試しというし」


 少年は頭の中で考えていたことを実行する為に鞄からパンを一つ取り出して、それを結界で包み『複製コピー』と唱える。


 すると結界の中にあったパンが二つになったのを見て、少年は「やった! じゃ、これを」ともう一度、『複製コピー』と口に出すと今度はパンが四つに増えた。


「うん、ここまでは想定内と。問題は……」


 少年は増やしたパンを手に取り、齧り付く。


「うん、大丈夫。ちゃんとパンだ」


 少年は、これでパンはなんとかなったとほくそ笑むが、まだ全ての問題が片付いた訳ではない。


「でも、これでご飯はいいとして、あとは……おかずだな。魚は川にいたけど肉と野菜が欲しいし、出来ればご飯も食べたい。パンが嫌いな訳じゃないけど、どうも腹持ちが悪いんだよな。でもな~ここは異世界なんだよな~」


 少年はそんなことを考えてはみたものの「ま、いっか」と頭を切り替える。


「今は無いものを探すより必要な物を用意するのが先だよ。でも、今のままじゃ狭いから、もう少し広げないとね。それに入口からベッドが丸見えなのもよくないか」


 少年は簡単な食事を済ませると、ベッドから下りてその場にしゃがみ込むと小石を右手に持ち、地面に線を引く。


「えっと……まず必要なのは寝室に食堂に……それとお風呂に洗面所と、納戸があればいいかな。うん、こんな感じかな。結構、広くなるけどいけるよね」


 少年は立ち上がると奧へと進み、横穴を広げた時と同じ要領で掘り進み必要な広さを確保する。


「よし、これで必要な広さは確保出来た。後は、換気だな」


 少年は竈を作る予定の場所に立つと「この辺でいいか」と天井部分から上に向けて縦穴を掘り、それを結界で塞ぎ『気体』だけを通すように設定すると、『排気』と唱える。すると、その結界は換気扇の様に横穴に溜まっている空気を上へと排気するのだった。


「じゃあ、後は……材料が欲しいな」


 テーブルとか椅子が欲しくなるが、全てを岩で用意するのも冷たい感じがして嫌だなと少年は思う。そうなると、材料を探しに出るしかない。


「ま、しょうがないか。一度は周囲を確認しておかないと駄目だろうからね」


 少年は「ふぅ~」と嘆息してから、「ま、なんとかなるでしょ」と横穴の外に出ることを決めた。


「さてと、外に出たはいいけど、木はどこにあるかな」


 少年は横穴の外に出ると材料になりそうな木がどこにあるかと周囲を見渡すが、目に入るのは草むらだけで木が生えている場所がどこにも見えない。


「もう少し高い場所から探さないと駄目かな。じゃあ……」


 少年は自分が出て来た横穴の崖を見上げるが、その上まで行けるような道があるわけでもない。


「他に高い場所はないし、頑張って登るしかないのかな。ん~あ! そうだよ」


 少年はポンと両手を合わせると「モノは試し」と今、思い付いたことを試してみることにする。


「僕の考える通りなら、なんでも遮断出来るなら、『重力』もいけるハズだよね」


 少年はいいことを思い付いたとばかりに足下に板のように薄い結界を用意すると、その上に乗ろうとして「ちょっと待てよ」と、上げた足を下ろす。


「やっぱり先ずは安全確認だよね」と用意した結界の上に手頃な大きさの石を載せてから、『重力を遮断』と設定した瞬間に、石を乗せた結界は上空高く跳ね上がるように飛んで行く。


「え~」


 少年は自分の思い付きが成功したことを嬉しく思うと、同時に「試してよかった」と胸を撫で下ろす。


「もし、あのまま乗っていたら、今頃は……」と少年は石が飛んで行った遥か上空を見上げる。


「ほんの少しだけ遮断出来ればいいんだけどな。どうやれば調節出来るんだろ。まあ、モノは試しだね」


 少年はもう一度、薄く結界を足下に用意してから、また石を載せると「気持ち、重力を遮断」と呟くと、今度は石を載せた結界がゆっくりと浮き上がってくる。


「おぉ~試してみるもんだね。でも、待てよ。これで垂直方向に移動出来るってことは、もしかしたら水平にも行けるんじゃないの?」


 少年はいいことを思い付いたとばかりにほくそ笑むのだった。

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