第2話 説明がまだです

「ここは……」

『うん、ちゃんと死んでくれましたね。では、こちらへどうぞ』

「えっと……その前に色々と聞きたいことがあるんですけど」

『はい、分かってますよ。その説明も含めてお話しますので、さ』

「……」


 少年は女性の方へと歩こうとしたところで、違和感に気付く「足がない」と。


『今は魂だけの状態ですから、歩くことは無理ですよ』

「じゃあ、どうすれば……」

『念じるだけですよ。そうれば、スィ~と動けますから。はい、やってみてください』

「念じる……念じる……うぉ!」


 魂だけの状態となった少年は、女性に言われた通りに「動きたい」と念じてみると思った通りに動き出す。


 歩くでもなく単に宙に浮いている状態で動けることになんとなく楽しくなった少年は調子に乗り、そこら中を飛び回っている。


『あの~そろそろいいですか?』

「あ、はい」


 女性から、暗に「いい加減に」と言われた少年は、やっと女性の前へと向かう。



『楽しかったですか? なんなら、そのままでいますか?』

「……すみません」

『では、説明しますから、耳をかっぽじって……って、耳はありませんでしたね。まあ、気にせずに説明を始めますね。先ずは私の話を聞いて下さい。質問は、後で纏めて受け付けますので。ここまではいいですか?』

「はい」

『では、説明しますね。最初に私はご想像の通りに女神です。ん? 反応が薄いですね? まあ、いいでしょう。次に私の名前はミラルと言います。BWHは「すみません!」……質問は後でと言いましたが、なんでしょうか』

「女神様のことは後でお聞かせ願うとして、先ずは僕が死ななきゃダメだった理由を教えてください。それと僕の魂はどうなるのですか?」

『私のことはどうでもいいと?』

「そういう風に捉えないでください。女神様については後でタップリ聞きますので、最初に僕のことを聞かせてください。お願いします!」

『もう、そんなに私のことをゆっくり聞きたいというのなら、しょうがないですね。では、言いますよ。ちゃんと聞いて下さいね』

「はい、お願いします!」

『では、君が死なないとダメな理由ですが……』

「そんな……」


 少年が女神ミラルから聞かされた理由はとてもではないが、理解し難い内容だった。それに一番の疑問は「どうして僕が」だ。


『まあ、そう思うのはしょうがないかもしれませんね。ですが、これは君達……あ、既に君はいない日本の人達ですね。日本の人を守る為に必要なのです。そこはご理解ください』

「……」


 少年はそんな理由の為に地獄とも言える三年間の中学生活を過ごしてきたのかと思うと到底納得出来るものではない。そもそもなんで自分が選ばれたのかが分からない。


『君が選ばれた理由ですか?』

「そう、なんでですか?」

『ん~知りたいですか?』

「はい。教えてください」

『じゃあ、いいますね。それは君がガマン強いからと言うのと、弟妹の為にその身を犠牲にすることも厭わないと思ったからですね』

「そんな理由……」

『はい。そんな理由です。意外と単純でビックリしましたか?』

「……」

『どうしました?』

「他に……」

『はい?』

「他に候補者はいなかったんですか?」

『ええ、いませんでしたね。もう、最初っから君を狙い撃ちです。ズッキュ~ンです』

「……」


 女神は右手を指鉄砲の形にすると少年の魂を打ち抜くフリをしてから、人差し指の先にフッと息を吹きかける。


「巫山戯んな!」

『いえ、決して巫山戯てはいませんよ』

「なら、僕じゃなくてもよかっただろ!」

『おや、先程の私の説明を聞いて理解して貰えたのじゃないんですか?』

「……」

『まあ、確かに三年も苦痛を与えられ続けたのですから、そう思う気持ちも理解出来ます』

「なら……」

『まあ、待ってください。ちゃんと私の言うことを理解してませんね』

「どういうこと?」

『ですから、君はただ単に三年もの間、虐められ続けていた訳じゃありません』

「だから、それは『まあ、聞いて下さい』……分かったよ」


 女神ミルラはコホンと態とらしく咳をしてから、畏まって話し出す。


『いいですか、君が三年間、虐められ続けたことで、あの中学ではストレスを感じることなく過ごすことが出来ています。君以外がですが』

「分かってるよ」

『その為に、あの中学は今、世間からの評判が鰻登りです!』

「くっ……だから、それがどうして……」


 少年が犠牲になったことで、少年が通っていた中学では「イジメ」とは無縁の学校として、生徒全体の学力も向上していったことで世間からの耳目を集めていた。そしてその学校の誰もが、少年が虐められ続けていたことを口にすることはなかった。


 少年もそれは分かっていたことだ。いつもの様に虐められている時に誰かがボソッと呟いたのが聞こえたのだ。


「お前が虐められている内は安泰だ」と。


 でも、実際に虐められ続けていた少年がそれを「はい、そうですか」と素直に受け入られるはずがない。


『でも、それは三年間の間だけのこと。今からはガラッと変わりますから』

「え? どゆこと?」

『分かりませんか?』

「分からない。なんで?」

『ふぅ~先程も説明したのですが……まあ、いいでしょう。いいですか、君が死んだことで世間は君が虐められたことに気付きます』

「まあ、さすがに飛び降りたところは見られているから、隠せないか」

『それもありますが、君の弟妹の為に私が活躍しますから!』

「え?」

『あれ、その感じはもしかして信じていませんでした?』

「あ……いや……その……」

『まあ、分かります。飛び降りた自分の目の前に現れたこんなキレイな女性が女神だと言っても頭から信じることは出来ませんよね。こんなにキレイなのだから』

「二回も言ったよ」

『なんですか?』

「いえ、なんでもありません。でも、弟妹達はどうなるんですか?」

『気になります?』

「当たり前です!」

『じゃあ、君が異世界に行く前に話してあげましょう!』

「え、異世界?」

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