第4話 全部、見られていた
「着たわよ!」
「ホントに?」
「ホントだって」
「だって、さっきは……」
「だから、ゴメンって謝ったでしょ。今度はちゃんと着ているから」
「嘘だったら、怒るからね」
「……」
「ちょっと、なんで黙るの?」
「大丈夫……多分、大丈夫だから。ほら、見てよ」
ナキはマリアに何度も「着たよ」と言われて振り返れば、パンツだけだったり、ほぼ全裸に近い格好だったりと、まるで露出狂の痴女のファッションショ―を無理矢理見せられていた状況だったので、ちょっとだけマリアのことが信じられなくなっていた。
ナキも今度は大丈夫かなとマリアを信じようと決め、顔を覆っていた手をどけ、両目を開ければ、そこには羽扇子を手に持ち、胸元が大きく開いた煌びやかなドレスを身に纏っていたマリアが立っていた。
「えっと、どこかの舞踏会にでも行くのかな?」
「ダメ?」
「いやいやいや、どう考えてもダメでしょ。そんな裾を引きずるようなドレスを着て、真面に生活出来ないでしょ。まあ、肌が隠されているだけ今までのよりはマシだけど、もうちょっと考えてよね。じゃあ、やり直し!」
「もう!」
ナキに辛辣な評価をもらったマリアはその場で服を脱ぎ出す。
「わ、わわっ……ちょっと、僕が準備するまで待ってよ」
「準備って目を瞑るだけでしょ。それに何回も見ているんだから、もうナキは興味がないんでしょ」
「そ、そんなことは……」
「うふふ、冗談よ」
ナキが恥ずかしそうにしているのを見て、マリアは少しだけ溜飲が下がる。
「ふふふ。まだ期待は持っててもいいみたいね。ここで敵になりそうなのはケリーくらいだけど、まあ十年は安泰かな。ナキがそういう趣味じゃなければだけどね」
「マリア、全部聞こえているからね!」
「あ……」
その後、何度か似たようなやり取りの後にマリアの格好はロングスカートに生成りのシャツという姿に落ち着いた。だが、問題はまだ残っていた。そう、下着の類がなかったのだ。正確に言えば、女性用の下着はあるにはあったが、マリアのサイズに合わなかった。
大きいのもあれば、小さいのもあり、マリアも「これでいいか」と諦めがちに手に取り履いてみたものの小さいのはキツすぎて上まで上がらず、大きいのは少し気を緩めると下がるからと紐で括ってはみたが、腿のまわりがスカスカなのが落ち着かないと結局は何も着けないのが一番となってしまった。
そして、問題の胸の部分になるのだが、そもそもそれ用の下着がなかった。ナキも一緒に箱の中を探し、これかなと手に取ってみれば、それはコルセットだったり、ビスチェだった。
マリアもないよりはマシかとビスチェを着けてはみたもののマリアの胸を納めることは出来ず、どう頑張っても「こんにちは」と顔を出すのでこれもナシになる。
そんなマリアに「せめてこれだけでも」とナキがサラシを提案し、マリアも不承不承ながらそれを受け入れるのだった。
「でも、巻くのは手伝ってね」
「えぇ~」
「だって、あの子達はまだ寝ているでしょ」
「「「うん!」」」
「「え?」」
「「「あ!」」」
そう、お昼寝しているとばかり思っていた子供達は俯せになった状態でマリアとナキのやり取りをニヤニヤしならが見ていたのだ。
「えっと、ハジ。怒らないから教えてくれるかな」
「なに?」
「どこから起きていたの?」
「えっとね、確か……」
「おねえちゃんがふくをぬいだところだよ!」
「そうそう、おねえちゃんがぽ~いって」
「スゥスゥ……」
要するにマリアが貫頭衣を脱ぎ捨てていたところからの一部始終を見られていたということだろう。
そんな子供達の返答にナキとマリアはそろって顔が赤くなる。
「兄ちゃん、姉ちゃんの裸キレイだろ」
「ハジ!」
「キレイだろ?」
「ま、まあね……」
「ナキ……」
マリアはナキの言葉に嬉しくなり、思わずナキを抱き寄せるが、ナキは身長差もあることから、その胸に押し潰されることになる。
思わず苦しいと叫びそうになるが、そこは防御魔法の優れたところで、ほんの少しだけマリアとの間に隙間が作られたのと、マリアに抱きしめられても潰されるほどの圧力も感じなかった。
「なんだろ、この物足りなさは……」
「ナキ、どうしたの? キツかった? ゴメンね」
「あ、いや。そうじゃなくて……」
「「「へんなの! ははは!」」」
ナキの様子が少しだけおかしいのに気付いたマリアがナキから離れそんなことを言うが、ナキは正直なところ痛し痒しといった状態だった。
防御魔法がなければとこれほど悔やんだことはなかっただろう。防御魔法がなければ、マリアのあの柔らかいものに包まれていたのにと思う一方で、もし防御魔法がなければ潰されていたかもしれないとジレンマに苛まれていた。
「ねえ、アレって何を作っていたの?」
「アレ? ああ、そうだった。テーブルと椅子を作ろうと思ってね」
「じゃあ、俺も手伝うよ」
「俺も!」
「私も!」
「スゥスゥ……」
子供達は皆起きてきたと思っていたが、オジだけはずっと静かな寝息を立てながら眠り続けていた。
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