第11話 よくない知らせは先に聞きたい
「「「ただいま~」」」
「おかえり! どうだったの?」
「「「はい、どうぞ」」」
「あら、美味しそうな木苺ね。ありがとう」
横穴の前でナキ達を迎えてくれたマリアに子供達は手に持っていた木苺を渡す。そして、そんな子供達の顔を見てマリアはくすりと笑う。
「ねえ、おいしかった?」
「「「うん! あれ?」」」
「どうしたの?」
「ねえ、俺達が木苺を食べたのどうして分かったの?」
「俺いってないよ」
「俺も」
「わたしも」
「ふふふ、お互いに顔をよ~く見てみなさい。真っ赤よ」
「「「え? あ!」」」
「よし、俺に任せろ! 『クリーン』」
「「「あ、消えた!」」」
ハジがクリーンを使い子供達の顔をキレイにすると、ハジは少しだけ自慢気な顔をする。
『ポン』
「ん? なんだろ?」
「なんの音?」
「さあ、気のせいじゃないかな」
「そうかな……」
『ポン……ポポポ~ン』
「ほら、気のせいじゃないわよ。ナキ!」
「……そうみたいだね」
どこからか聞こえてくる音にナキとマリアだけじゃなく子供達も不思議そうにしていると『ポポポ~ン、ポッポッポ~ン、ポポポ~ン』と連続してナキの肩掛け鞄から聞こえてくる。
「あ~やっぱり」
「何、やっぱりって分かっていたの?」
「まあ、なんとなくだけどね」
「そう。で、なんなの?」
「あまり知りたくはない気がするんだけど……」
ナキはあまり気乗りしない様子で肩掛け鞄の中に右手を入れると一番怪しいモノ『女神通信』が入っているのを感じた。
「あ~ヤッパリだよ。ハァ~」
本当なら、あの女神ミルラからの連絡なのだから向こうの様子を伝えてくれるのだから嬉しく思ってもいいのだが、あの着信を知らせる為にしつこく鳴らしたのがナキにはイヤな感じを持たせる。
「まあ、読むしかないよね。多分、読むまでまたしつこく鳴らすだろうし。じゃあ、読んでみますか。え~と……」
ナキが鞄から『女神通信』を取り出すと、その紙面には大きく『号外!』とあった。
なきはその文字を見て「また、大袈裟な」と思ったが、読み進めると『いい知らせとあまりよくない知らせがあります』とあった。
ナキは「出来るなら先によくない知らせを知りたいよね」と呟くと『では、いい知らせから報告します』とあった。
「やっぱり、紙面を通して会話しているとしか思えないけど……読むしかないよね」
ナキはちょっと辟易とするが、目を通さないことには進まないと諦めて先を読む。するとそこには楽しそうに笑っている家族の写真があり『あなたのご家族は無事に国外へと引っ越しされました。今は現地の言葉を覚えるために勉強中です』とあり、ナキはホッと胸を撫で下ろす。
「よかった、これで家族が安全に過ごせるんだ。でも、海外か~僕も行きたかったな~」
池内直樹だった頃に海外旅行なんて行ったことはないナキだが、今は海外どころか異世界に来ているのだから、家族からすればナキの方が羨ましいのではと思える。
「じゃあ、よくない知らせってなんだろう?」
ナキは家族のことが分かり安心は出来たが、もう一つの『あまりよくない知らせ』が残っているため、読み続ける。
『では、よくない知らせですが、あなた達がいるその場所に調査隊がそう遠くない日にやって来るでしょう』
「調査隊? なんで、そんなのが……あ!」
『もう、お気付きの様ですが、そうです。
ナキが『女神通信 号外』を読み終わると同時に『ボフッ』と音がなり女神通信は消える。
「ナキ?」
「「「にいちゃん?」」」
「どうしたの?」
「どうしたのって、ナキ。気付いてないの?」
「え?」
「兄ちゃん、泣いてるぞ。どうしたんだ?」
「え? あ!」
マリアやハジに指摘されてナキは初めて自分の目から涙が零れていたことを知る。
「あれ、どうして……変だね。別に悲しいことじゃないのに……へへへ、僕どうしたんだろう」
「ナキ……」
マリア達の目を気にすることなくナキの目から涙がとめどなく流れてくる。そんなナキをマリアはそっと抱きしめ声を掛ける。
「ナキ、涙は悲しい時だけ流れるものじゃないのよ」
「え……でも……」
「ほら、だってナキは笑っているじゃないの。余程。嬉しいことがあったのよね。ね、聞かせて」
「あ……」
マリアに言われてナキも気付く。向こうに残してきた家族。自分が死ねば弟妹には手を出さないと口約束だがそれを信じるしかなく心細かった自分だが、死んで異世界に来てしまっては『後のことは任せて下さい』と言う女神ミルラを信じるしかなかった。
だけど、さっき読んだ女神通信では『家族が無事』だとあり、楽しそうに笑う家族の写真もあったことから、ナキは初めて心の底から安堵出来たのだろう。
そしてそれをマリアが受け止めてくれたことでナキはマリアの胸に顔を埋め思いっ切り大声を上げてから号泣する。
「……助かった……助かったんだ、僕の家族が! 心配だった。死んでも心配だった。でも、無事だった。無事だったんだよ! うわぁぁぁん」
「そう、無事だったのね。それじゃ、嬉しくなるのもしょうがないわね」
マリアは抱き寄せたナキの頭を優しく撫でながら、心配そうにこちらを見ている子供達に優しく微笑む。
「兄ちゃん、大丈夫か?」
「ええ。心配ないわ。もう、大丈夫よ」
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