第10話 ガッカリだよ
『では、いよいよ君の為に特別に用意した個別魔法について説明します。君に用意した個別魔法、それは防御魔法です』
「はぁ?」
女神通信を読んでいた少年は「ウソだろ」と思わず呟くが、確かに女神ミルラは異世界特典として用意すると言いはしたが、何をとは特に言ってはいなかったと思い出す。
「ウソだろ。防御魔法ってアレだよね。要は防御だから防ぐだけだよね。え~なんだよ。期待させるだけさせといてコレはないよな~」
少年はそれでも自分に与えられた個別魔法ならば使い方を知っておかないとダメだよなというのと『防御魔法』というくらいだから、なんらかの攻撃からは身を守れるかもしれないと気を取り直して女神通信を再び読み始める。
『ふふふ、あれだけ異世界特典を期待させといて防御魔法なんてバカにしてると憤慨していることでしょう。でも、ガッカリするのはまだ早いですよ。いいですか、たかが防御だとバカにするなかれですよ。このキレイな女神ミルラがそんな程度の低い魔法を授けると思われているのも心外です。なんせキレイな私が授けるのですから』
「また、二回も言ってるよ。でも、確かに単なる防御魔法な訳ないよなって気がしてきた」
少年は少しだけ気を取り直して女神通信を読み続ける。
『ちゃんと読んでくれているみたいですね。感心です。では、防御魔法についてお話しますからね。先ず何から何を
「……」
少年はまた紙面から目を離すと「ふぅ~」と深呼吸をする。
「僕を害する全てって……抽象的過ぎてよく分からないけど、『例えば』はないのかな?」
『すみませんでした。君を害する全てと言ってもよく分からないですよね。そうですね、言うならば物理的な物であれば、君を傷付けようとする刀剣の類や矢や石など投擲される物。魔法ならば
「え? これ、マジなの? でも、異世界なら有り得るのか……な?」
試しにと少年は防御魔法を使ってみようと思ったが、発動させる方法が分からなかったので、ふぅ~と嘆息してから女神通信の続きを読む。
『では、防御魔法の使い方について説明します。道具は必要ありません。呪文も不要です。心の中で強く「守れ」と念じるだけです。どうぞ試してみてください』
「あれ? 意外に簡単だった。でも、強く念じるって強さで変わったりするのかな。じゃあ、先ずは軽く『守って』……おっ」
少年が防御魔法を試しに使ってみると体の中から魔力が少しだけ抜き取られる感触と共に自分の体の周りをやんわりとした感触の何かに包み込まれた気がした。
じゃあ、試しにと鞄から解体用のナイフを取り出し、右手に持つと左手の人差し指の先をチョンと突いてみると『ぷすっ』と指先にナイフの刃先が入る。
「痛ッ!」
防御魔法で守られている感覚はあったのにナイフの刃先はスルッと入って来たことに対し、少年はどういうことだと思うが、先ずは血が出ている指先を見ながら「あ~血が出てんじゃん」と血を止めることは出来ないのかなと考えていたら、スッと血が止まった。
「え? あれ? 血が止まった……傷もなくなった? え? どゆこと?」
少年は防御魔法がインチキじゃないかと憤慨しつつも血が止まり傷が塞がったのもどういうことだと女神通信に目を通す。
『言い忘れてましたが、自分自身を傷付けようとしても防御魔法は、その行為をスルーしますから、注意して下さいね。では、何故防御魔法がスルーするかと言うと、自分で自分を傷付けようとしても、そこには殺気は生じませんよね? ですから、君自身を害しようという殺気がないのですから、防御魔法も守ることはしないということです。お分かり頂けましたか?』
「あ~そういうことか。なるほどね。じゃあ、傷口が消えたのはどういうことなんだろう」
『あと、防御魔法が有りと有らゆるものから君自身を守るということは、防御魔法で守られている空間は無敵状態ですね。加えて気温操作などの事象を変更することも可能となります。望めば水の中だろうが、溶岩の中でもケガすることも窒息することもなく過ごすことも可能となります。要は何を言いたいかと言えば、防御魔法で守られている空間内では有りと有らゆることが可能となるということです。なので、治療するくらい簡単です』
「そうなんだ。でも、この女神通信って僕の考えていることを先読みしている気がするんだけど気のせいだよね」
『ええ、そうです。気のせいです』
「あ~やっぱり、こっちも覗いているんだ」
『な、なんのことか分かりませんが、これでチュートリアルは以上です。では、異世界での生活に幸あらんことを』
女神通信の最後まで目を通すと『ポシュッ』という音と共に女神通信は煙となって消えてしまった。
「まあ、女神だし。こっちの世界を覗くくらいは難しくはないか。さて……」
女神ミルラに監視されているのは多少気に食わないが、神という存在から逃げられるとも思わないので、先ずは存在を無視することにした少年は、日が暮れる前に今日の寝床を確保したいと考える。
「先ず、このままここにいるのも一つの手だとは思うけど、まだ何も分かっていない状態で現地の人と上手くやれるとは思えないよね。なら、ここは……」
少年は自身の体を包む感触がまだあることを確かめると、街道から外れ森の中へと入って行く。
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