第15話 焦っちゃダメだからね
「あれよ」
「あの一番大きな建物?」
「そう。あそこの建物の三階の右端がお父様の執務室よ」
「へぇ」
ナキ達はマリアの案内で領都上空へと来ていた。もちろん、他の人の目に付かない様に不可視の状態にするのは忘れていない。
そして一緒に着いて来た子供達は領都上空から、下を眺め「わぁ~」と子供達が育った小さな村では見ることが出来ない建物や人の多さに興奮している。
「一応、落ちない様にはしているつもりだけど、あまり身を乗り出さない様にね」
「「「は~い!」」」
「じゃ、行こうか」
「ちょ、ちょっと待って!」
「え~ここまで来たのに」
「だから、ちょっと待ってよ」
「いいけど、多分だけど急いだ方がいいと思うよ」
「なんで?」
「……なんとなくだけど、マリアが追い出されたのは邪魔だからでしょ」
「そうね。イヤだけど、
「それはなんで?」
「なんで……ってなんで?」
「いや、僕に聞かれても困るんだけど」
「え~一緒に考えてよ」
「もう、普通に考えればさ、お父さんの前にマリアが邪魔だったんじゃないの」
「どういうこと?」
「だからさ、お父さんがいなくなれば、後は誰も邪魔する人がいないんでしょ。だから、最終的に家の乗っ取りが目的なら、最終目的はお父さんの排除でしょ。だから、その前に邪魔なマリアを追い出したんじゃないの」
「え? でも、お父様まで排除するってのは違うんじゃないの?」
「なんで?」
「なんでって……なんで?」
「もう、とにかくさ。今はマリアがいないから、ゆっくりお父さんをどうにかして排除しようとしているんじゃないのかなと思うんだけどね」
「なら、早く行かないと! ナキ、何をしているの!」
「いや、マリアがまだって言ったじゃん」
「……いいの! とにかく行くわよ!」
「その格好で?」
「あ……」
マリアに父親のところに行かないのかとナキが確認すれば、まだ心の整理が出来ていないのかもう少し待ってと言われる。だが、ナキは早目に会った方がいいと
ナキはそれに対し父親を排除する為に邪魔だったマリアがいない今が、一番いい頃合いだろうからだと話すが、マリアはそれに対してもまた意味が分からないと聞き返す。
マリアは自分を売り飛ばした奴隷商も今頃はキュサイの街に辿り着いている頃だろうと思う。そしてマリアを途中で囮として棄てたことがジョセフィーヌにバレるのは時間の問題だろうと。だとしたら、まだ父親にまでは報告が上がっていないだろうと考える。
マリアは意を決した顔になり、ナキに行こうとお願いすると、ナキは「うん、行こう」と頷く。
ナキは自分達が乗っている結界をゆっくりと降下させながらゴリアテ伯爵のいる建物へと近付ける。
「いた!」
「あの人がそうなの?」
「うん! 私のお父様よ」
「じゃあ、ちょっと待ってね。先ずは周りに人がいないかを確認して……うん、大丈夫そう。じゃあ、次は……」
ナキはゴリアテ伯爵の執務室へと結界を近付けると、窓ガラス越しに部屋の中にいるゴリアテ伯爵が本人かどうかをマリアに確かめると、次はマリアと対面させる為に周りの様子を確認する。
執務室の中でゴリアテ伯爵は窓の外にいるナキ達に気付きもせず、机の上に置かれた書類に目を通していた。すると、執務室の扉が開かれジョセフィーヌと思われる女性と、その後ろからメイドがワゴンを押しながら執務室の中へと入ってきた。
「あなた、そろそろ休憩されてはどうですか」
「ああ……そうだな。ん~」
ゴリアテ伯爵は書類から目を離し、軽く眉間を揉んでから思いっ切り伸びをする。
「じゃあ、お願いね」
「はい……」
ジョセフィーヌに促されたメイドがカップに紅茶を注ぐが、よく見るとその手が震えている。
ナキはその様子にどこか違和感を感じて鑑定を行うと「あ!」と思わず声に出てしまい慌てて口を抑え、そんなナキに対しマリアも「シッ!」と口元に指を当てる。だが、念の為にと不可視の他に防音も対策済みだったので、周囲に気付かれることはなかった。そのことをマリアに説明すると「先に言ってよ」と軽く怒られてしまう。
「で、なんで慌てたの?」
「アレだよ」
「え? 何?」
「アレ……微量だけど、毒物が入っている」
「ウソ!」
ナキの言葉にマリアは慌てて窓に近寄ろうとするが、ナキに止められ近寄ることが出来ない。
「なんで、邪魔するの! 離してよ!」
「だから、まだ飲んでないでしょ。それに多分だけど、お父さんも気が付いているよ」
「え?」
「だからね、あの紅茶に混入されているのは即効性の毒じゃなくて遅効性……なのかな。要は効果が出るまでは、相当な年月が必要になるヤツだから」
「でも、毒なんでしょ?」
「だから、僕もそう思ってお父さんを鑑定したけど、どうってことなかったよ」
「はい?」
「多分だけど、お父さんもあの
「なら、なんで……」
「え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます