第16話 だから、怪しいって言ったじゃん!

 マリアの「なぜ」は面倒臭そうなので、ひとまず置いといてナキはゴリアテ伯爵がジョセフィーヌを怪しんでいる証拠として窓の下を指差す。


「下がどうかしたの?」

「ほら、よく見てみなよ。あそこだけ色が違うというか草が枯れているでしょ。分かるかな」

「ん~確かに枯れているように思えるけど、それがどうしたの?」

「分からない。なら、今からお父さんがするのを見ていれば分かるよ」

「あ、そうだった。早く飲むのを止めないと!」

「だから、それは大丈夫だって」

「だから、なんでよ!」

「あ、ほら見てよ」

「え? え~っ!」


 ナキが見てよと言うと、ゴリアテ伯爵はお茶が注がれたカップを手に持ったまま椅子から立ち上がり窓に近付くと、その窓の下にカップの中味を棄ててから窓を閉める。


「ね、大丈夫だったでしょ」

「……なら、なんで」

「え?」

「あんなにあの女ジョセフィーヌを怪しんでいるのなら、なんでお父様は私が追放されるのを黙って見ていたのよ!」

「ん~それは僕には分からないよ。でも……」

「でも?」

「もしかしたら、どこかでマリアの身柄を確保しようと考えていたのかもしれないよ」

「え?」

「だって、最初は奴隷商に売る話はなかったんでしょ。多分だけど、歩きなり馬車なりでこの街から出ていく予定だったんじゃないの?」

「そうね。確かにそのつもりだったけど……知らない内に拉致されたし」


 ナキの説明でなんとかマリアも落ち着いたみたいだけど、ナキはジョセフィーヌが何を考えているか分からないので助言アドバイスのしようがないが、今は恐らく答えを知っているであろうマリアの父親であるゴリアテ伯爵が目の前にいる。だからナキはマリアに今から父親の前に姿を見せることを伝えればマリアは急に焦りだし「私、大丈夫だよね?」と何が大丈夫なのかは分からないが、ナキはうんうんとだけ頷く。


「じゃあ、行くよ。皆もいいかな?」

「「「は~い!」」」

「じゃ、行くね。『転移』!」


 ナキはこれだけの人数がゾロゾロと窓から入るのは如何にも怪しく下手すればゴリアテ伯爵が騒ぎ出すと思い、先ずは姿を隠したままで皆で転移することを選択した。


「まだ静かにしててね」

「分かったわよ。ここまで来たんだもの。ガマンする! でも、なるべく早くね」

「分かったから」


 ナキは目の前のゴリアテ伯爵に会話が聞こえないように自分達を覆っている障壁の防音性能を信じつつ、小声で会話していたが目の前で何やら事務作業をしているゴリアテ伯爵に気配を感付かれまいかと内心ヒヤヒヤしている。


 ナキはスゥ~ハァ~スゥスゥと深呼吸をしてから、執務室の中全てを障壁で囲い、部屋の外に音が漏れないようにすると、マリアだけ自分達を覆っている障壁から出てもらう。


「お久しぶりです。お父様……」

「……!」


 聞こえるはずのないマリアの声が聞こえたことでゴリアテ伯爵がゆっくりと顔を上げれば、そこには追放したハズの娘が立っていたのに気付くが声が出ない。


「お父様?」

「……マリアか?」

「はい、あなたの娘のマリアです。お久しぶりです」

「……まさか……いや、確かにマリアの声だ。だが、その格好は? それにどうやってここまで?」

「お父様、私のこの格好がどうしてだか分かりませんか?」

「まさかとは思うが奴隷に身を落としたのか?」

「ええ、私の本意ではありませんが、一時ではありますが奴隷商に身を寄せていました。その理由はお分かりですよね?」

「……」

「本気でお分かりではないのですか?」

「いや。だが……まさかそこまでするとは……」

「お父様だってお気付きなのでしょう。だから、先程もお茶を窓から……」

「見てたのか!」

「ええ、そこまで怪しんでいるのであれば、何故私を庇うことなくあの女に好き放題させているのですか!」

「言うな!」

「いえ、言わせて下さい! お父様もお気付きの様に私はあの女に奴隷商へと売り飛ばされました。それがどういう意味かお分かりですよね?」

「……ああ」


 ゴリアテ伯爵はマリアの告白に眉を顰めて聞いていたが、自分の行動を見られていたことで、それを問われてしまえばマリアの疑問もしょうがないと嘆息する。


「私がジョセフィーヌに対し不審に思ったのは確かにお前に対し追放すべきだと私に強く言ってきた時だ。私は追放はやり過ぎだと反対したのだが、産まれたばかりの息子が可愛くないのかと言われてしまえば止めることは出来なかった。すまない……」

「ですから、私は濡れ衣だと何度もお父様に申し上げました! ですが、お父様は弟可愛さに私の言葉は聞き入れてもらえませんでした。どうして、私が弟の毒殺をしようとしたなどとあの女の狂言を信じたのですか!」

「すまない。確かにジョセフィーヌの言い分を一方的に聞いたように思えるかもしれない。だが、あのままお前をこの屋敷に留めておけば、いつかはお前が害されるかもしれぬ。それかお前に罪を負わせるためだけに息子に手を掛けるかもとしれぬと思った」

「私がそんなことをすると思っているのですか!」

「お前じゃない!」

「なら「聞け!」……はい」


 マリアはゴリアテ伯爵がマリアの異母弟である息子可愛さにジョセフィーヌの言いなりになりマリアを追放したと責め立てるが、当のゴリアテ伯爵はそれに対してはすまないと頭を下げながらも本意は違うと説明するがマリアの耳には素直に入らないようでマリアはゴリアテ伯爵に対し更に責め立てようとするが、ゴリアテ伯爵に一喝される。


「いいか。お前も息子も私の大事な子供だ。だが、二人がこの家に居てはやがてはどちらかが傷物、または亡き者にされると思った。だから、まだ乳飲み子の息子は屋敷に留めて、お前はこの領都から追放した後に手の者によって保護させる手筈だったのだ。まあ、今となっては信じてくれとしか言えないが」

「ナキの言った通りね」

「ん?」

「私はお父様があの女にいいように操られていると思ったんだけど、ナキは違うと言ったのよ」

「ナキ? それは誰のことだ? それから、お前がこうやって私の目の前にいることもまだ説明してもらっていないが、説明はしてもらえるのか?」

「……ちょっと待ってね。聞いてみるから」

「は?」

「で、どうする? もう、いいから出て来なよ。ほら、早く!」

「おい、マリア。お前は一体誰と何を……え?」

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防御魔法ってなんなの! と思ったけど、使ってみるといろいろと優秀でした! @momo_gabu

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