ep9 特別な武器
「そう言えば探索者の試験受ける時に『ダンジョンのモンスターに銃火器は効かない』って習ったけど、あれって嘘だったのー?」
帰り道、七規からの問に俺は首を横に振る。
「いや、その認識は正しいよ。
「じゃーそれは?」
「よくぞ聞いてくれた!」
「せんぱい、聞いて欲しそうにしてたもんね」
「……顔に出てた?」
「出てた、かっこよかったよ」
「そ、そうか」
ううむ、いかん。
調子が狂う。
いくら彼女が好きなのは俺の強さだと理解していても、その容姿はとんでも美少女。
心臓がドキドキしてうるさい。
「それで、その銃はなんで効くの?」
「あ、あぁそうだったな」
俺はこほんと咳払いしてから話し始める。
「それはだな、この銃がその『一部の例外』の一つだからだ! 今はもう亡きドイツの魔石加工職人クリストフ・シュヴァルツコップにより制作された七つの魔石式銃器の一つ……その名も上下二連式魔石銃『No.3サファイア』だ! サファイアは魔石式機構と呼ばれる特殊な機構で動き、所有者の魔力を弾丸に変換! その威力はモンスターを容易く葬り――」
「……」
と、熱くなり始めたところでぽかんと開ける七規に気が付いた。
「す、すまん。熱くなった」
「んーん、好きなことになると早口になるせんぱいもかっこいいよ」
「それは流石に恋に盲目過ぎない?」
「えー、そうかなぁ? まぁ幸せだからいいけど」
「七規がそれでいいなら構わないが……」
頷きつつ俺は七規に目配せ。
「? どーしたの? 付き合ってくれるの?」
「いや、そうじゃなくて……ほら、値段とか聞いてくれないのかなーって」
「普通そう言うのは聞かない方がいいと思うんだけどー」
「そりゃそうだけど……正直今まで誰にも自慢出来なかったからしたいと言うか……すまん、お前の憧れをことごとく壊すようなせんぱいで」
「別にいーよ。それくらいで憧れは壊れないし、憧れだけでせんぱいが好きな訳でもないから」
「そ、そうなのか?」
「うん! だから、今までせんぱいが一人で頑張ってた分、これからは私が相手になってあげるねっ♡」
「七規……!」
無表情ながらに優しい目を向けてくる七規。
そこに嘘偽りは感じられない。
どうしよう、惚れちゃいそうだ。
むしろ惚れてるかもしれない。
「それで、その鉄砲はおいくら万円だったの?」
「っと、そうだった。ふふふ、聞いて驚くなかれ! なんと先代の持ち主がダンジョン内で亡くなったとかで、その遺族が回収費込みで破格の値段で売りに出したんだ! その価格なんと――7260万円!!」
「安い!!」「高いっ!」
正反対の声がダンジョンにこだました。
「「え?」」
互いに困惑した様子で顔を見合わせる。
「い、いや、安いだろ? 世界に七つしか無い最強の武器の一つだよ?」
「でも7000万はさすがに高すぎるよー!」
「こ、これがあれば大半のモンスターは簡単に倒せるし、そう思えば――」
「いや、高いよ。せんぱいまだ高二なんだよ? 石油王の息子みたいな金の使い方してるの自覚してる?」
「……っ! 言われてみれば」
いくら仕事道具だからといって高すぎただろうか?
でも、別に稼げない額ではないし……。
それに実際Aランク指定のモンスターであるゴブリンキングを遠距離からワンパンする性能は破格だ。
まぁ、魔力はごっそり持って行かれるが。
「そんな荒いお金の使い方、お嫁さんとしてはちょっと未来が心配かも」
「おっと、ナチュラルに距離を詰めてきたな」
「嫌だった?」
「そんな上目遣いで聞かれて嫌と言えるわけ無いだろ……っ!」
「えへへっ、せんぱい好きだよ」
「ぐぬぬ……」
そうしてからかわれつつも、俺たちはギルドへと帰還するのだった。
§
「疲れました」
「お疲れ様。七規ちゃんはどうだった?」
地上に帰ってきた時には既に夜遅かったので、俺は七規を家に送り届けてから一人でギルドにやってきた。
「んー、実力はいい感じだと思います。C……いや、努力次第でBランク探索者も夢では無いですね」
「わひゃ〜、それは凄い」
「因みにもっと凄い人が目の前にいますよ?」
「うんうん、そうだねー。今日の報酬もいつも通り口座に振り込んでおけばいい?」
「華麗なスルー、泣きますよ? 俺の分はそれで。七規のは……現金のが良いですかね。実感を持たせるって意味で」
「そう。それじゃあ手続きしとく」
「お願いします」
松本さんにお礼を告げて、俺は家に帰ることにした。
§
結局俺は七規に告白することは無かった。
よく分からないと言うのもあるが、何より『内面を見て好きになって欲しい』と言いつつ俺も彼女のことを何も知らなかったからだ。
その状態で付き合うのは不誠実だし、何より身体目的みたいでなんか嫌だ。
そう、俺はそこら辺のチャラ男とは違う。
ちゃんと相手を見て恋愛するタイプのモテ男なのだ。
別名チキンとも言うが知らん。
そんな感じでウダウダ考えながら家に帰ると黒髪パーマのおばちゃんが出迎えてくれた。
「おかえり、創ちゃん」
「ただいまです。南野さん」
南野さん(45歳)は俺が雇っている世話係さんである。
昼夜問わずダンジョンに駆り出される俺は現在親元を離れて一人暮らしをしているのだが、掃除洗濯料理何も出来ない。
そこで雇ったのが彼女という訳だった。
Theおばちゃん、の南野さんだが、家事は完璧。
料理も絶品である。
「晩飯はなんですか?」
「今日は石焼ビビンパに挑戦してみたのよ〜! いい感じに出来たからどうぞ」
「……こ、これは!」
どうしよう。
滅茶苦茶に美味そうな料理がでてきた。
試しに一口食べて見ると、香ばしさとピリ辛がマッチしていて絶品。
「あぁ〜一生南野さんの料理食べて生きて行きた〜い!」
「んもう、私結婚してるからダメよん」
「くぅ〜もう少し早く生まれてたらなぁ〜」
なんて話していると、ふと南野さんのスマホが着信を知らせる。
「ちょっとごめんね〜」
電話に出た南野さんは「もしもし〜、うんうん……それで? うそっ!」と大きな声を出す。
「何かあったんですか?」
「どうしよお義父さん……だ、旦那のお父さんが倒れたらしくて」
「えっ!? 大丈夫なんですか!?」
「命に別状はないみたいなんだけど、介護が必要らしくて……それで、仕事辞めて私に頼みたいって、旦那が」
「……っ!」
それ即ち、もう南野さんの料理が食べられないと言うことなのでは?
石焼きビビンパが最後の晩餐なのでは?
……本心を言うのなら行って欲しくない。
でも、問題は家族のことだし、南野さんが仕事を辞めるのを止める権利は俺にはない。
雇い主として見れば阻止できるが、一人の知人として彼女の意志を尊重したい。
「南野さんはどうしたいんですか?」
「色々お世話になった人だし、出来たら助けてあげたいけど……でも……」
「俺は何も言いませんので、南野さんが決めてください」
「そう、わかったわ。今日はもう帰るから、追って連絡するわね」
「はい」
そう言って南野さんは帰って行った。
一人になった部屋。
俺は窓から夜空を見上げて星々に願う。
頼む、頼む辞めないでくれ!
ごはんもっと食べたい!
しかし、そんな思いも虚しく翌朝正式に辞めるとの連絡が来た。
引き継いで別の人が来るらしいが、彼女の料理が食べられなくなるのはやはり残念である。
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