住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?

赤月ヤモリ

ep1 過疎ギルドの探索者

 高校二年生の春。

 俺こと相馬創そうまはじめは探索者ギルドで嘆く。


「休みをください……っ」


「……えーっと」


 困惑の表情を浮かべるのは職員である松本さん(32歳人妻)。絶世の美女と言っても差し支えない彼女に、俺は続ける。


「休みが欲しいんです」


「一応理由を伺っても……?」


 理由?

 休む理由だと?

 そんなのひとつに決まっている。


「疲れたからですよ」


「ん〜」


「俺まだ高二ですよ? なのに毎日毎日朝からダンジョン探索の依頼で呼び出され、帰宅するのは深夜! ……今週、何回学校に登校できたか知ってます?」


 松本さんは頬に手を当て、困ったように答えた。


「ん〜、二回?」


「一回ですよ! 何ちょっとサバ読んでるんですか! 知ってるでしょ!?」


「でも相馬くんぐらいの年齢なら『学校とか行きたくない〜』ってなるもんじゃないの?」


「そりゃちゃんと通ってたらそう思うこともあるかもしれませんが、週一登校ですよ? クラスメイトの名前すら覚えてませんよ」


「もしかして学校でぼっちなの〜?」


「人生でぼっちなんだよ! あー! もう! ふざけないでちゃんと聞いてくださいよ! 俺だって普通の青春を送りたいんですよ! 彼女とか欲しいんですよ!」


「えっ!? 相馬くん彼女居ないの!? いがーい、モテそうなのに」


 目を見開き驚く松本(もう敬称など付けん)に、俺は首を横に振った。


「いや、モテますよ?」


「え?」


「モテまくりに決まってるでしょ? だって俺、探索者の上位0.1パーセントって言われてる『Aランク探索者』ですし、去年の年収は8,000万越えてますし、そりゃあもう、モテるに決まってるでしょ?」


「じゃあどうして彼女作らないの?」


時間じ・か・ん! が無いからに決まっているでしょう!? 彼女作っても会える時間ゼロじゃ適当なチャラ男に寝取られるのがオチに決まってますよ!」


「そんなことは無いと思うけど」


「俺は物知りなんだ……そういう漫画を何冊も読んだから……俺は、松本さんの知らない男女のアレコレについても詳しいんだ……」


「既婚者に男女のアレコレを説くとは……そこまで人との交流がなくなっていたのね」


「なんで今憐れみの視線を向けてくるんですか、失礼な! ともかく、そんな訳で休みが欲しいんですよ!」


 バンッとギルドの受付カウンターを叩く。

 しかし彼女は一切動じた様子を見せない。


 それもそうだろう。何しろこのやり取りは既に十回以上繰り返されているのだから。故に返ってくる答えも知っている。


「でも、こんな田舎じゃ相馬くん以外に探索者なんて居ないのよねぇ」


 ほらこれだ。

 彼女は話を逸らすように続ける。


「……あ、知ってる? 東京の方じゃダンジョン配信者・・・・・・・・のおかげで探索者爆増中なんだって!」


「だから何ですか!? 知ってますよそれくらい! 俺だってそれで探索者の試験を受けたぐらいなんですから!」


 今思い返しても後悔しかない。


 それは三年前の夏。


 当時中学二年生だった俺はダンジョン配信者【のの猫】に夢中になった。俺も探索者になって活躍して、あわよくばなんて気持ち悪い妄想をして、何も考えずに探索者の資格試験を受けたのだ。


 結果は合格。

 そして地獄が始まった。


 俺の住む地元【三船町】は超がつく田舎であるが【三船ダンジョン】と呼ばれるダンジョンが存在した。探索者は基本的に任意でダンジョンに潜り、モンスターを倒して魔石や素材を回収、売買して生計を立てている。


 しかし、ダンジョンに異常・・があった際は別。

 手の空いている探索者にギルドから依頼が出されるのだ。


 本来なら複数人で対応する案件であるが、三船町やその周辺の町で探索者の資格を持つのは俺だけ。


 そして始まる仕事漬けの日々。


「根本的に人手が足りないんですよ! 補充をかけてください!」


「うーん、申請はしてるんだけどね〜。ほら、相馬くん優秀だから、上も『今できてるんでしょ? なら大丈夫!』って判断みたいで」


「できなくなった時は死んでんだよぉぉおおおおお!!」


「そうなんだけど……って、あっ」


 徐に松本さんが手元のパソコンに視線を落とす。


 そして気まずそうに顔を上げた。


「その、言い辛いんだけど仕事よ……」


「そん、な……」


 がっくしと膝を折る俺に、松本は追い討ちをかけるように仕事内容を語った。


「検知器が三十六階層で異常な魔力反応を検知したみたい……最悪の場合、モンスターが外に溢れて【デスパレード】になる可能性もあるし、調査及び原因排除の依頼です」


「ぐぬぬ……」


 そう言われては拒否などできない。

 かつてアメリカのダンジョンでデスパレードが発生した際は街が二つ地図から消えた。


 人命が掛かっているのに自己を優先できるほど、俺は薄情になれなかった。


「ぐぅ……うぅ、分かりましたよ! やればいいんでしょう!? その代わり、もう限界です!! 近日中に最低でも一人……やっぱり二人! 優秀な・・・人手の補充をお願いします! 優秀! これ大事ですよ!?」


「うん、……まぁ、一年前から方々に募集は掛けてるんだけどね」


「くそう、くそう! いってきます!」


「うん、いってらっしゃい。気をつけてね」


 そうして俺は、心配気な笑みを浮かべる松本……さんに見送られながらダンジョンへと向かうのだった。




―――――

ゆるりとやっていきます。

第一章は完成しているので毎日投稿予定。

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※デスパレード。desperateとdeath/parade(死の行進)をかけて作られた言葉。モンスターが外にあふれ出してとんでもないことになるらしい。

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