第3話

眠っている二人の様子を時折見ながら、持ってきた食材で食べやすそうなスープを作る。間違いなく、高位貴族だと思うので私が最初に毒味をする必要があるだろう。小屋に備蓄をこれでもかと言うほどにしておいてよかった。こんな時に役立つとは。


「さて、こんなものかな」


魔法で出した水を、少なくなっていたボトルへ入れ替えて、また彼らの側に置く。そして続けて傷の具合も見て、包帯を交換したり薬を塗ったりと世話をする。


「危険な状態は、脱したか」


保護した時は、寒さもあってか非常に危うい状態だったけれど、今は安定した呼吸音がしている。今日が峠です、と言ったことにはならなさそうで安心した。


「少し、楽になってくれるといいのだけれど……」


二人の額の汗を拭い、適切な温度に保てるように部屋の気温を維持する。彼らに使っているのは魔法薬。薬草を使って作る薬は、作成過程で魔力を流し込んで作るから、魔法薬になる。この魔法薬も怪我を癒すのに大きな力になっているはずだ。


使っている魔法薬、もちろん小屋に備蓄しているものなのだが、森ではたくさんの薬草が手に入る。それらを使って量産しておいたのだ。私も、ここに置いている魔法薬にお世話になることがあった。


継母もカミラも気に食わないことがあるとすぐに、手が出る。でもそれは二人に限ったことじゃない。伯爵である父もそうだ。父は継母とカミラには優しいが、私には手も足も出る。使用人には怒鳴るくらいなのに、私に対してだけそうなのだ。


そんな環境にいれば怪我をすることも多くなる。必然的に魔法薬を作ることは私にとって必須項目になっていた。いつか社交界に出ることになれば、どこかに残るような傷があっては将来に不利だ。そういう理由もあって、魔法薬を作るようになったのだけれど、残念ながら今のところは社交界へ行くことはない。


きっと、私は社交界にデビューもさせてもらえないのだろう。煌びやかな場所であることは、継母とカミラのドレス姿でわかるし、父も上質な衣服に身を包んでいたので、格式高いところであることもわかる。


いつか行ける日が来るといいな、とは思っていたが、十七にもなって行かせてもらえていないということは、そういうことなのだ。貴族にはよくある婚約者だって、決まっていない。おそらく、他の貴族には私の存在が知られていないのだろう。


そうでなければ、縁談が来ない理由がわからない。貴族というものは小さいうちからいろいろなものを背負わされている。そのうちの一つである婚姻が、私の元へ来ないということは、他家に対して存在が秘匿されているか、醜聞が広がっているかのどちらかだ。


「そう、いえば……全然、寝てなかった、なぁ……」


朝早くに森での用事を言いつけられて、その前の日は遅くまで別の雑用を言いつけられ、今思えば数時間しか眠っていない。睡眠時間が短いのはいつものことだが、このまま起きているのは私の体力的に持たない。


少しくらいならいいか、と思い扉に身体を預けて眠る。そうすれば、誰かが来たとか出ようとしているとか、わかるから。


気を張っていたこともあって、すぐに眠りに落ちたのだった。


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