第13話
私の着替えが終わった頃に迎えに来たレイフ様も、部屋にいた時とは違い少し服が変わっていた。先ほどの服装よりも暖かそうだったので、外は寒いのかな、なんて勝手に考えていたら、あっという間に庭へついていた。
「わぁ……すごい……」
エインズワース伯爵家の庭など比べ物にならないほどに美しい庭。アルムテア帝国も季節は冬であるが、草木や花が少ない冬を楽しめるような作りになっている。噴水なんかもあって、水が凍って氷柱になっていて。でも逆にそれも風情があっていい。
「アルムテアはリリム王国よりも北に位置するから、あちらよりも寒いんだ。帝都は君のいたエインズワース伯爵領に近い……とはいっても、やはり寒いな。まだこちらは少ない方だが、ウェイン公爵領はもっと雪が降る」
「そう、なんですね……あ……」
「どうした?」
「あの鳥は……?」
「ああ、冬は南部に移動する鳥だ。珍しいな、このあたりでは見かけない鳥なんだが……」
「わっ……大丈夫? 寒くない? 君は冬は暖かい場所に行くのでしょう?」
こちらを見るように木に止まっていた美しい模様の鳥は、アルビスというらしい。寒くなると暖かい南部へ移動するので、冬の帝都で見ることはない鳥だそうだ。アルビスは急に飛んだと思ったら、私の肩へ止まった。
人懐っこい鳥なのだなぁ、なんて思って話しかけてみると、クーキュ、クィ、と首をかしげながら鳴いた。その姿はとても愛らしくて、自然と笑顔になる。
「どこかで、飼われているのかもしれませんね。この子、とても人懐っこいから」
飛ぼうとせずにずっと肩にいるアルビス。人懐っこいので、どこかの家のペットかもしれない。
「そう、かもしれないな」
「レイフ様……?」
ぎこちない返事の彼に、不思議に思ってアルビスから彼の顔へ視線を移す。ぎこちないのは返事だけではなかった、顔も少しというか結構強ばっている。
「ユーニス。アルビスという鳥は、アルムテアではとても特別な鳥だ」
「え……?」
「アルビスは、アルムテア初代皇帝を見出したとされる、神の御使いと言われている。そしてアルビス自体、個体数が少ないこともあって、今でも特別視された存在。それに自然に生きる彼らは、決して人間の側に寄ることはないんだ。彼らが巣を作るのは山の中、人が立ち入れないほどに深い場所。季節ごとによって場所を移動することはあっても、これほど近くには寄ってこない」
「そ、そうなんですか……?」
「飼われているかもしれないことは、否定できないが……ユーニス、エインズワース伯爵領の森でもいい、何でもいいから教えてもらいたい。自然の動物が近寄ることはあったか?」
途中で言葉を切ったレイフ様は何かを考えこんで、重そうに口を開いた。森の中に入ることが多かった私は、すぐに返事をしようとして、止まった。
それは、お母さまと約束した隠すことの一つだったからだ。
「あ……」
『ユーニス……あなたは神の子なのでしょうね……。でもね、そのことは誰にも言ってはいけませんよ。悪い人間に悪用されてしまうかもしれませんから。これは、あなたを守るためのお母さまとのお約束ですよ』
ベッドの上で横たわる、日に日に痩せていくお母さまとした約束。神の子、と言ったお母さまの顔は悲しそうだった。私の将来が不安だと、そう心配していたのが今ならわかる気がする。
「誓って、君のことを悪用しようなどとは考えていない。嫌がるようなことも何かを強制させることもしないから、教えてほしい」
「……母と、約束をしました。前から、森に行くとみんなが遊びに来てくれて……その……お腹が空いていたら、木の実とかを分けてくれたりもして……。けど、母はそのことは隠しなさい、と言いました。悪い人に悪用されてしまうから、自分を守るためにも隠しなさいと」
「……ありがとう、教えてくれて。たしかに、君のお母上の言う通りだ。リリム王国では、隠したほうがいい、間違いなく」
強く言い切った彼は、続けてこう言った。
「ユーニス、俺は君が好きだ。あの日、一生懸命に俺たちを看護してくれる姿に一目ぼれだった。たった一日たらずで、話もほとんどできなかったが、それでも俺は、君を好きになった。どうか、俺の側で一緒に生きてほしい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます