第14話
「わ、わた、し……」
「答えは今すぐじゃなくていい、ゆっくり出してくれたら」
「あ……」
まっすぐにこちらを見つめるレイフ様の瞳はとても嘘をついているようには見えない。私のことが本当に、その……好きだから守りたい、その意思を感じ取れる。
クーキュ、キュキュイ、レイフ様からの衝撃告白に意識が完全に外れていたが、そういえば肩にはアルビスが乗ったままだった。アルビスは何かを伝えようとしているように見える。私は、なんとなくこの子が勇気を分けてくれているように思えて、正直な気持ちを伝えてみようと思った。今までは、隠さなければならなかったけれど、好きだと伝えてくれている人にまで自分の思いを、感情を、隠す必要はないようにも思うから。
「……あ、あの!」
「ん?」
「わ、私は! う、嬉しかったです。初めて普通に話をしてもらえて、ちゃんと私を見てもらえて。だから、少しだけ待っていてくれ、ますか……?」
「ああ、待つ。どんな答えだったとしても、君のことを」
「ありがとうございます」
彼のミッドナイトブルーが、嬉しそうに垂れた。自分の気持ちを隠さなくてよかった、伝えようとしてよかった。勇気をくれたこの子には感謝だ。相変わらず肩にいるアルビスはのんきに毛繕い中だ。
「にしても……本当にこのアルビスは人に馴れて……ないな」
「あ……はは……どう、してですかね?」
「君を気に入ったようだな、この様子だと」
人に飼われている可能性が高かったが、触れようとしたレイフ様の手に気づいたアルビスは、毛繕いをやめて急に威嚇してるような声をあげた。それによって、人に馴れている、という可能性が低くなってきたのは言うまでもない。
「レイフ様……少し、いいですか」
私は和やかな雰囲気の流れる今を切り替えるように、話題を転換させる。どうしても聞きたいことがあったから。
「どうした」
「私はエインズワース伯爵家で今、どういう扱いになっているでしょうか? その、勝手にいなくなってしまったから……探されているとは思いませんが、何か情報はありませんか?」
「ああ、それならつい先日、俺たちがいた森で魔物が大量発生したらしい。伯爵領は現在、魔物の掃討に尽力を尽くしていると言うが、状況は思わしくないと聞いている」
「魔物の大量発生? 一体、なぜ……」
私は、森の管理をしていた際に、魔物が増えたり、人里に下りてこないように魔物除けを施していた。その対策が今も変わらずあるのならば、小屋を中心にした魔方陣で抑え込めているはず。それが何らかの理由で破壊され、抑え込んでいた魔物を放ってしまったということだ。
「まさか……あの、小屋は……あの小屋がどうなったかわかりませんか?」
「……破壊されたと聞いている」
「は、かい……」
あの小屋には守りの意味も込めて結界魔法だってかけてあった。それを破って破壊するだなんて、魔物がやったのだとしたら、それは尋常じゃない強さだ。人間が破ったとしてもなかなかだけど、それ以上に魔物の脅威の方が高い。
「ユーニス、何か知っているのか?」
「……小屋を中心とした、魔物除けの魔法を構築していました。小屋を破壊すれば、当然その魔法も壊れてしまいます。今回の魔物が大量発生したという原因の一つは、その小屋の破壊によって魔法が壊れたことも、あるかと」
「そう、だったのか……。それから、エインズワース伯爵も伯爵夫人も、君の義妹も、誰も君を探してはいないようだ。報告によると、今回の魔物の件で死亡届が出されたとも聞いている」
「わかり、ました……」
どうにかこうにか、何かの力が働いて小屋は破壊され。それに伴って、組み込まれた魔法も壊れ。結果的に魔物がわんさか出てきたので、これ幸いとそれに巻き込まれたとして私を死亡扱い。うん、なかなかに素早い処理だ。
クズだクズだとは思っていたけど、ここまで来るといっそ清々しい。しかも魔物の被害で死んだとなれば、遺体がなくても怪しまれない。やっぱり、私はあの家で必要とされる存在ではなかった。お母さまはいつか幸せになれると言ったけれど、いつまでもあそこにいたら逆に殺されていた可能性だってある。
「大丈夫か、ユーニス」
「はい、なんだか……逆にスッキリしました。私は……どんなに頑張っても、必要な人間ではなかったのですね。全く期待していなかったと言ったらウソですから、正直少し辛いと思います。でも、これで関係性がなくなったのなら、それはそれで自由になったからいいというか、なんというか……」
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