第15話

伯爵領で被害にあった人たちまで、どうでもいいとは言わない。今も戦っている人たちの事だって、心配だけど。私のことをそこまで、必要としないのであれば、私だって彼らにすがる必要はない。


「ユーニス、無理はするな」


「はい……」


「そういえば、温室がまだだったな。こっちだ」


肩で落ち着いたアルビスも連れて、レイフ様の後に続く。案内された場所は、庭と同じくらいの広さを誇る温室。中では、庭にはなかった色とりどりの花たちが咲いていた。


「ここは、魔法で気温調節や水温調節をしている。だから、冬でも季節外の花が咲く」


「綺麗ですね、ここも。あっ」


温室へ移動したことで、気温が温かくなり、肩にいたアルビスが飛び立つ。なんだか嬉しそうに温室内を飛び回っていて、楽しそうだ。美しい模様の身体、それに加えて羽の色だって珍しい。どこにいてもアルビスは目立っていた。


「あの子、のびのびしてますね」


「そうだな、自由だ」


「ここで、魔法を使ってもいいですか?」


「別に、構わないが……」


自由気ままなあの子を喜ばせたくて、魔法の使用許可を取る。そして温かな温室内に氷の結晶を舞わせた。私の適性属性があるから為せるこの魔法は、まだ元気だったお母さまも珍しいと目を丸くさせていたものだ。


「氷の……結晶……」


「私は、風属性と水属性の魔法適正があります。そしてもう一つ、元々の適性属性から派生して氷魔法を操るのが得意なんです」


「俺とは反対だな」


「反対、ですか?」


「ああ、俺は火属性だ。ウェイン公爵家は代々、火属性の者が多く生まれる。俺も、例に漏れずそうだ。だから、公爵家の家紋は炎を纏った獅子が使われている」


そう言ったレイフ様は懐中時計を取り出し、その裏を見せてくれた。そこには細かな掘りで描かれた、炎を纏った獅子がいる。これが、言っていたウェイン公爵家の家紋だとすぐにわかった。家紋だけの模様なのに、たったそれだけなのに豪奢。


「まあ、火属性が多いってだけで、他の属性も生まれる。ウェインの当主が必ず火属性でないといけない、なんてこともない。ただ、たまたま初代ウェイン公爵が火属性だっただけだ」


「た、たまたま……」


「そう、たまたまだ」


カラッとした笑顔の彼に、つられて笑う。由緒正しいだろう公爵家の品物に、たまたまそうだったからその模様になっただけ、なんて言われてしまえば笑ってしまう。冗談というか、そういう面白いことも言える人だな、と新たな面を知れて嬉しい。彼は、笑うと少し幼くなるようだ。


「あ……おかえりなさい」


気が済んだのか、アルビスはまた肩に舞い戻ってきた。肩でくつろぐので、もうそのままにしている。レイフ様も気にしないことにしたらしく、私がアルビスと一緒に移動しても何も言わない。


さて、散歩にアルビスも参加したために、二人と一羽でまた来た道を戻るわけだが。やはり温室内が暖かったのもあって、外の庭はとっても寒い。肩にいるアルビスが気になって、首まであるケープに隙間を作ってやると、そこへ入り込んだので、寒かったようだ。


「ユーニス?」


「レイフ様、私はもうリリム王国にも帰る場所はありません。これから、どうしていけばいいのか……」


部屋に戻ってきたとき、ずっと考えないようにしていた言葉が零れる。いくら、レイフ様に保護されているとはいえ、私はその間何もしないわけにはいかない。ただ、彼のお世話になるなんて、私にはできない。


「まずは、君の身分を確保する。すでに後見人としてイアン殿下が名乗りを上げているし、殿下のことを救ってくれた恩人だと、皇家も名乗りを上げている。だから、身分を確保すると言っても、そこまで苦労はしないだろう」


「そ、そんなことに……」


私が生活するには、アルムテア帝国の身分が必要だとは思っていたけれど、まさか皇太子殿下が後見人の名乗りを上げているとは思わなかった。それに皇家も、同じようになっているなんて、過剰戦力すぎる気がする。これではアルムテア帝国内の有力貴族たちは、不満があっても私に逆らえない。


「過剰なくらいがちょうどいい。アルムテアは治安がいいが、外はそうではないからな」


「そ、と……?」


「ああ、リリム王国を含む諸外国だ。ユーニスが神の子だと知られれば、利益を得たい連中は群がるし、アルムテア皇家の後ろ盾もあるとなると、帝国と縁続きになりたい連中も来る。そのあたりは、イアン殿下もわかっているから、心配することはない。誰も、君を利用したりなんてしない」


「はい、ありがとうございます」


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