第23話
「それでは、失礼いたします。ユーニス皇女殿下」
「ありがとうございました」
皇女お披露目の時期が決まったので、日々ダンスの特訓や、貴族の知識だけでなく皇族に必要な知識を叩き込む。幸いにも、先生方は優しい人ばかりで、よく褒めてくれるのでモチベーションを維持できている。これでモチベーション維持が難しかったら、キツイ毎日だったのは目に見えている。
すでにお披露目はまだでも、通達は出ているので、私の教師である先生方は私を皇女扱いする。おそらく、そう呼ばれることへ慣れさせる名目もあるのだろう。最初は背筋がもぞもぞする感覚があって、変な感じになっていたが、今ではそう言うこともない。
「ユーニス様、少し休憩をいたしませんか?」
「アン……ありがとうございます。ちょうど、休もうかなと思っていました」
頃合いを見計らっていつも声をかけてくれるアン。彼女の間合いを読むスキルは、本当に素晴らしい。タイミングよく現れるので、実はどこかで見ているのでは、と思うこともしばしば。
「お茶をどうぞ」
変わらない優しい笑みのアンは、私が皇女だと先に通達が為されても態度を変えることはなかった。もちろんそれはこの屋敷にいる人たち全員もそう。変わらず私に接してくれるアンは、忙しくなった私のサポートを懸命にしてくれる。
「ユーニス」
「レイフ様!」
遠慮がちに部屋へ入ってきたのはレイフ様。彼も、皇女の通達以降とても忙しいようで、毎日のように手紙が届いているのだとか。内容はお茶会のお誘いが主らしい。ようは、みんな新しく迎え入れられた皇女が気になるってことだ。
「頑張っているな、教師たちが教えることがなくなる、と嘆いていたぞ」
「私にできることを、精いっぱいすると決めましたから」
「ユーニスらしいな。そうだ、これを渡そうと思ったんだ」
何か用事があってきたのだろうということは予想ができていたが、まさかドレスを持ってこられるとは思わなかった。お披露目では一緒に婚約発表も行うから、皇室ではなくレイフ様がドレスを選ぶことになったのだそう。
「父上も母上も、ユーニスにこれを使ってほしいと送ってきている」
先日、私が皇女として通達がされる直前にレイフ様のご両親である先代ウェイン公爵夫妻にもお会いした。レイフ様と一緒に会ったけれど、とてもよく似ているご両親で、私のこともすんなりと受け入れてくださった。
「これ、は……?」
「ウェイン公爵夫人になる女性が、婚約披露の際につけるネックレスだ。結婚式当日は結婚式専用のティアラもある」
「ゆ、由緒正しきお品……わ、私が使っていいんですか?」
「当然だ、君はもう公爵夫人になることが決まっているからな」
「あ……は、はい……」
代々受け継がれているのだと言うネックレスは、気軽に受け取っていいものではない思うが、次に使うのは私だから、と渡される。あまりにあっさりとしているので、そんなに簡単に渡していいものだったのかと戸惑った。
「ドレスは、お披露目も結婚式もどちらも作るからそのつもりで」
「は、はい!」
今日のご飯にも飢えていた私からすると、ドレスを仕立てるなんて恐れ多すぎる。しかし、今後は公爵夫人として立場がある人間になる。そのことを考えると、人前に出るときだけでもドレスを仕立てたり、一級品を使うことへ慣れる必要があると思った。普段着はシンプルにしてもらえたら、嬉しいけどね。
「次も、頑張れ」
「ありがとうございます、レイフ様」
そろそろ次の授業だろう、と退室するレイフ様に声をかけてもらう。少しの気遣いでも、私にとっては頑張る力になる。彼には支えてもらってばかりだ。
「私も、頑張らなくちゃ」
皇女お披露目まではそんなに時間がない。数多くの貴族がその日は集うことになる。もちろん、王都周辺に住まう貴族だけでなく、辺境の地を治める貴族も、他国の王侯貴族も来る。それまでに皇女として隙のない振る舞いを身に付けなければならない。
「大丈夫、だいじょうぶだよ」
母の教えは私のことをいつだって勇気づけてくれる。至らない部分を補うように、教えられたことは私をカバーする。そのおかげで勉強にだってついて行けるのだ。
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