第24話

「ユーニス、大丈夫だ」


「はい」


過密スケジュールの授業をこなし、先生方にもお墨付きをいただいて挑むお披露目。皇女としての顔見せと同時に婚約発表をするので、入場はレイフ様と一緒だ。


「この度は我がアルムテア皇室に新たな皇女が誕生した。名を、ユーニス・アルムテア。先代皇帝の娘、エルシー皇女の娘である。私の従妹でもあったエルシーは知っている者もいるだろうが、隣国リリム王国のエインズワース辺境伯家へ嫁いだ。しかし……」


名を呼ばれて、身に着けた美しい所作で礼をする。紹介されているのは私なので、レイフ様は私の斜め後ろに立ったまま。そのままお父さまは私とレイフ様の出会いまでを、感情をしっかりと込めて伝えて、私の婚約も発表する。


「この場で発表するのもいかがなものかとは私も考えたが、思いあう二人を引き裂くような真似は私にはできない。よって、ここにアルムテア帝国第一皇女、ユーニス・アルムテアとウェイン公爵家当代公爵、レイフ・ウェインとの婚約も発表する」


ついに、レイフ様も紹介されて私との関係性が告げられた。事前に通達で匂わせてはいたが、正式な発表ではなかったので、参加者の中には我こそは、と画策する者もいただろう。でも、こうして正式に宣言が出た以上、簡単に破棄することはできなくなる。


それこそ、皇帝であるお父さまが、言外に他人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られろ、と釘を刺しているわけだから、表立ってとやかく言う輩はいなくなるはずだ。


今回、リリム王国は招待されなかった。その意味がわからないほど、ここにきている招待客は馬鹿でも愚かでもない。その程度が理解できるのであれば、お父さまも言外に含めた言葉の意味も、正確に理解ができる。


「ユーニス、私と踊っていただけますか」


無事に私が皇女としての顔見せを終え、今はもう舞踏会となっている会場。皇族の一員となった私は、ファーストダンスを婚約者であるレイフ様と踊った。次は誰と踊ることになるか不安に思っていると、シリル兄さまにダンスを申し込まれた。


「喜んで」


微笑むシリル兄さまの手を取り、会場の真中へ歩き出す。さすが皇子として教育を幼い時から施されていただけある。私の付け焼刃程度しかないダンスの技術を、さりげなくカバーして何事もないように見せてくれる。


「ユーニスはダンスが上手ですね」


「私はまだまだです。シリル兄さまのダンスがお上手だから、私もこんなに踊れるだけ」


「はは、ユーニスは本当に謙虚だ」


談笑しながらダンスをするなんて、そんな余裕は私だけならなかった。シリル兄さまのリードがあってこその余裕だ。


「次は、イーデン兄上で、その次はイアン兄上ですよ。始まったばかりですから、楽しんでくださいね」


「はい、シリル兄さま」


シリル兄さまからイーデン兄さまへと私のダンスの相手が変わる。イーデン兄さまも、普段はのんびりとしているがダンスは普通にできるらしい。国内トップクラスの騎士で、満場一致の元帥として選ばれているだけある。運動神経がいいので、こちらもリードが上手だ。私に難しいと思わせるような動きをしない。


「ユーニス、今日も可愛いねぇ」


「イーデン兄さまはカッコいいです。みんな、兄さまたちを見てる」


「あはは、まあそれはみんな目的があるからねぇ」


「その目的に関しては、何とも言えませんね」


「だよねぇ」


余裕を持たせるダンスをしてくれるイーデン兄さまのおかげで、シリル兄さまの時と同じように雑談を交える。たったそれだけの姿でも、私と兄さまたちの仲がいいことは伺えるので、私にも取り入ろうとする視線が多い。


「次はイアン兄さんだよ」


あっという間にイーデン兄さまとも踊り終え、最後に待っているイアン兄さまの場所へ連れていかれる。満を持して、という感じで出てきたイアン兄さまは、私を花開くような笑顔でダンスに誘う。


「さあ、ユーニス。俺とも踊ってくれるかい?」


「はい、イアン兄さま!」


イアン兄さまに今度は相手が変わり、クルクルと先ほどよりもテンポの速い音楽に合わせて踊る。三人とも踊る曲は違ったが、みんなリードが上手なので、どの曲でも踊りやすい。


「今日のドレス、すごく似合っているね。さすが、私たちの妹だ。可愛い」


「ありがとうございます、イアン兄さま」


「さて、このダンスが終われば、ユーニスも大変だな」


「やはり、そういうことですか」


「まあ、これだけ牽制したなら大丈夫だとは思うけどね」


「少し、やりすぎでは?」


「このくらいを飛び越えられなければ、レイフからユーニスを奪うことはできないからね」


「イアン兄さま……」


アップテンポな、ノリやすい曲。会場で踊っている他の組も楽しそうである。私が立て続けに兄さまたちと踊った理由がわかって、なかなか過保護だな、と思う。


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