第7話

あまり魔力の消費をしないように小さめの氷を出し、手で頬に当てる。本物の氷と違って、冷たさの調節がそれなりにできるから、皮膚に張り付くといったことはない。


「いっ……」


それでも急に冷たいものが肌に触れて痛みを感じる。痛みなんて認識してはいけないのに。


「明日には、出発するなら……せめて、これだけでも」


ぺたり、と床に座り込み窓を見やる。外は雪が降っていて、凍えるようなその空気が窓から入ってくる。小屋は厳重に魔法で結界を作っているけれど、もし彼らのことが知られたらと思うと心配だ。


「きっと、魔物が出ると分かっていて森を使うはず。それなら、これを使えば少しは出現率を抑えられる。役に立つといいのだけれど……」


ある程度、頬を冷やし終えると、私は明日二人に渡すための魔法石を取り出す。魔法石、と言ってもただの石ころで作ったものなので一度きりしか使えないもの。本来であれば宝石に魔法を付与することでできるものが魔法石、でもそれは石ころでもできるのだ。


宝石を使った魔法石と違って、一度起動すれば効果が無くなるまでは使えるけれど、無くなれば使えない。効果の持続時間も短いのが難点。でも、この森を抜けて隣国へ行くくらいの時間は稼げる。


私が森へ入るときにはいつも、この石ころで作った魔法石を持ち歩いていた。魔物を寄せ付けない魔法が付与された魔法石だから、効果がある時間は本当に出てこない。本をこっそりと読んで覚えた魔法の一つだ。身を危険から守るためには、こういった道具も必要。死に物狂いで覚えたのは懐かしい。


「……よし」


魔法石用に森で見つけていた石はまだ、付与していないものもある。それらにも一つひとつ、丁寧に魔法を付与して薄汚れた巾着袋に入れて。魔法の付与の際に魔力を込めすぎると、石が割れてしまうのでそれには注意を払って作業を続ける。


「ついでに、これも」


何とはなしに、もう自分では使うことはないだろうと思い、緊急事態のために持っていた結界魔法の組み込まれた魔法石も、予備を含めて三つほど入れておく。魔物除け、結界魔法、それぞれ身に付けられるように二つの巾着袋へ入れる。持ち主に危機が迫った時には、結界魔法の方は勝手に発動するし、魔物除けは持ち主の魔力が入り込んだ時点で起動する。


「どうか、二人の旅路が安全なものでありますように。無事に、帰ることができますように」


袋を握りしめて祈りをささげる。少しでも、二人が早く無事に、国へ帰ることができるように、私にでは願うことしかできないけれど。そもそも、こんな家からはさっさと出るに限る。居残っていたところで、ロクなことにはならない。


「雪が……止まないなぁ……」


しんしんと、というよりはもはや吹雪のようになっている外。轟々と吹き荒れる風と雪は、窓の隙間からも入ってくるので部屋は冷たい。


「夜明け前にはいかないと」


ここを出立するのは早いほうが良いはずだ。念のために、数日分の食料をあの小屋に持ち込んだのは正解だった。おそらく夜明け前に厨房へ行っても、食材は取ってこれない。結局、カミラに見られてしまったから意味はなかったかもしれないけれど、あの二人が食べられるものがあるなら、それでいい。


「……わた、し、は……」


薄い毛布をかぶり、自分の感情にふたをして目を瞑る。どれほど辛くても、心が悲鳴を上げていても、それに気付いてはいけない。気づいてしまえば、せっかく耐えてきた意味がなくなる。私は、上手に感情を隠せる子、そうでしょう、お母さま。


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