第30話
「これがいいです」
シンプルなデザインでも、一番目を引いたそれを選ぶ。結婚式のドレスは当然ながら白が使われる。装飾に一部ダイヤモンドなどが使われるが、このデザインは上品さが際立っている。
「わかった、さっそく連絡しておく」
「ありがとうございます、レイフ様」
仮に作ってもらって、試着。そこからまた手直しがあるのだそう。とても時間はかかるけれど、満足のいくドレスができるはずだと彼は言っていた。
「アル……」
クーキュ、キュイ
レイフ様は仕事があると言って、また部屋を出ていったので、今はアルと一緒だ。何とはなしに窓の外へ視線を向けると、アルが肩へ乗ってくる。まるで私の不安を感じ取っているかのようなタイミングだ。
「……まだまだ」
戦いは終わらない。おおむね、様々なサロンへの参加を経ても私という存在は、好意的な印象のようだが、やはり中には敵対心を持っている者もいた。その人たちの多くは、ウェイン公爵である彼が目的だった。私が邪魔なのだ。
「まあ、ね。私はぽっと出だものね」
突然、他国から連れてこられたうえに皇女、さらにはレイフ様の婚約者。角が立たないわけがない。すでに形成されている世界の中に後から来た私が、上に立つには大きな努力が必要になる。
リリム王国内のことはイアン兄さまに頼めるけれど、女性の戦場であるサロンは私にしか戦えない。そのサロンで権力も握っていたご令嬢の上に、突如やってきたのが私なのだから、彼女やその取り巻き令嬢たちが目の敵にするのも理解できる。
「上手く、片付けられるといいんだけど」
好意的に受け止められているとは言っても、私自身にはまだ何も功績がない。帝国のアカデミーに通って優秀な成績を残したとか、目にわかる実績は何一つないのだ。私が今から、全員が納得できる殊勲を立てなければ、いつまでたっても裏では認めてもらえない。誰にも何も言わせないものが、必要。
もうこの国に生きる貴族たちのやったことを、同じようにやってもそれが私の名声に繋がることは難しい。何か、特別なものがないと。先人を超えるのは、とても難しいことだけれど、それをなしえなければ私の立場が確立できない。
「皇族というステータスを持つに相応しい働き……」
貴族であるならば、孤児院などに寄付をすることがあるし、運営に携わることもある。皇族にしかできないこと、もしくは帝国で私にしかできないことをする。私の強みは何か、帝国の困難な課題は何か、両方から攻略すれば何かが見つけられるかもしれない。
「アルムテアは発展しているし、基本的に住みやすい国。影のある部分が少ないからこそ余計に、手が出しづらい。ならば、さらなる発展を目指してみる……? いや、もう少し帝国内に目を向けるべきね。表に出ないだけで、隠された部分が絶対にある」
一人で窓を見ながらつぶやく。こういう時、誰もいないのはありがたいことだ。集中していろいろと考えられるから。
「……視察。帝都はそれなりというか、だいぶ栄えているけど……地方は報告自体が少ないから実態はわからない。声をあげられない人たちもいるかもしれない……それに、みんなみんな、必ず職に就いて、家があるわけでもない。帝都というか、貴族の通る場所はそういうくらい部分が見えることはないけど、平民街になれば状況は変わる可能性も……」
このアルムテアが過ごしやすい国だったとしても、どこの王侯貴族も変わらない人は変わらないのだ。どれほどいい人が多くても、その裏に悪い人たちがいる。全てを掻い潜って悪さをする連中は、どこにでもいるのならば、私がその穴をふさぐ役割をする。国民の生きやすい国を作るのは、皇族の一員たる皇女として、貴族として重要な責務。
「イアン兄さまに相談してみよう。まずは身分を作ってもらって……皇宮の行政官のような立ち位置がいいな」
初めから皇女の身分を提げて視察したところで、隠されて終わる。それなら、隠して本当の姿を見に行くほうが良い。皇女や貴族位でなければ、本性を現す地方領主だっているだろうからね。
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