第13話 校外学習2日目②


 自分の心の中に言いようのない気持ち悪さを感じながらも朝食を食べ終えた僕は、校外学習2日目のメイン活動となる飯盒炊飯に取り組むこととなった。


「みんなでおいしいカレーを作ろう!」


「「おー!」」


 真島さんの呼びかけに元気よく内田さんと夏生が応じた。


「おーい! 来愛! 元気がないぞ! 大丈夫か!?」


 夏生がガシッと肩を組みながら僕に絡んできた。


「ああ、ごめんごめん……! 頑張ろうね! 今日も寝不足でボーっとしてた」


 僕は、嘘をついた。自分の中に真島さんからの罰ゲームアプローチを心地よく思っている自分と嘘告白をしてきた相手を好きになるなんてありえない、嘘は必要だが、人を傷つける嘘――嘘告白を許すなと言う自分の両方の声が頭に鳴り響いていて、それどころでなかったのだ。


「……ったく、料理中に寝るなよー」


「寝ないよ……」


 僕は、苦笑いをしながら言った。


「無理はしないでね……! 体調が悪くなったらいつでも言ってね」


 真島さんが僕に優しく微笑みかけてきた。


「……ッッッ!」


 女神のように優しく微笑みかけてくる真島さんに僕は、思わず顔を背けてしまった。


 まだ真島さんのことを好きだとかそんなことは認められない。しかし、心のどこかで真島さんのことを意識してしまっている自分を自覚し、今まで以上に気恥ずかしさを感じてしまう。


 自分が矛盾してしまっていて、うまくのみこめないが、僕が抱くこの矛盾した二重人格のような感情はおそらくどちらも真実なのだろう。


 僕は、直観でしかないがそう思った。


「上坂君、ほんとに大丈夫……? 顔もちょっと赤いけど……? 熱とかないよね……?」


 顔を背けた僕のことなど露知らず真島さんが僕に近づいて、僕の額に手を当ててきた。


 身体の熱がさらに上がるのを感じた。


「わっ……! すごく、熱いよ!? 大丈夫!?」


 真島さんがすごく心配そうな顔を僕に向けてきた。


「だ、大丈夫! 大丈夫だから……!」


 以前の感染症の流行のせいでみんな、熱が出ている人に敏感なため、僕は慌てて真島さんをなだめた。


「ああ、真島さん、大丈夫だぞ……! そいつ、ただ真島さんに……」


「余計なことを言うな……!」


 夏生が余計なことを言いかけたため、僕は、ぺしっと軽く夏生の背中を叩いた。


 そんな風にやり取りをする僕と夏生に、真島さんはきょとんとしていた。


「まあ、見ての通り元気そうだし、放っておいて平気よ」


 内田さんがきょとんとしている真島さんに言った。


「う、うん……! そう、みたいだね……?」


 真島さんが納得していなさそうな口調で言った。


「そこの男子2人ー。先生たちから必要な材料とか貰いにいくわよー」


「「あっ、はい……!」」


 内田さんの呼びかけに僕たちは声を揃えて応じた。


***


 調理器具や食材などが揃い、ついに飯盒炊飯が始まった。


 しかし――。


「痛っ!?」


 料理は任せて! と自信満々に調理係を買って出た、真島さんが大きな声を出した。どうやら、指を切ってしまったみたいだ。


 絆創膏は持参していたみたいで、真島さんは切ってしまった指にそれを張っていた。


「奈緒……。だから、あれほどやめておけと……。猫の手もできてないのに……」


 内田さんが呆れた顔をしながら言った。


「やっぱり、今からでも僕が変わろうか……?」


 僕は、普段から仕事で忙しい父親のために夕食のみならず、朝食も作っているため料理には慣れている。そのため、自分が適任だろうと思って、調理係に名乗りを上げたが、全く引き下がる様子がなかった真島さんに負けてしまったのだ。


「ううん……! まだ、頑張るから!」


 真島さんは未だに引く様子を見せなかった。


「はああ……」


 横で内田さんがため息をつくのが見えた。


 そして、2分後――。


「痛っ!?」


 再び真島さんが大きな声をあげた。


「やっぱり、変わろうか……?」


 僕は、苦笑いをしながら聞いた。


「まだ……。まだ、頑張る……!」


 真島さんは、ぐぬぬと歯を食いしばっていた。


「奈緒、いい加減にしなさい。ここは大人しく、上坂君に任せておきなさい」


 内田さんが真島さんの肩に手を置き、言った。


「はい……」


 内田さんから圧を感じたのか真島さんがしゅんとした様子で言い、ようやく引き下がってくれた。


 そして、そのまま、真島さんがトボトボとした足取りで僕の元に歩いてきた――。


「上坂君、後はお願いします……」


「う、うん。任せて……」


 上目遣いでこちらを見てくる真島さんにドキッとしつつも、グループワークをしているときはなるべく平静を装おうと決めた僕は、一瞬、暴れそうになった心臓を落ち着けた。いつまでも自分の感情に振り回されているわけにもいかない。


 そんなことを考えながら僕は、踵を返し、先ほどまで真島さんが使っていた調理場に立った。


 そして、包丁を手に取って、慣れた手つきでニンジンを切り始める。


「「「おお……!」」」


 真島さんたちが感嘆の声をあげた。


 なんか人に料理しているところを見られるのは恥ずかしいな……。


 僕は、いつも通りニンジンを切りながら思った。


「あ、そうだ……! 夏生と真島さん……! 2人でジャガイモを向こうの水道のところで洗ってきてもらってもいい……? 内田さんは、お米をといだりしてもらっても……?」


 円滑に調理を進めたかった僕は、3人に指示を出した。


「「「了解です! 料理長!」」」


 3人が声を揃えて言った。


 料理長とか恥ずかしいからやめてほしいな……。


 しかし、同時に、そうは思いつつも普段、あまり褒められることのない自分の料理スキルが評価されている気がして悪い気もしなかった。


「あはは……。お願いね……?」


 僕がそう言うと、3人は僕に頼まれた通り、各々の持ち場へ向かった――。


 















 


 




 


 

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