第2.5話 もう少しだけ頑張ろうかな……?(真島奈緒 side)
「はあ……。やっぱり告白なんてしなきゃよかったな……」
私――真島奈緒の呟きが日が沈みかけている中、グラウンドで練習を続ける運動部の掛け声に溶けこんでいく。
とぼとぼとした足取りで校門の方へと私は歩を進めていた。
そのまま歩き続けていると、告白の結果を聞くために、私のことを待っていた友達――内田りおんの姿が見えてきた。
りおんちゃんは、私がいつも学校でよく一緒にいる友達の1人で、私と同様に部活動をしていない。そのため、こうして放課後は、一緒に帰る約束をしている。
「あ! 奈緒! おかえりー!」
私の告白の結果を聞くのが余程楽しみだったのか、私の姿を確認すると、りおんちゃんは、すかさず大きく手を振ってきた。低めの身長な彼女が大きく手を振っている様は子供のようだ。
しかし――、
「って……。あれ……? まさか……」
いつもと様子が違う私に気づいたのか、りおんちゃんのぱあっと明るかった表情が一瞬で崩れた。
「うん……。振られちゃったよ……」
私は、いつも仲良くしてくれるりおんちゃんの顔を見て、気が緩み、思わず泣き出してしまった。
「ちょっと!? 奈緒、大丈夫!?」
突然、泣き出した私を前にりおんちゃんは狼狽えた。
「大丈夫……じゃない……」
嗚咽を漏らしながら私は、りおんちゃんに抱き着いた。
「まさか、こんなことになるとは……。ここじゃ、アレだし場所を移そう……」
りおんちゃんは、胸に顔をうずめる私の頭を撫でながら言った。りおんちゃんに頭を撫でられ、少し心が安らぐのを感じる。
「うん……」
少し落ち着きを取り戻した私は、りおんちゃんから離れて涙を拭った。
***
私が泣き止んだ後、私たちは、学校から歩いて15分くらいのところにあるカフェに来ていた。
「奈緒に告白されたら男子なら普通、喜んでって二つ返事をすると思ってたのに……。どうしてこうなった……」
りおんちゃんは、不可解だという顔をしていた。
「私は、絶対うまくいかないと思ってたよ!」
「……。最初に言いだしたの奈緒だからね……?」
「うっ……。それは……。その……」
私は、それを言われて返す言葉もなかった。
今日の昼休みにりおんちゃんを含むよく一緒にいるクラスメート数人とババ抜きをしていたのだが、みんなでただのババ抜きをするのではつまらないとなり、私は、ある罰ゲームを提案した――。
その罰ゲームが「好きな人に告白をする」というものだった。
私の周囲の友達たちは私の目から見て、皆、各々の好きな人たちと付き合うまで後、もう一押しだと思っていたため、きっかけになればいいなという思いがあった。
友達たちはみな、私の意図をくみ取ったのか、「いいね! そうしよう!」と言い、私の提案した罰ゲームが採用された。
しかし、結果は、私が5戦中5敗という見るも無残な結果となり、私が罰ゲームを受けることとなった。私が上坂君と進展が何1つないことを知っているため、りおんちゃんだけでなくババ抜きに参加していたみんなが、「罰ゲームは、やっぱりなしにしよう」と言ってくれた。
だが、私は、「言い出したのは私だし、罰ゲームの約束は破れないよ」と言い、上坂君に告白することにしたのだ。
参加していたみんなは、最初は心配しそうな顔をしつつも、だんだんと私の告白に好奇心が勝るようになったのか、放課後には、逃げるなよ? と言わんばかりに「罰ゲーム忘れないでね」などと、私に圧をかけるようになっていた。
そして、どうにか勇気を振り絞って、上坂君に告白をし、今に至る……。
そういうわけだ――。
「まあ、もう振られてしまったのはしょうがないとして、これからどうするの……?」
私が今日の出来事を回想していると、りおんちゃんが聞いてきた。
「それは……振られちゃったんだし、諦めるしか……」
私は、再び涙ぐみそうになりながら言った。
そんな私を見て、りおんちゃんは何か考えるような仕草をしていた。
「りおんちゃん……?」
「……聞き忘れてたけど、なんで振られたの……?」
りおんちゃんが傷をえぐるような質問をしてきた。
「えっとね、私のことよく知らないから付き合えないって……」
私は、再び溢れ出そうになる涙をこらえながら言った。
すると――、
「なるほど……。それじゃあ、まだ勝機はあるんじゃ……」
何やら、りおんちゃんがぶつぶつ呟き始めた。
そして、しばらく何かを考えこんだ後、顔を上げて言った。
「よし、奈緒、明日から毎日最低2回は、上坂君に話しかけよう!」
「――えええええええ!?」
私は、店内であることを忘れ、大きな声を出してしまった。
周囲からの視線を一身に集めた私は、ハッと我に返り、「すみません……」と周囲の人たちに会釈をした。
「どういうこと……?」
私は、声のボリュームを抑えてりおんちゃんに聞いた。
「簡単なことじゃん! 奈緒が振られたのは、上坂君が奈緒のことをあまり知らないからってだけなんだから、これから仲良くなれればまだチャンスはあるよ! それに2度目の告白が勝負とか聞いたこともあるし!」
りおんちゃんは、前のめりになっていた。
――確かにそう言われれば、そんな気がしてきてしまうが、そううまくいくとは思えなかった。
「うーん……。でも……」
私は、再び上坂君に好意を向けて、拒絶されてしまったら……と思うと、どうしても怖くて躊躇う気持ちになってしまう――。
「まあ、いきなりは切り替えれないよね……」
「うん……」
私は、弱々しく言った。
「まあ、少し様子見してみよう」
「そう、だね……」
――様子見か……。とりあえず、明日はさりげなく挨拶だけでもしてみようかな……。
怖くて躊躇う気持ちもあるが、上坂君のことを諦めきれない気持ちもある。
そのため、私は、自分のできる範囲で後悔のない選択をしようと思った――。
***
りおんちゃんに慰めてもらった次の日の朝――。
私は、意を決して教室へ向かっていた。
上坂君は、私たちのクラスの中で最も早く登校すると聞いている。そのため、朝の挨拶はできるはずだ、と私は、胸を高鳴らせていた。
――落ち着いて……。大丈夫……! ただ、「おはよう!」って感じ良く言うだけ!
私は、自分にそう強く念じながら教室へと、一歩また一歩と歩を進める。
そうして歩いている内に、「おはよー」と軽い感じでクラスメートたちと朝の挨拶を交わす上坂君の声が聞こえてきた。
その瞬間、心拍数が一気に高まった。
――大丈夫……! 大丈夫だよ! 一瞬で終わるから……!
私は、教室に入る前に深呼吸をした――。
そして、クラスメートたちに挨拶をしていた上坂君の前に立ち止まった。
「あっ……」
上坂君が私の姿を見るなり、声を上げた。
瞬間――私の心臓が機能停止しかけた。
――無理無理無理無理! 気まずすぎるよ!
そんな風に私が呆然と立ち尽くしていると――、
「ああ、真島さん、おはよう……」
上坂君が困った顔をしながら朝の挨拶をしてくれた。
「――うん……。おはよう……」
私は、なんとか声を振り絞って言い、そのままスタスタと自分の席へと向かった。
――私の馬鹿! せっかく、上坂君が挨拶してくれたのに素っ気なくするなんて! それにすごく困ってたし……。やっぱり迷惑だったかな……?
そんなことを考えながら席に着き、スマホでSNSのチェックを始めた。
友達が彼氏とご飯に行ったとか、放課後デートをしたなど様々な投稿が目に入り、私も上坂君とこうなれたらな……と考えてしまった。
そんなことを考えて数分経ったときのことだった――。
「おお! やっぱり、来愛もか! 真島さんいいよな!」
「馬鹿! 声がでかい!」
そんな会話が聞こえてきた。
私は、素知らぬふりをしていたが、上坂君と末吉君の会話だったため内心、気が気でなかった。
――今、私の名前……。
末吉君の発言から察するに、上坂君が私のことに関して何か話したのだろう。
――悪いこと言われてなければいいな……。
私はそう願った。
その瞬間だった――。
私は視線を感じ、視線を感じる方へと目を向けた。
そして、驚いたことに上坂君と目が合った――。
すぐに目を逸らされたが、間違いなく、私のことを見ていた。
――あれ……? もしかして……少しは意識してくれてる……?
私は、少し希望の光が差し込んできたような気がした。
スマホを操作するふりをして、チラリと上坂君のことを見る。
――まだ、もう少しだけ頑張ってみようかな……。
私は、心の中で呟いた。
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