第15話 校外学習2日目④
飯盒炊飯を終えた後、片付けなどをし終えた班から自由時間になったのだが、疲れを感じた僕は、宮本先生主催の鬼ごっこ大会に参加するという夏生たちを置いてホテルに戻ることにした。
ちなみに、宮本先生主催の鬼ごっこ大会は、先生の希望でうちのクラスの生徒は可能な限り参加とのことだった。自由時間とは言っても、特にすることが思い当たらないため、先生のああいった企画は助かる。
まあ、寝不足による体調不良を理由に不参加にさせてもらったから助かるも何もないんだけどね……。
そんなことを考えながらホテルの廊下を歩いている内に自分の泊っている部屋に着いた。安心感からか、一気に疲れがドッと押し寄せてくる。
僕はふうと息をついた――。
体調不良の原因として、もちろん寝不足がたたったというのもある。しかし、それ以上に、だんだんと自分が真島さんからの罰ゲームアプローチを心地良く思い始めていることに自覚的になってしまい、動揺する自分を隠すために平静を装うようにしていたことによって精神的に消耗したということがやはり大きいだろう。
――本当に調子が狂うな……。
精神的に少し疲れていた僕はホテルの部屋に備え付けられているベットにぼふ、と音を立てながら横になった。そのまま、天井を眺め僕は、このまま何も考えずに寝ればいいのに、と自分で思いながらも思考を始めた。
もちろん、思考の内容は真島さんに関してだ。
真島さんが僕に嘘告白をしてきたことは間違いない。自分の耳で確かに聞いたことだからそれは間違いではないはずだ。
しかし、そうなると、真島さんの自分への態度は何なんだろうか……? 罰ゲームの割には手が込んでいるというか、一生懸命というか……。
今朝、真島さんと仲直りしたときには、罰ゲームとはいえ自分がアプローチをしている男子が他の女子にちょっかいを出された上、少しデレデレしてて、面白くなかったのだろうという結論に至った。しかし、何か引っかかるものを僕は感じていた。
『うーん……。ほんとにそれ嘘告白だったのか……?』
昨夜、夏生が言っていた言葉が頭をよぎった。
あの日の嘘告白がもしも、僕の勘違いであれが本当に告白だったら……。
そう考えると、僕が天川さんにデレて真島さんが拗ねたことなどを始め、色々と合点がいく。それに、そうであったらいいな、と思う自分がどこかにいる。
そう思ったところで僕は冷静さを取り戻した。
――いやいや、やっぱり、それはないな。こんなこと考えるなんて疲れてるな、僕……。
やはり、あの日の真島さんたちの会話は僕の聞き間違いで実は本当に告白だったのか、と一瞬思ったが、どう考えてもそれはない。
――今、考えても仕方ないか……。
僕は、結局、最初に自分でも思っていたように、堂々巡りを繰り返すことに疲れ、あのまま寝ればよかったなと後悔した。そして、押し寄せてくる眠気に身を任せることにした。
***
「……きろ……!」
声がぼんやり聞こえる。
「来愛、起きろ……!」
声がよりはっきりと聞こえてくる。
「ん……」
僕は、まだ意識がおぼろげながらも目を覚ました。
うっすら目を開けると、夏生が暗闇の中、僕の顔を覗きこんでいた。
僕が部屋に戻ってきたのが、あたりの暗さと夏生が帰ってきたということから判断するに18時くらいといったところだろうか。
頭では思考することができているが、寝起き特有の身体が痛む感じがして起き上がる気力が全く起きない。
「おーい、しっかりしろー。もう、夜だぞー」
「うん……」
そう空返事をし、再び眠ろうとする僕を夏生がぺしぺしと頬を叩いてきた。
「起きます! 起きます! 夏生さん……。痛いです……」
夏生に頬を叩かれて、僕はベットから飛び起き、完全に目を覚ました。
いい寝覚めか、悪い寝覚めかと聞かれたら、間違いなく後者だ。誰がぺしぺしと頬を叩かれて起こされたいだろうか?
内心、叩き起こされて少し不機嫌な僕の思考を見抜いたのか――、
「せっかく起こしてやったのに、また寝ようとした来愛が悪い」
腕を胸の前で組みながら夏生が言った。
「――返す言葉もありません……。」
そう言われるとぐうの音が出なかった。
このまま、起こされなかったら、気づいたら明日の朝でした、というオチで終わっていただろう。
そう思った僕は、「起こしてくれてありがとう」と夏生に言った。
「いいってことよ! そんなことよりもだ! キャンプファイヤーだなんだ色々やるらしいから参加したいやつは、飯食い終わったら、昨日のスタンプラリーのときと同じところに来いだって! 十分寝たみたいだし、もちろん、行くよな!?」
夏生が有無を言わせない勢いで言った。
「まあ、気が向いたら顔を出すよ」
僕が苦笑いしながら言うと――、
「あ、ちなみに真島さんは参加するらしいぜ」
夏生がニヤニヤといつもの腹立たしい笑みを浮かべながら言った。
「聞いてないんだけど……?」
内心、真島さんの名前を出されドキリとしつつも平静を装って言った。
「一応、伝えておいた! 有益情報だったろ……!?」
「……」
にかっ、と笑う夏生に僕は何も言葉を返せなかった。というのも、未だに自分の心に混在する相反する感情の整理がついていないからだ。
「ったく……。昨日も言ったが、いい加減素直になれよー」
夏生はそう言うと、飯に行くぞ、と部屋を出るように促してきた。
僕は、やれやれと言いたげな仕草をしながら先へと進む夏生の後に続いた。
コツコツと僕と夏生の足音がホテルの廊下に鳴り響く。
――素直になれ……か。
昨夜も言われた素直になれという言葉が僕の頭の中を反芻した――。
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