第14話 校外学習2日目③
真島さんたちが僕の割り振った作業を終えて、戻ってきた後、すぐに本格的に調理を始めた。
正直、調理には自信があったが、家のキッチンでするよりも手間がかかるカレールー作りと飯盒を使ったお米の炊飯は、僕の思っていた3倍は大変だった。
初めての調理方法に四苦八苦しながらもできたカレーライスを見て僕は、ほっと胸を撫でおろした。
「上坂君、ほんとにすごいんだね……!」
真島さんが目を輝かせながら言った。
「いやいや、みんなの協力あってこそだよ……! 僕1人じゃ、ここまでスムーズにできなかったし……!」
僕がそう言うと――、
「そうだよー! みんなで協力してご飯を作って、おいしいものを食べるのがこのイベントの醍醐味だからねー!」
僕たちの近くを通りかかった宮本先生が僕たちに話かけてきた。
「あ、かなちゃん、どもどもー」
夏生がおちゃらけた感じで言った。
「末吉君! 宮本先生って言いなさい!」
宮本先生が夏生の馴れ馴れしい態度に頬を膨らませる。
「19歳の教師なんていませんよー」
夏生がそう言うと、宮本先生がぐぬぬ……と歯を食いしばっていた。
教師としての威厳よりもそっちの設定の方が大事なんですか……。
僕は苦笑いを浮かべた。
「そんなことよりも! すごくおいしそうなんだけど! 少し味見してもいい!?」
宮本先生がお菓子をねだる子供のような表情をしながら言った。
「あ、はい……! それは是非!」
「やった……!」
宮本先生がそれでは、と言い、持参していたスプーンで僕が差し出した皿から一口カレーライスをすくいあげ、口に運んだ。そして、驚愕の顔を浮かべた。
「ど、どうですかね……?」
僕は、驚愕の顔を浮かべ黙り込んでしまった宮本先生の様子を見て、不安になった。
さっき、ルーの味見をしたときは、大丈夫だったはずだし、ご飯も芯が残らないように炊いたはずだから大丈夫なはずだけど……!
僕は、そう思いながら固唾を飲み、宮本先生のコメントを待つ。
そして、少しの沈黙の後、宮本先生が口を開いた。
「……すぎる……」
宮本先生がボソッと呟いた。
「えっと……。なんと……?」
宮本先生の呟きを聞き取れなかった僕は聞き返した。
「おいしすぎるよ! これ!」
宮本先生は、ぱあっと明るい顔をしながら言った。
宮本先生の言葉に僕は、ふう……と息をついた。
「お口に合ったならよかったです……」
「もっと食べたいところだけど、みんなの分がなくなっちゃうから我慢我慢……」
心底残念そうな顔をしながら宮本先生が言った。
そうしょんぼりとする宮本先生に――、
「かなちゃーん! こっちも味見してー!」
他の班の生徒が大きく手を振りながら声をかけた。
「よし、私は他の班の子たちのカレーも食べて腹を満たすとします」
宮本先生は、そう言うと、しょんぼりとしていた顔を一変させ軽やかな足取りで立ち去っていった。
先生たちが作ったカレーもあるのでは……? と思いつつも、生徒たちが作ったカレーも食べたいという教師心があるのだろうと僕は思った。
「さてと、かなちゃんのお墨付きのカレー、俺たちも頂きますか!」
夏生が待ちきれないと言わんばかりの顔をしながら言った。
「そうだね、食べようか……!」
夏生の言葉を合図に僕たちは、席に着いた。そして、いただきます、と手を揃えて、すぐにカレーを食べ始めた。
***
「それにしても、上坂君、ほんとに料理上手なのね。料理教えてほしいくらいだわ」
カレーをもぐもぐと食べながら内田さんが言った。
「僕なんかが役に立てるかはわからないけど機会があればね」
僕は、社交辞令のつもりで言った。
しかし――。
「是非、お願いね」
内田さんがニヤリと笑ったような気がした。
なんだろう。ものすごく嫌な予感がする。なんだか、本気にしているような……。
「奈緒も教えてもらいたいよね……?」
僕の嫌な予感は的中した。
「え、あ、うん……! 迷惑じゃなければ、私もいいかな……!?」
真島さんは、急に話を振られ狼狽えながらも言った。
「それは、もちろん……! ほんとに機会があればね……!」
僕は、真島さんと内田さんに念を押した。
「ええ、わかってるわ」
どう見てもわかっていなさそうな様子で内田さんがカレーを口に運びながら言った。
内田さんから視線を外して真島さんを見ると、真島さんが心なしか嬉しそうにしているのが見える。
本当にあんまり期待しないでほしいな……。
社交辞令のつもりで話を進めているため、本気にされてしまうと困るんだけど……。
僕が内心困りながらそんなことを考えていると――、
「そのときは、俺も参加させてくれるよね!?」
夏生が期待の眼差しを内田さんに向けた。
「却下」
内田さんは即答した。
「ええー、いいじゃん! ほら、バスで隣の席に座った仲じゃん……?」
「ひとことも話してないけどね」
「酷くない……?」
一見、仲が悪いように見えるけど、やっぱり、案外相性がいいのでは……?
僕は、いつぞやのようにそんなことを考えた。
「上坂君、邪推はやめて」
僕の思考を見透かしたかのように内田さんが言った。
「あ、はい。すみません」
やっぱり、女子の勘って怖い。
僕は、改めてそう思った。
「そんなことよりも上坂君、いつなら暇……?」
やっぱり、内田さんは僕の話を全く聞いていなかった。
「えっと……。春休みとかも予定が立て込んでて……」
僕は、お茶を濁すことにした。
しかし――。
「あれ? この前、春休みめちゃくちゃ暇すぎるから旅行でも行かない? とか言ってなかったっけ……?」
夏生が余計なことを言った。
あ、やば……。
「どういうことかな……? ん?」
内田さんからとてつもない圧を感じる。
「冗談です! 予定なんてほとんどありません!」
僕は、内田さんからのあまりの圧に思わず言っていた。
夏生は後でしっかりしばいておこう。
僕は、心の中で固く決心した。
「よろしい、また今度詳しいことは決めましょ」
「楽しみにしてるね!」
真島さんが眩しい笑顔を向けてくる。
「う、うん」
僕は、真島さんから目を逸らしながら言った。
目を逸らすと、ニヤニヤと視線を向けてくる夏生が目に入った。
うん。夏生、覚えておけよ……。
僕は、心の中で夏生に悪態をついた。
楽しみだね、と真島さんたちが会話をしているのが聞こえてくる。
僕は、どこか嬉しい気持ちを感じながらもため息をついた。
こうして、僕の春休みの予定が1つ埋まった――。
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