第13.5話 言わなきゃいけないこと(真島奈緒 side)
私の代わりに調理係をしてくれることになった上坂君からの指示通り、末吉君とじゃがいもを洗いに来ていた。
「……」
「……」
同じクラスではあるが、私と末吉君はあまり2人で話したことがないため、なぜだか気まずい空気が流れている。
うう……。グループも一緒になったけど、あんまり話したことないし何を話したらいいのかな……?
私は内心焦りながらじゃがいもを洗っていた。
チラリと末吉君の方へ視線を向けると、あちらも同じようで気まずそうな顔をしながらじゃがいもを洗っている。
「あ、えと、末吉君って、兄弟はいるの……?」
会話の基本は相手を知ること。こういった会話から始めるのがベストだろう。
「大学2年の姉が1人いるよ……! 真島さんは……?」
「私は一人っ子なんだ。だから、お姉ちゃんがいるの少し羨ましいかも」
「えー、そうかな……? しょっちゅうコンビニに走らされたりいいことないよー?」
末吉君が苦笑いをしながら言った。
「でも、それも楽しそうでいいじゃん……!」
「いや、あれはそんな楽しいものじゃないよ。うん、マジで」
末吉君は至って真面目な顔をして言った。
「あはは……。実際にそんな目に遭っている人がそういう風に言うならそうなんだね……」
「逆に俺は一人っ子な真島さんが羨ましいよ」
末吉君は洗い終わったじゃがいもを1つ、ボウルの中に入れ、次のじゃがいもへと手を伸ばした。
「あはは……。お互いないものねだりだね」
「そうだね……」
「「……」」
どうしよう……。ここから会話をどう膨らませよう……!?
会話が終わってしまい私は焦った。
正直、ここで黙々と作業を終わらせてもお互い少し気まずい思いをするだけで、特段問題ないのだが、上坂君の友達である末吉君には好印象を残しておきたい。
何か盛り上がりそうな話題があればいいんだけど……。
私は、末吉君と話せて盛り上がりそうな共通の話題は何かないか、と思考を巡らせた。そして、末吉君と離せる共通の話題を1つ思いついた。
「あの、前から気になってたんだけど、末吉君ってどうやって上坂君と仲良くなったの……?」
私が思いついた末吉君と盛り上がれそうな共通な話題は上坂君のことだった――。
「お、来愛と俺の出会いか。まあ、確かに俺と来愛ってタイプ的には大分違うし、他の人から見たら物珍しく映るのか……」
物珍しいとかそんな色メガネで2人を見ていたわけではないが、末吉君がすぐに話を続けたため、私が口を挟むことはできなかった。
「まあ、端的に言うと、1学期のいつだったかは忘れたけど、朝早く学校に行った日にいつものように教室に早く来て、本の世界に入り込んでいた来愛のことが気になって挨拶してみたのがきっかけだな……!」
末吉君は、先ほどまで私が女子だからか、少し普段より柔らかい印象を感じさせる口調で話していたのだが、急にいつも上坂君と話している口調で言った。
そんな末吉君のことを見て、上坂君のことがほんとに好きなんだな、と微笑ましい気持ちになった。
「本の世界に入り込んでる上坂君に声をかけたなんてすごい勇気だね……」
私も以前、放課後に上坂君がイヤホンをつけながら本を読んでいるところを見かけたことがあり、2人きりで話すチャンスだ……! と思ったものの、本に没頭する上坂君を前に話しかけることはおろか教室にも入らずに立ち去ったことがある。そのため、本を読むことに没頭しているときの上坂君に声をかけた末吉君を私は、心の底から尊敬した。
「あはは……。今でも本に集中している来愛に突然声をかけるからビックリされるぞ」
「それはそうだよ」
私は苦笑いをしながら言った。
「まあ、俺と来愛が仲良くなったキッカケなんて、こんな感じで、すっかり来愛のことを好きになっちゃった俺が、しつこく毎朝早く学校に行くようになって声をかけている内に仲良くなっただけのことだ」
私は、どうやら本当に末吉君の行動力を見習わないといけないかもしれない、と思った。
私がそんなことを考えていると――、
「そんなことよりもだ……! 真島さんって来愛のこと好きなの?」
末吉君があっけらかんとした様子で洗い終わったじゃがいもをまた1つボウルに入れながら言った。
「え……?」
私は、思わず固まってしまった。
手から洗い終えたじゃがいもが手から落ちそうになったが、末吉君が寸でのところでキャッチしてくれた。
「おーい? 真島さーん? 帰ってきてー?」
キャッチしたじゃがいもをボウルにしまいながら末吉君が言った。
「え、あの、その……。何でそう思うの……?」
「いやー、だってさ……。ねえ……? 来愛が天川さんに少しだけ照れながら会話しただけで拗ねてみたり、内田さんに『愛の共同作業』ってからかわれてとんでもない慌てようを見せたり、バレバレよ……?」
拗ねていたのはともかく、そんなにわかりやすい反応をしていたのか……。
私は、一気に恥ずかしい気持ちになった。
「うう……。お恥ずかしい限りです……」
顔がすごく熱い。穴があったら入りたいとは、まさにこのことだろう。
「まあまあ、俺としては、自分の親友のことを真島さんみたいに可愛くて性格も良い女の子が好きって言ってくれてるのはすごく嬉しいですから……!」
私は、末吉君にべた褒めされて、さらに気恥ずかしさを感じた。
「あ、ありがとう……」
「ま、陰ながらちょこちょこっとサポートはするけど、だいたいは静観するつもりだから、そこのところはよろしく……!」
あれ……? 普通、この流れって全力サポートするよ! ってなるところじゃ……?
私の考えていることを察したのか、末吉君は――、
「こういうのは当人同士でちゃんと勇気を出して、1歩1歩踏み出して距離を縮めていくのが正解だと思うんだ。背中を押すくらいのことはしてもいいとは思うけど、頑張れるところはちゃんと自分たちで頑張らないと」
何かを思い出すように遠い目をしながら言った。
「そうだね……」
末吉君の言う言葉になぜだかはわからないが重みを感じる。末吉君の少し悲壮感を感じさせる表情を見て、私はそう思わずにはいられなかった。
「ま、今回は、特別に1つだけアドバイスをしておくとするか」
末吉君がいつものけろっとした表情に戻って言った。
「いいの……?」
私は、けろっとした様子を見せている末吉君を見て、さっき言っていたことと矛盾するのでは……? と思った。
「ま、決断とかその他諸々は真島さんにかかってるし、俺のポリシーにも反しないから平気平気!」
「じゃあ、お願いします……!」
私がそう言うと、末吉君は、にいっと歯を見せて笑った。
「俺からのアドバイスは、ちゃんと言うべきことは言うことだな。真島さん、来愛に言ってないことあるよな……?」
私は末吉君の言葉にドキリとした。
「う、うん……。やっぱり言わないとだよね……」
「間違いないな。言う言わないは真島さんの自由だけど」
末吉君は残り1つとなっていたじゃがいもを洗い終え、それをボウルに入れながら言った。
「うん……! ありがとう……! 私、頑張ってみる……!」
私がそう言うと、末吉君が洗い終えたじゃがいもが入ったボウルを持った。
「おう……! 頑張って! 陰ながら応援してるぞ!」
末吉君はそう言って、スタスタとボウルを持って上坂君のいる調理場の方へと歩を進め始める。私も自分の分のボウルを持って末吉君の後に続いた。
こうして、末吉君からアドバイスを受けた私は、言わなきゃいけないことはちゃんと言おうと決心したのだった――。
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