第7話 あれは事故みたいだ
「おはよう! ラッキーボーイ君!」
僕がバスを降りると、夏生が、僕の背中をバシン! と音が鳴るくらい強くたたいてきた。
「痛いな……。ラッキーってどういうこと……?」
情報はどこから漏れるか分からないため、夏生にも真島さんが僕の肩を枕にして寝ていたことは、知らぬ存ぜぬの態度を取ることにした。
自分の身を守るためだ、このくらいの嘘は許されるだろう。
「またまたぁ……。真島さんの隣の席に座れたというだけで幸せ者なのに、その上、あんなことまで……。くうぅっ! 羨ましいぜ!」
ニタニタと見ているだけで腹が立ってくる顔で夏生が言った。
どの口が言ってるんだ……? と、額に青筋が浮かびかけたが、僕は、何とか言葉を飲み込んだ。
「ほんとに何のことだか……。なんかあったとしても僕は、知らないよ」
「す、すみません……。調子に乗りました」
そんなつもりは全くなかったのだが、僕は、無意識に少し語気を強め、圧を与えてしまっていたみたいで、夏生がニタニタとした顔を一瞬で真顔に戻していた。
「そんなことより、校外学習に来たはいいものの何をするとか全く聞いていないよね……?」
「あー、とりあえずこの後、昼飯らしいけど、その後、何するのか全く聞いていないな」
そう、実はこの校外学習、行き先は告げられていたものの、何をするかは実行委員会と先生たちしか知らず、未だに謎に包まれているのだ。
以前、クラスメートたちが実行委員会の人に校外学習で何をするかを聞きにいっていたが、「当日のお楽しみ!」と、門前払いされていた。その光景を僕が実際に目の当たりにしているあたり、その徹底ぶりはすごい、といえるだろう。
「ここまで、秘密にされるとどんな感じなのか期待できそうだよね」
「確かに……。なんか、楽しみになってきたわ!」
僕たちは、そんな風に会話をし、校外学習での活動に期待を膨らませていたときだった――。
「お昼、グループで一緒に食べるみたいだから……。早く来て」
内田さんが僕と夏生を呼びに来た。
当然のことのように告げられた死の宣告に僕も夏生も固まってしまった。
校外学習で同じグループになっている以上、いい加減もう慣れなければならないのだが、せめて食事の時間くらい平穏な時間を過ごしたかったのだ。
――こればっかりは、真島さんに悪意があるわけじゃないし、仕方ないけど……。何とかなりませんかね……?
僕は、心の中で頭を抱えた。
「どうしたの……? 早く行こ? 奈緒が待ってるよ」
僕と夏生は、その声でハッとした。
「あ、うん……。すぐ行くよ……」
僕がそう言うと、僕と夏生は、先に歩き始めた内田さんに続いた。
***
内田さんに案内され食堂に着いたときには、既に昼食の弁当が用意されていて、真島さんが席に座り僕たちのことを待っていた。
「お待たせしました……。ごめんね、遅くなって……」
僕が気恥ずかしさを隠しながらそう言うと――、
「あ、う、うん! 全然大丈夫! 早速、食べよ!?」
いつもと明らかに違う様子で真島さんが言った。
――さっきのあれは、わざとじゃなかったんですね……。
僕は、真島さんの様子が僕が声をかけた瞬間におかしくなったため、バスでの出来事は事故であり、真島さんもうっかり寝てしまいああなったのだ、という見解に至った。
やはり、さすがにあのようなことは、いくら罰ゲームアプローチでもしてこないみたいだ。
僕は、あれが事故でよかった、と心の底から安心した。
きっと、事故であの慌て方をするなら、ああいった身体的接触のあるアプローチはないと見ていいだろう。
これは、
僕は、心の中でガッツポーズをした。
「来愛……? どうした……?」
僕があれこれと考えている内に、夏生も内田さんも席に着いていた。
「あ、ああ……! ごめん……! 食べようか!」
僕は、慌てて空いていた夏生の隣の席に座った。
正直、目の前に真島さんが座っていて、顔を合わせながら食事をする形になってしまい、気まずかったが、ここは我慢するしかない。
真島さんも僕と目を合わせないようにしているのか少し俯いている。
――そうですよね……。気まずいですよね……。
僕は、知らぬ存ぜぬの態度を取っているため、「あのことは気にしなくて大丈夫」と言えないことを歯がゆく思った。
僕が席に着き、ようやく準備の整った僕たち4人は「いただきます」と揃って手を合わせ、食事を始めた。
罰ゲームアプローチの底が少し見えた僕は、安心感からか、近くに座る男子達から殺気を感じながらも少しは味を感じながら食事をすることができた。
ちなみに食事中は、これから活動をともにするグループとしては良くないのかもしれないが、「校外学習何するんだろうねー?」とか、そんな当たり障りのない会話しかなく、僕と夏生は比較的穏やかに昼食の時間を終えることができた。
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