第7.5話 あれは私の判断(真島奈緒 side)
少し遡って校外学習の目的地に向かうバスの中にいたときのことだ。
「はあ……」
私は、隣でスヤスヤと息を立てて眠る上坂君にチラリと視線を向けた。
――せっかく隣の席に座れたのにな……。
私は、少し頬を膨れさせた。しかし、あそこで寝不足だという上坂君に、無理に起きているように言ったら嫌われると思ったため、そんなことは私にはできなかった。
気持ちを切り替えよう。
こうして好きな男の子の寝顔なんて滅多に見れないため、この状況もまた一興と言えるだろう。
――上坂君、普段はクールな感じ(奈緒フィルター)なのに、寝ると可愛いって反則じゃない!?
ちょっと悪戯してみようと、ツンツンと肩をつついてみると、「んん……」と少し可愛らしく身をよじらせ、私の方へ倒れてきた――。
先ほどよりも心地よさそうな寝息が近くで聞こえてくる。それに、なんだかいい香りもする。
――こんな幸せなことがあってもいいのかな……?
いつになく近い上坂君との距離感にドキドキしつつも、大好きな上坂君の幸せそうに眠る様子を見て、安らぎも感じた。
そのまま、バスで揺られること15分くらいが経った。
――なんだか私まで眠くなってきちゃった……。今、上坂君に寄りかかれたらすごく幸せなんだろうな……。
だんだんと頭がボーっとしてきて、私の理性的な判断力は少し鈍くなっていた。
……少しくらいなら、いいよね? 上坂君とお話できなかった分、これくらい……。
こくりこくりと首を縦に揺らしているうちに、なぜいいと思ったのか、私は、上坂君の肩を枕にした。そして、静かに目を閉じた。
静かに目を閉じ、数十秒も経たないうちに私は、ふわふわとした幸せな感覚の中、意識を完全に手放した。
***
「んん……」
私は、重たい瞼をゆっくりと開けた。
勘がいいというべきか、私が目を覚ましたのは、丁度バスが目的地に到着したタイミングだった。
まだぼんやりとする頭で私は、今の状況を認識しようと思考を巡らせ始めた――。
えっと……確か、上坂君が途中で寝ちゃって、その後……。
そこまで考えが至ったところで私は、気づいてしまった。私が上坂君の肩を枕にしていることにだ。
――待って!? 何で私、上坂君に……?
そう思った瞬間、周囲から向けられる視線を感じ、ばっ! と飛び起き、頭が冴え始める。私は、だんだんと自分がやらかすまでの過程を思い出し始めた。
眠くなってボーっとしていたとはいえ、間違いなくあれは自分の判断だ。顔が一気に熱くなるのを感じた。
私が自分のやらかしたことにあたふたとしていると、だんだんとクラスメートたちがバスを降り始めた。
――あ、上坂君を起こさないと!
私は、慌てながらも上坂君を起こす約束を思い出し、上坂君の肩をゆすった。
「上坂君……! 起きて……! 着いたよ……?」
私が声をかけると上坂君は、わざとらしく見えるほど欠伸をしながら目を覚ました。
「ん……。おはよう……。真島さん……。起こしてくれてありがとう……」
まだ、ものすごく眠いのだろうか、すごくぼんやりとした口調で上坂君が言う。
そんな上坂君の様子を見て、ホッと胸を撫でおろした。
どうやら、私が上坂君の肩を枕にして寝ていたことは上坂君には、気づかれていなさそうだ。
「それじゃ、私、先に行くから……!」
今、思い返すととてもおかしいが、窓際の席に座っていた私は、その場にいることが気まずくて通路側に座っていた上坂君を差し置き、我先にと、バスから降りた。
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