第10話 校外学習1日目②


 国語の賢者こと大塚先生からスタンプを入手し、スタンプも残すところあと1つとなっていた。


 そして、僕たちは、今、まさに理科の賢者こと福田先生から出された試練に取り組んでいるところだ。ちなみに福田先生は、登場条件がめんどくさかった大塚先生とは違い、最後の賢者であるにも関わらず、普通に逃げも隠れもせずに僕たちのことを待っていた。


「ふふん……! 10年近くになった教員人生で、この問題は今まで1人にしか解かれたことがない問題だ……! お前たちが一番早くに私のもとへたどり着いたが、果たしてこれが解けるかな……?」


 不敵な笑みを浮かべながら腕を組み、福田先生が言った。


 確かに難しいなこれ……。


 この問題は、おそらく大学入試レベル、それも名の知れた有名大学の問題を参考に作られたと思われる。

 

 ちなみに出題範囲は化学で、まだ、化学基礎しか履修していない僕たちだが、おそらく中学までの知識と化学基礎の内容をしっかりと理解していれば解けるように作られた総合的な問題だろうとも思われる。


 僕は、ふと夏生たちの様子を見た。


 夏生は、もはや理解不能なようで、考えているふりをしている。


 内田さんに関しては、考えているふりはおろか、シャーペンを筆箱にしまっている始末だった。


 数学の大学入試レベルの問題を解くことができていたあの真島さんでさえ、頭を抱えていた。


 おおう……。マジですか……。


 今回ばかりは本当にピンチかもしれない。


 でも、せっかくここまで頑張ってきたし、クリアしたいな……。


 そう思った僕は、中学までの理科の知識、そして、微かに残っている授業中の先生の発言やテスト勉強のために解いてきた参考書の知識を必死に頭から捻りだす。


 そんなことを繰り返して、10分くらいが経ったときのことだった――。


「あ、解けました」


 僕は、必死に知識を絞り出し、問題に当てはめ続けてどうにかおそらくあっているだろう答えにたどり着いた。


 僕の声に先生と夏生たちが驚きの声をあげた。


「どれどれ……」


 どうせ間違えているだろ、とでも言いたげに福田先生がニコニコとしながら僕から答案用紙を受け取った。


 しかし、そんな福田先生の笑顔は一瞬にして崩れた。


「なん……だと……? 合っているだと……?」


 福田先生のその声に夏生たちが歓声をあげた。


「すごい! すごいぞ、来愛!」


「すごーい!」


 夏生と内田さんがパチパチと拍手を僕に送る。


「上坂君! やったね! これでスタンプが全部揃ったよ!? 上坂君のおかげだよ!」


 かなり苦労してここまで来たからか、真島さんが僕の両手をとりながら子供のように飛び跳ねている。


 子供のように無邪気な一面を見せられて僕は、一瞬、心を奪われそうになったが、勘違いするなと自分に言い聞かせ、何とか持ちこたえた。


「まあ、まぐれだよ……。たまたま、思いついただけだから」


 みんなにすごいともてはやされ、少し気恥ずかしさを感じながら僕は言った。


「まぐれでも、思いついたならお前の実力だ。今後もしっかり勉強するように」


 福田先生は、少し悔しそうな顔をしながら言った。


「は、はい」


 僕は、僕の肩をポンポンと叩いてくる福田先生に来年から文系コースです、だなんてことは言えなかった。


***


 理科の賢者こと福田先生からスタンプを入手し、全てのスタンプを集め終えた僕たちは、ゴール地点へと向かっていた。


「ふああ……。それにしても結局俺と内田さんはマジで何もしなかったな」


「末吉君と一緒にしないでほしいんだけど……」


 内田さんは不服だと言いたげな表情をしていた。


 いや、内田さん、化学の問題解いていたとき開始早々シャーペンをしまっていたよね……?


 そうは思ったものの、怒られそうな気がしたため、言わないでおいた。


「まあ、でも、奈緒と上坂君のおかげであることは間違いないわね。実質、奈緒と上坂君のね」


「「なっ……!」」


 僕と真島さんの声が重なった。


「へ、変なこと言わないでよ……! りおんちゃん……!」


 慌てながら真島さんが言った。


「そ、そうだよ! 真島さんも僕とそんな風に言われるの嫌だろうし……」


 言ってて悲しくなるが、真島さんが僕に構ってくれるのは罰ゲームだからであって、心の奥底では嫌だな、と思っているだろう。


 そんなことを僕が考えていると――、


「別に……じゃないのに……」


 真島さんが何かを呟いた。


「真島さん……? なんか言った……?」


 真島さんが何を言ったのか聞き取れなかった僕がそう聞くと――、


「あ、ううん! 気にしないで!」


 真島さんが少し顔を赤くしながら言い、内田さんをズルズルと引っ張って先へと進んでいってしまった。


 そんな真島さんたちの様子を首をかしげながら眺め、呆然と立ち尽くしていると、横で夏生がニヤニヤとしていた。


「ほほう……。なるほど、なるほど……」


 ニヤニヤとしながら何かを勝手に納得しているが、聞くだけめんどくさそうな予感がした。


 絶対、変な妄想を膨らませているな……。これ……。


 僕が予想するに、内田さんの愛の共同作業発言や真島さんに構ってもらってデレているように見えている僕の態度に感化されているといったところだろう。


「はあ……」


 僕はため息をついた。


 夏生が暴走して変なことしなければいいな……。


 僕は、一抹の不安を胸に歩を進め始めた。


 

 








 










 






 


 


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