第12話 校外学習2日目①


 校外学習2日目の朝――。


「ふわあ……」


 僕は口を手で押さえながらあくびをした。


 昨晩は夏生に真島さんのことを話したせいか、昨日までに真島さんとあったことを嫌でも思い出し続けてしまい僕は、寝不足だった。やっと寝れたと思ったら真島さんが夢にまで出てきた始末だ。


 そういうわけで休めた気が全くしない。


 そして、今、僕は、朝食を食べにホテルの食堂に来ていた。隣には当然夏生もいる。


 朝食は、昨日の夕食の時間とは違い、朝食の時間が終わった後すぐに動けるようにグループでまとまるように指示された。


 そのため、僕たちは真島さんと内田さんの席も先に取り、座って待つことにした。


 ああ、どうにか真島さんに機嫌を直してもらわないと……。


 僕は、イスに腰かけるなりそう思った。


 僕は、今までに女子の機嫌取りなんてしたことがなかったため、どうしたらいいのかいまだにわからず緊張していた。しかし、真島さんと仲直りできなかったらグループがぎくしゃくして校外学習が苦い思い出になってしまうかもしれない。それだけは避けたい。


「来愛さんや、今、真島さんのこと考えてます……? それに何やら寝不足みたいですけど」


 夏生がいつものニタニタとした笑みを浮かべながら言った。


 朝から不快なニタニタとした笑みを向けられ、思わずしばきそうになったが、真島さんのことを考えていたと言えば、そうなってしまう。そのため、僕は堪えた。


「まあ……。どうにか仲直りしなきゃいけないし……」


「ほほー……。否定しないんですねぇ……」


 やっぱり、しばいておけばよかったな……。


 僕がそんなことを考えていると――、


「お待たせ。遅れちゃってごめん」


 内田さんが話しかけてきた。


「全然、待ってないし大丈夫……! ほんとに僕たちもちょうど来たところだから」


 僕はそう内田さんに返事をするなり、違和感を覚えた。


「あれ……? 真島さんは……?」


 そう、真島さんの姿が見当たらないのだ。


 キョロキョロと周囲を見渡しても、どこにも姿が見当たらない。


 まだ部屋で支度でもしているのかな……? いや、でも、内田さんは来てるし……。


 僕がそんなことを考えていると――、


「いい加減出てきなさい」


 内田さんが呆れた顔をしながら言った。


「はい……」


 真島さんがテーブルの下から顔をひょこっと出した。


「「ま、真島さん!?」」


 いきなり現れた真島さんに僕と夏生は驚いて、朝起きてから一番大きい声を出してしまった。


「なんか、昨日、子供みたいに不機嫌になったのが恥ずかしくて、どんな顔をして2人に会えばいいのか分からなかったんだって」


 内田さんがおそらく言わない方がいいことをつらつらと語った。


「り、りおんちゃん! それは言わないって……!」


 真島さんが顔を真っ赤にして言った。


「えー? そんなこと言ってたっけー? 私、覚えてないなー」


 内田さんがわざとらしい口調で言った。


「絶対言ったよ!」


 そう言って不満をぶつける真島さんを内田さんがテキトーにあしらいながら親指をこちらに向けて立てていた。


 あ、もしかして、僕と真島さんが仲直りしやすいように援護してくれてるのか……?


 僕がそれとなく内田さんとアイコンタクトを取ると、こくりと首を小さく縦に振っていたので、僕の考えは間違えていないみたいだ。


 このチャンス、無駄にはしません……。


 僕は、内田さんに心の中で感謝した。


 そして――、


「えっと、真島さん……。昨日は、ごめん……」


 僕は、とりあえず謝罪するしかないと思い、まずは謝罪から入った。


 僕がそう言うと、真島さんは内田さんに不満をぶつけるのをピタリとやめた。そして、少し頬を膨らませた。


「う、うん……。私の方こそ子供みたいに拗ねて、困らせちゃってごめんね……。後……その……1つ聞きたいんだけど、上坂君は、何が悪かったって思ってるの……?」


「あ、えっと……」


 理由なく謝られてもやっぱり無理ですよね!


 わかってはいたが、やはり理由を聞かれた。


 中身のない謝罪ほど無礼なものはないため、理由を聞かれるのは当然だ。


 正直、心あたりは何度考えてもタイミング的に天川さんの1件しか思いつかないのだが、真島さんがそれで不機嫌になる理由がさっぱりわからない。それに、例えこの理由が正解だとしても言うのはものすごく恥ずかしい。これ以外の理由で真島さんが不機嫌になっていたのだとしたらなおさらだ。


「上坂君……?」


 返答をしない僕に真島さんが言う。


 やばいやばいやばい……。考えろ、考えろ……。


 窮地に追い込まれた僕の頭は、このとき人生で未だかつてないほどの速さで回転していた。きっと、スーパーコンピューターすら凌駕する速さだった。


 そして、1つの可能性にたどり着いた――。


 あっ、もしかして……。罰ゲームとはいえ自分がアプローチをしている男子が他の女子にちょっかいを出された上、少しデレデレしてて、面白くなかったのか……?


 とりあえず、どうにか真島さんが不機嫌になったそれっぽい可能性にたどり着いた僕は、意を決した。


「えっと……。男子が女子がいる前でデレデレしてたら普通に見てて不快だったよね……? 軽率でした……」


 さすがに考えついたことをそのまま口にするのは憚られたため、言葉をぼかした。しかし、言いたいことは伝わっているはずだ。


 僕の謝罪の言葉を聞いた真島さんは――、


「上坂君だったから――」


 何かボソッと呟いていた。


「えっと、何て……?」


 僕は真島さんが何を呟いたか聞き取れなかったため、聞き返した。


「そ、その……」


 真島さんが頬を赤く染め、俯く。


 そして、声にならない声を出し、さらに頬を赤くした。もう、耳まで赤い。


「だ、大丈夫……?」


「あ、う、うん! 大丈夫……! とにかく、上坂君が言ってくれたのでほぼ正解だよ……! ほんとに困らせちゃってごめんね……?」


 真島さんが呟いた内容は、様子を見るに重要な気がするが、2度は言ってくれそうな気配はない。


 ――めちゃくちゃ気になるんですけど……。


 そうは思うが、とりあえず問題が解決したのだ、真島さんが呟いていた内容は後でも聞けるし、気にしても仕方がない。


「ううん……! 気にしないで……! これで仲直りってことで……!」


 僕がそう言うと――、


「うん……! ほんとにありがとう……! 後、それとさ……」


 真島さんは少し頬を赤くして口をまごつかせていた。


 そして、少しの間があった後、真島さんは口を開いた――。


「その……。私と少しぎくしゃくした感じになってたの寝不足になるほど気にしてくれてたの……?」


「え……?」


「えっと、末吉君はぐっすり寝ましたって顔に書いてあるのに、上坂君にはすごいクマができてるから……。てっきり、そうなのかな……? って……」


 正直、図星で心臓が跳ねあがった。


「ま、まあ……。お恥ずかしながら……」


 僕が少し困ったような口調で言うと、真島さんが見るからに上機嫌になった。


「そっかそっか……!」


 なんでそんなに嬉しそうにするんだろう……。


 嘘告白をして自分を振ってきた相手、現在進行形で罰ゲームアプローチをしている相手である僕にこんなことを聞いても意味はないだろうに……。


 問題が解決したと思ったら謎はさらに深まるばかりで、僕は、心の中で頭を抱えた。しかし、それと同時に真島さんの嬉しそうな顔を見て、僕は唇を綻ばせていた。


 あれ……? なんだ……? 今、僕、笑ってた……?


 真島さんからの罰ゲームアプローチに頭を抱えていたはずなのに、今、自分が矛盾していたことに気づき、僕は、戸惑った――。


 僕がそんな風に戸惑っていると――、


「えっと……。お2人さん、そろそろ、ご飯食べません……?」


 夏生が困ったような表情をしながら言った。


 夏生と同様に内田さんも少し困ったような顔をしていた。


「あ、ごめん……! すぐに食べよう!」


 真島さんがそんな2人の様子に、はっと我に返った様子で慌てて言った。


 こうして、僕たちの校外学習2日目はグループとしては、幸先のいい滑り出しとなった。


 一方で、真島さんからの罰ゲームアプローチをどこか心地良く思い始めている自分、嘘告白をしてきた相手を好きになるなんてありえないと僕の本来の考えを固持しようとする自分、2人の存在が浮き彫りになってきているのを感じてしまい、僕の胸中は言葉で表せれない気持ち悪さで満たされていた――。




 




 

 


 


 




 



 




















 




 

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