インターミッション 校外学習1日目の夜(boys side)
校外学習1日目の夜――。
予想以上の理不尽を一身に受けた僕は、重たい瞼を無理矢理あけながら夏生とスマホでできるFPSゲームをしていた。こんな風に夜を友人と過ごせるのはかなり貴重な機会であり、寝てしまうのは非常にもったいない。
「にしても、今日は大変だったなー……」
夏生が横向きにしたスマホの画面を眺めながら言った。
「誰かさんは、僕を隠れ蓑に楽してたけどね」
僕は、ゲームの片手間に恨み節を言った。夏生が僕に魔王の配下を全員押し付けてきたことを思い出し、ストレスを発散させるようにゲーム内で動く自分のアバターにアサルトライフルを乱射させた。
「そのことに関しては、ほんとにすみませんでした……。出来心だったんです」
そう言う夏生に僕はため息をついた。
「まあ、もういいよ。どうせ、走る運命だったし」
「寛大な心に感謝します……!」
急に声色を明るくして夏生が言った。
全く調子のいい……。
それはそうとして――。
「そういえば、夏生は真島さんがなんで不機嫌になったか分かってるっぽかったけど……。あれ、ほんとに何なの……?」
真島さんが不機嫌になったあのときから、ずっと気がかりで仕方なかった僕は、答えを知っていそうな夏生に聞くことにした。もちろん、自分なりに思い当たる節をあげてみようとしたが、天川さんとの1件以外思い当たらない。しかし、天川さんとの1件で真島さんが不機嫌になる理由がさっぱりわからないのだ。
「ええ……? マジでわからないの……?」
夏生が呆れた顔で言った。
「うん。さっぱり」
僕がきっぱりと言うと、夏生がため息をついた。
「そうか。まあ、教えてやってもいいが、こういうのは自分で何とかするべきだと思うんだよな……。おっ、敵発見!」
教えてやってもいいとは言うが、今の夏生の態度には明らかに教えてくれそうな気配が全くない。
「はあ……。まあ、明日、何とか仲直りできるように頑張るよ」
このまま真島さんを不機嫌なままでいさせることができれば罰ゲームアプローチが終わるきっかけになるかもしれないが、夏生や内田さんに校外学習で気まずい思いをさせるのは申し訳ない。そのため、僕は、仲直りのために奔走しようと決めた。
「おう。頑張れよ」
ゲームの片手間に夏生が言った。
その後は、しばらく僕と夏生のスマホから発せられる物騒な銃声の音が部屋に鳴り響き続けた。
***
何戦かゲームをした後、僕と夏生はこっそり持ち込んでいたカップ麺を食べることにし、テーブルを挟んで向かい合うようにして座っていた。
「いやあ、こういうの中学の修学旅行のときは失敗したからマジでテンション上がるわ!」
「最初は、どうかと思っていたけどこういうのも悪くないね」
「だろ!? 持ってきて正解だろ!?」
腕を組んで得意げに夏生が言った。
得意げに言うことではないが、僕も共犯であるため、つべこべは言えない。
「ま、さっき自販機で買ってきた缶のコーラも冷えてるし、無礼講といこうじゃないか!」
夏生が冷蔵庫の方へ歩いていきながら言った。
夏生は無礼講と言っているが、いつも無礼講じゃ……、などと思ったがそんなことを言うのは無粋であることはわかっているため言葉を飲み込んだ。
「ほいよ!」
キンキンに冷えたコーラを夏生が手渡してきた。
「ありがと」
「そんじゃ、カップ麺もできる時間だし、乾杯といきましょう!」
夏生が突き出してきた缶コーラに僕は、自分の手にある缶コーラをコツンとぶつけた。
「ぷはー! 最高だわ!」
一口目のビールを飲んだ人みたいな口調で夏生が言った。炭酸飲料であることは変わりないため、あながち反応としては間違っていないのか? と僕は思った。
そんな夏生の反応を見ながら、僕も夏生に続いてコーラを飲んだ。
コーラが喉を通った瞬間――、
「……!?」
いまだかつてないほどの爽快感を感じた。
「ははは! 身に染みるよな!」
夏生がうんうん、と腕を組みながら首を縦に振っていた。
「まさか、こんなにうまく感じるとは……」
「まあ、今日色々災難に遭ったし、耐え抜いたご褒美だろ」
確かに今日の頑張りを考えると、これくらいあってもいいだろう。
僕は、そう思った。
「まあ、コーラが上手いのはさておきだ。そろそろ、真島さんと何があったのか、話してくれてもいいんじゃないか……? こういうときはやっぱ肴が必要だろ?」
コーラのうまさに酔いしれた後、カップ麺の蓋をはがし手をつけようとしていた僕に夏生がニヤニヤとしながら言った。
「肴って……」
まあ、誤魔化しきれないよな……。
夏生の恋愛嗅覚なるものは意外と侮れない上、僕への真島さんの態度を間近で見られてしまっている以上、誤魔化しきれないと思った僕は、全てを話すことにした。
***
「あの正直者な真島さんが来愛に嘘告白!? ガチ!?」
信じられないと言いたげな顔をしながら夏生が言った。
何があったのか教えろと言ってきたくせに夏生は僕の妄想だと言いたげな顔をしていた。
「いや、ほんとほんと。もちろん、断ったんだけど、そしたら知っての通り、なんか僕に構ってくるようになってさ……」
「うーん……。ほんとにそれ嘘告白だったのか……?」
夏生が僕に怪訝な顔を向けてきた。
「この目で確かに真島さんが友達に詰められてるのを見たし、それは間違いないよ。僕に構ってくれてるのは嘘告白の延長線で、僕を落とせるまでアプローチするみたいな感じだと思ってる」
僕はそう言い、カップ麺を一口すすった。
「うーん……。まあ、嘘告白で振っても構ってくるなら、そう考えるのが妥当だが……」
夏生がどこか納得していない様子で言った。
「まあ、そんな感じだから、僕のせいで不機嫌になっている理由がよくわかんないんだよね……。天川さんに僕がデレていたと思われたとて、罰ゲームアプローチなんだし、不機嫌になる理由がさっぱりだよ」
「ああ……。なんだ……? とりあえず、今の話を聞いて、さっき真島さんが不機嫌な理由を聞かれたときに教えなくて正解だと思ったわ……。お前はもう少し真島さんにちゃんと向き合うべきだな」
夏生がズルズルと大きな音を立てて、カップ麵を一気にすすった。
「……?」
頭上に大きなクエスチョンマークを浮かべる僕を見て、夏生が大きなため息をついた。
「まあ、1つアドバイスするなら、ちゃんと自分の心に素直になることだな」
カップ麺のスープをズズッと飲み干した夏生が言った。
なんかすごくいいことを言ってる感出してるけど、なんで僕が真島さんのことを好きな前提なんだ……?
「何で、僕が真島さんのことを好きな前提で言うの……?」
「そりゃあ、あれだけデレてたら好きなんだなあ、と……」
夏生がニヤニヤとしながら言った。
「はあ……。それは、まあ、あんな美少女に罰ゲームでも構ってもらえたら普通にドキドキしちゃいますよ……? それでも、僕は罰ゲームを本気にするほど馬鹿じゃないよ。そもそも、嘘告白をされた時点で好きになるなんてありえないし……」
そう言う僕を見て、夏生がなぜか頭を抱えた。
「あー……。こりゃ真島さんは大変なのを相手にしてますなぁ……」
ぶつぶつと夏生が何かを呟いていた。
夏生が何を呟いているのか聞き取れなかったが、まあ、どうせ的外れなことを言っているような気がしたため、無視して、残っているカップ麺に手をつけた。
夏生はなぜだかはわからないし、どんなことを考えているかもわからないが、この会話を通して僕とは違う考えに至ったようだ。もっとも、夏生は教えてくれそうにないが。
しかし、夏生の「自分の心に素直に」という言葉がやけに耳に残った――。
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