第18.5話 取り残された2人(末吉夏生 side)
来愛の捜索に真島さんとかなちゃんが向かった後、お互いに相方に取り残された俺と内田さんは流れで共に燃え盛るキャンプファイヤーを眺めていた。
「「……」」
こういうとき、女子と2人で何を話せばいいんだ……?
飯盒炊飯のときに、真島さんと2人になるということはあった。しかしあのときは、じゃがいもを洗うという作業が割り振られていた上、真島さんが思っていた以上に話を膨らませてくれたため、何とか場を持たせることができた。
だが、今は真島さんと2人になったときとは、全く違う状況だ。
何せ、この色々と噂の出回っているキャンプファイヤーで女子と2人きり。気まずくないわけがない。
そんな風に俺が、気まずさを感じながらぼんやりとキャンプファイヤーを眺めていると――、
「ねえ、末吉君」
内田さんが突然、声をかけてきた。
「え、あ、はい!?」
俺は、突然、話しかけられ、裏返った声を出してしまった。
そんな甲高いで驚いた俺に、そんなに驚くことないじゃない、と言いたげな顔を内田さんが向けてくる。
まあ、十中八九来愛絡みのことだろうな……。
バスでの俺への対応や、普段の男子との接し方を見るに、必要最低限のコミュニケーションしか取っていないため、個人的なことを聞くようなことはしてこないだろう。
そう踏んだ俺は、落ち着いたところで、こほん、と咳払いをし、俺は言った。
「それで、何を話したいんだ……?」
「奈緒と上坂君のことなんだけど」
「ああ……」
予想はしていたが、やはりあの2人絡みのことだった。
「あの2人のこと気づいているわよね……?」
「そりゃ、もちろん」
なら話が早いわ、と内田さんが安心したような表情を浮かべる。
「末吉君目線で、あの2人って、どのくらい進展しているように見える……?」
いつもの掴みどころのない口調で内田さんが言う。
「うーん……。真島さんは、結構押してると思うし、正直、来愛次第ってところじゃないか」
「やっぱり、そうよね……」
内田さんがため息をついた。
「上坂君、何か言ってた……?」
「まあ……」
言葉を続けようとした瞬間、中学生のときのあまり思い出したくない記憶が頭をよぎる。そして、言葉を続けることを躊躇い、俺は口ごもってしまった。
いい加減あれは過去のことと割り切らなければいけないのに、未だに引きずってしまう。
――夏生になんか相談しなきゃよかった……。
当時、仲が良かった友人に言われたそのひとことが未だに頭から離れてくれない。
恋のキューピッドだ、と俺に恋愛相談してうまくいったクラスメートや先輩たちに持て囃されて、調子に乗っていた俺の目を覚ましてくれたひとことではある。
しかし、そのひとことに囚われ今、俺は中途半端なことばかりしてしまっている。
今、俺は、来愛の力になりたい。そうは思うが、あのときみたいに失敗したくない。そんな思いが鎖となって足に絡みついてくる。
足を踏み出しても、数歩は進めるが途中で転んでしまい、そこで終わってしまう。
真島さんにアドバイスしたときなんかが最たる例だ。
また、あんな風に失敗して、高校でせっかく仲良くなれた来愛を失うのが怖い。
ポリシーなんてそれっぽい言葉であまり関与し過ぎないようにしているが、ただそれが怖いだけだ。
「末吉君……?」
物思いに耽り、黙り込んでしまった俺の顔を内田さんが覗き込んでいた。
「あ、ああ……。すまん、ボーっとしてた!」
俺は、我に返り慌てて言った。
「別にいいわよ。とりあえず、あなたの反応を見て、上坂君が何か言ってたけど、あなたから言いたくないってことは、わかったから」
相変わらずの無機質な声で内田さんが言う。
「……」
図星をつかれて、俺は再び黙り込む。
しかし、内田さんからそれ以上、追及されることはなかった。
「「……」」
再び俺と内田さんの間に沈黙が流れ始めた。
俺と内田さんは、そのままぼんやりとキャンプファイヤーを囲むように踊る生徒たちを眺め続けた。
そうして過ごすうちに、数分が経ったころだった――。
踊っていた生徒たち――主に、男子生徒が突然、ぴたり、と動きを止めた。
「お前ら! かなちゃんが帰って来たぞ!」
そう大声で知らせる男子生徒の声に、多くの男子生徒が反応した。
――あ、これ、絶対、一波乱あるやつだ。
俺は、そう直感すると同時に内田さんの方を見た。
内田さんも苦笑いをしながら、こちらを見ていた。
「かなちゃん! 真島さんと上坂の野郎はどこですか!?」
「あ、えっと……。まだ、上坂君は見つかっていなくて……」
「じゃあ、真島さんは……!?」
「真島さんは……その……。そ、そう! 先生は、キャンプファイヤーで仕事があるから先に来させてもらったの……。多分、もうすぐ、戻ってくるよ。うん」
男子生徒たちにものすごい勢いでつめられたかなちゃんが目を泳がせながら応答していた。
いや、嘘つくの下手過ぎないか……?
「ということは、今、真島さんは、一人ってことですよね!? 女子の夜の一人歩きは心配だ! 迎えに行かなければ!」
ここぞとばかりにかなちゃんに詰め寄っていた男子の一人が声高らかに言って、かなちゃんの歩いてきた方へと駆け出した。
他の男子生徒たちも「俺も!」と、後に続く。
「「……」」
そんな様子を無言で見守る俺と内田さん。
ドドドドドドドドド! と効果音が聞こえてきそうなほどの勢いで駆け出す男子生徒を前に呆れるしかなかったのだ。
「ねえ、末吉君」
内田さんが、右手でガシッと俺の肩を掴んでくる。
「は、はい」
俺はびくりと身体を震わせた。
なんかめちゃくちゃ力強いんですけど!?
予想外の力の強さに驚く俺のことなど露知らず、内田さんが続ける。
「あの男子たちを行かせちゃいけない……。そう思わない……?」
俺は、このときの内田さんの真剣な眼差しに思わず、固まってしまった――。
――内田さんはすごいや。
そう思わずにはいられなかった。
――友達の力になりたい。
内田さんは、そう思っているのが、真っすぐに伝わってくる目をしていた。
それに比べて、俺は、どうだ……?
――本気で来愛の力になろう。
そう思えているだろうか……?
答えは、否――。できていない。
俺は、内田さんの考えていることに協力するつもりではあるが、それよりも先に自分のポリシーに反していないかどうかを考えてしまった。
俺も内田さんみたいに真っすぐに、何が原因かはわからないが自分の気持ちに素直になれない友達――来愛の恋路を応援したい。
そう強く思った。
「末吉君……? 早くしないとあの男子たちが行っちゃうんだけど……?」
「ああ。俺もそう思う」
俺は、少し後ろめたさを感じながら言った。
「そう。じゃあ、早速、あいつらの足止めに行くわよ」
そう言うと、内田さんは立ち上がった。
そして、きょろきょろとあたりを見渡すと――、
「やっぱり、まだあった」
内田さんがにやりと笑う。
「まさか、あれ使う感じ……?」
俺は、冗談だろ……? と思いつつも聞いた。
「ええ、そうよ」
内田さんは何の迷いもなく、答える。
俺は、内田さんの考えていることを完全に理解し、思わず、乾いた笑いを零してしまった。
そんな俺の視線の先には、透明なビニール袋に入ったモデルハウスの展示会で風船を配ってそうな色違いのウサギの着ぐるみが数着あった――。
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