最終話 アリスは俺の大切な婚約者で未来の妻だからな、責任をとって一生幸せにしてやるよ

「拓馬、ねえ拓馬起きて」


「あれ、寝てたのか……」


 夕食を食べ終えた後、俺はいつの間にか寝てしまっていたようだ。今日は模擬挙式など朝から色々な事があったから疲れが溜まっていたのかもしれない。

 そんな事を思いながらゆっくりと起き上がる俺だったが、起こしてくれたアリスの方を見た瞬間俺は思わず声を上げてしまう。


「えっ!?」


「そんなに驚いてどうしたの?」


「いやいや、どうしたんだよそのお腹は!?」


 なんとアリスのお腹は大きく膨れ上がっていたのだ。それこそ妊婦のように。夕食を食べていた時は何とも無かったはずなのにこの短時間で一体何が起こったのだろうか。


「双子の赤ちゃんを妊娠してるんだから大きくて当然だよ。あっ、ひょっとしてまだ寝ぼけてる?」


「に、妊娠……?」


 確かにアリスとラブホテルで行為に及んだがちゃんと避妊はしたはずだし、何より妊娠したとしてもいきなりお腹が大きくなる事はどう考えてもあり得ないはずだ。


「もうすぐ生まれるから今日は名前を決めようって話だったじゃん……もしかして仕事で疲れ過ぎたせいで上手く頭が働いてないんじゃない?」


「……ごめん、ちょっと頭の中を整理したいから少しだけ待っててくれ」


 とりあえずベッドの脇に置いてあったスマホを手に取る俺だったが、カレンダーに表示されていた今日の日付を見て心臓が止まりそうになる。なんとそこには六年後の日付が表示されていたのだ。

 どうやら俺は未来に来てしまったらしい。普通なら絶対こんな事は信じられないだろうが、俺はアリスという未来から逆行転生してきた実例を知っているため信じる気になれた。


「そろそろ大丈夫そうだし話をしようか。事前に考えてた候補の中から今日正式に決定しようって話になってたけど、拓馬はどの名前がいい?」


 アリスから渡された紙には名前の候補がずらりと書かれている。この中から選ぶのは結構大変だなと思いながら見ていると何故か理由は分からないが妙にしっくりくる名前を見つけた。


「男の子が拓海たくみで女の子が亜莉奈ありなって名前が良いな」


「あっ、やっぱり拓馬もそれを選ぶんだ。実は私もその二つがいいと思ってたんだよね、じゃあ拓海と亜莉奈で決定にしよう」


「ああ、今から生まれてくるのが楽しみだな」


 そんな会話をしていると突然体が揺れ始める。まるで誰かに揺さぶられているようだ。


「拓馬、朝だから起きて。そろそろ起きないと学校に遅刻しちゃうよ」


 目の前にいるアリスは何も喋っていないはずなのに何故かアリスの声が聞こえてきていた。しかも何故か高い位置から。そして次の瞬間、視界が暗転した。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「おはよう、拓馬。朝食出来てるから食べよう 」


「……あれ、お腹が引っ込んでる。双子の赤ちゃんを妊娠してたんじゃないのか?」


 アリスのお腹は先程までとは違って平らに戻っていた。ひょっとしてもう出産してしまったのだろうか。


「ひょっとして寝ぼけてる?」


「おいおい、まさかの夢オチかよ……」


 アリスが不思議そうな顔をしているのを見てようやく先程の出来事が夢であった事に気付く。あまりにもリアル過ぎたせいで本当に未来に迷い込んでしまったのかと思うレベルだった。

 とりあえず眠気覚ましに洗面所で顔を洗った俺はテーブルに着席して朝食を食べ始める。


「私が妊娠してるとかって言ってたけど、拓馬は一体どんな夢を見てたの?」


「六年後くらいにアリスが男女の双子を妊娠して名前を決めるって夢だよ」


「へー、そんな楽しそうな夢を見てたんだ。私も見たかったな」


 俺の話を聞いていたアリスはちょっと羨ましそうな表情を浮かべていた。


「マジでリアルだったから」


「もしかしたら予知夢とかかもしれないよ、ちょうど私も大学を卒業してすぐの二十三歳くらいで子供が欲しいって思ってるしさ」


「そうなのか、ならそういう可能性もあるかもしれないな」


 逆行転生という超常現象が実際にあるのだから予知夢があったとしても全く不思議ではない。


「私達の子供なら絶対可愛いに決まってるよ、何たって美少女であるこの私の血を引いてるんだから」


「いきなり自画自賛か?」


「ひょっとしてまさか拓馬は私の事がブサイクに見えるの?」


「そんなわけ無いだろ、アリスは世界で一番美人だと思ってるよ」


 そもそもアリスがブサイクならこの世にいる女性は皆んなブサイクになってしまうだろう。


「へー、拓馬も言うようになったね」


「アリスは俺の大切な婚約者で未来の妻だからな、責任をとって一生幸せにしてやるよ」


 しばらくそんな会話をして盛り上がっているうちに出発しなければならない時間がやってきた。


「じゃあそろそろ学校に行こうか」


「ああ、今日から午後も授業になるし結構長い一日になりそうだな」


 俺達は忘れ物が無いかの最終確認をした後、戸締りをしてから出発する。こうして今日も俺とアリスの一日が始まった。

 本来はあの人と結ばれるはずだった運命変えてしまった事により今後何が起こるかは正直分からない。だが俺とアリスの二人なら何があってもきっと乗り越えられるはずだ。何の根拠もないがとにかくそんな予感がした。

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