第23話 ああ、彼氏と行くって伝えたから大丈夫だよ

「やっと着いたね」


「分かってはいたけど結構時間かかったな」


 ユニバースランドに到着した俺達は入り口前で写真を撮りながらそんな事を話していた。家を出てからここへ到着するまで実に三時間三十分近くかかっている。


「じゃあ早速入ろうよ」


「ああ、楽しみだ」


 懸賞で貰ったチケットを見せて入場ゲートをくぐると大きな観覧車やジェットコースター、メリーゴーランドなどが視界に入ってきた。

 ユニバースランドはハリウッド映画などをモチーフにしたテーマパークになっているため、各アトラクションにはその要素があるらしい。


「面白そうなアトラクションがたくさんあるからどれから乗るか迷っちゃう」


「色々あるから正直迷う気持ちは分かる」


 パンフレットを見ながら俺達はどのアトラクションに乗るかを話し始める。二人で話し合いをした結果、記念すべき最初のアトラクションはバイキングに決定した。

 ちなみにバイキングはパイレーツオブアトランティックという映画がモチーフになっているようだ。それから歩いてバイキングの前に到着した俺達だったが、視界にはかなり長い順番待ちの列が目に飛び込んでくる。


「バイキングも結構人気みたいだね」


「やっぱり絶叫系はみんな好きだよな」


 ここへ来るときに前を通りかかったジェットコースターやウォーターライドも長蛇の列ができていた事を考えると、やはり絶叫系は人気なようだ。列の長さを見て俺達は乗るかどうか迷い始めるが、一泊二日で時間は豊富にあるため待つ事にした。


「そう言えばアリスってユニバースランドに泊まりで行く事は家族に伝えてあるのか?」


「一応伝えてるけど、どうしたの?」


「いやほら、泊まりでしかも男の俺と行ってるから反対とかされなかったのかなと思ってさ」


「ああ、彼氏と行くって伝えたから大丈夫だよ」


 アリスは平然とそう答えたが果たしてそれは大丈夫なのだろうか。てか、家族には俺の事を彼氏って事にしてるのかよ。


「……絶対大丈夫じゃない気がするのは俺だけか?」


 もし俺がアリスの親なら高校生で彼氏と泊まりで旅行に行くと言われたら絶対反対しそうな気がする。その辺は一体どうやって説得したのだろうか。


「心配しなくてもうちの両親は割と放任主義なところがあるから。そうじゃないなら今みたいに一人暮らしなんか絶対出来てないよ」


「……なるほど、確かにそうだな」


 その説得力ある言葉を聞いて俺はめちゃくちゃ納得させられた。その辺が厳しい両親なら絶対に一人暮らしなんかさせるはずが無いに違いない。

 それからしばらく雑談をしながら待っている待っているうちに、いよいよ俺達の番がやってきた。安全バーが降ろされた後、開始を告げるアナウンスが流れゆっくりと船が揺れ始める。

 最初のうちは揺れ幅もかなり小さくそんなに怖さは無かったが、時間が経つにつれてだんだんとその激しさを増していく。


「お、思ってた以上に激しいな」


「それが良いんじゃない」


 若干ビビっている俺に対してアリスはめちゃくちゃ楽しそうな表情を浮かべていた。その後船から降りた俺達は再びパンフレットを見ながら次はどのアトラクションに乗るかを相談し始める。


「二連続で絶叫系に乗るのは疲れそうだし、次はもう少し穏やかな奴にしないか?」


「うーん、じゃあ次はコーヒーカップとかにしておく?」


「そうだな、そうしようか」


 コーヒーカップなら特に絶叫要素もないため大丈夫だろうと思っていたが、すぐにその考えが誤りだった事に気付く。


「ちょ、アリス回し過ぎ。このままだと酔うぞ」


「えー、聞こえない」


 なんとアリスはコーヒーカップに乗るや否やハンドルを力いっぱい回し始めたのだ。俺が止めても辞める気は無いらしく、そのままクルクルと回り続けた。その結果、俺は完全に酔ってしまい見事にベンチでダウンする羽目になっている。


「拓馬、コーラ買ってきたよ」


「……ありがとう」


 乗り物酔いには炭酸飲料が効果的という事でアリスは近くにあった自動販売機までわざわざ買いに行ってくれたのだ。

 テーマパークの自動販売機は値段設定がめちゃくちゃ高いのでちょっと申し訳ない気持ちになってたが、よくよく考えたら全部アリスのせいなので罪悪感は一気に薄れる。

 てか、同じコーヒーカップに乗っていたはずなのに何でアリスは全然酔ってないんだよ。それが気になって仕方がない。


「じゃあ私が飲ませてあげるね」


「!?」


 そう言い終わるや否やアリスは手に持っていたペットボトルを開けてコーラを口に含むと、ベンチで横になっていた俺に唇を押し当てて無理矢理流し込んできた。周りには普通に人がいるというのに一体何を考えているだろうか。


「お、おい急に何するんだよ」


「口移しで飲ませただけだけど?」


 突然の事に驚いた俺がそう抗議するとアリスは平然とそんな事を言って退けた。まさかとは思うがアリスはこれがしたくてわざと俺をコーヒーカップで酔わせたんじゃないだろうな。アリスなら普通に有り得そうなのが怖かった。

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