第4話 まあ、いずれは私も黒月になるんだから遅いか早いかの違いだよ
「本当に俺と同じマンションだったのか……」
「だから言ったじゃん」
アリスと一緒に通学路を歩く俺だったが、正直マンションに到着するまでは半信半疑だった。だがエントランスにカードキーを使って入れた時点でこのマンションの住人である事はほぼ確定的だ。
「あっ、そうそう。私一人暮らしをしてるんだけど今回が初めてで寂しいから気軽に遊びに来てよね、私も拓馬の部屋に時々遊びに行くから」
「えっ、一人暮らしなのか!?」
この広いマンションに高校二年生のアリスが一人暮らしをしているという事実はかなり衝撃的だった。アニメや漫画では高校生の一人暮らしはよくある設定だが、現実では中々聞かない。
「私だけ日本に帰ってきて、他の家族はまだ外国にいるから」
「なるほどな」
それならアリスが一人暮らしをしている理由にも一応は納得できる。少ししてエレベーター前に到着した俺達はそのまま中に乗り込む。
「ちなみにアリスは何階に住んでるんだ?」
「私は六階かな、実は昨日引っ越してきたばかりでさ」
「えっ、俺と同じ階なのか。凄い偶然だな」
そんな会話をしているうちにエレベーターが六階に到着したため二人揃って降りる。そして通路を歩く俺達だったが、アリスは604号室の前で立ち止まった。
「ここが私の部屋だよ」
「……いやいや思いっきり隣じゃん!?」
なんとアリスは俺が住んでいる隣の部屋に引っ越してきたらしい。日曜日の昨日引っ越し業者が604号室に出入りしていた様子は確かに見ていたが、はっきり言ってこの展開は予想外だった。
まるでアニメや漫画のような展開が朝から何度も続き過ぎたせいで、俺の頭は完全にオーバーヒートを起こす寸前だ。
「あっ、そうそうせっかくだからLIMEを交換しようよ。これから色々連絡とかする事になるだろうし」
「……別に良いけど」
俺はぼっちのためチャットアプリであるLIMEは基本的に家族や親戚としか使ってない。そのため女子を友達登録するのは当然今回が初めてだ。そんな事を思いながらポケットからスマホを取り出す。
「じゃあスマホを貸して」
「えっ、QRコードを読み取るかIDを入力すれば済むから別に貸す必要は無い気が……」
一瞬とは言えロックを解除した状態のスマホを他人に貸す事には抵抗があった俺はそう口にした。
「電話番号とメールアドレスもこのタイミング一緒に拓馬のスマホに登録しようと思ってさ。それなら私が直接入力した方が絶対早いでしょ?」
「それは確かにそうかもしれないけど」
アリスの主張にも一応納得できる部分があったためそう反応した俺だったが、どうやらそれが良くなかったらしい。
「納得してくれたみたいだし、拓馬のスマホ借りるね」
なんとアリスはそう言い終わるや否や俺の手からスマホを奪い取ったのだ。しかも運が悪い事にちょうどロックが解除されている状態だった。多分いつもの癖でポケットから出すと同時に指紋認証でロックを解除してしまったのだろう。
「……登録だけしたらすぐ返してくれよ」
「はーい」
スマホを取り返す事を諦めた俺は力無くそうつぶやいた。それからアリスは凄まじい早さで俺のスマホを操作し始める。しばらくしてスマホを返してくれたわけだが、中々ツッコミどころが満載だった。
「名前の登録が黒月アリスになってるのは何でだよ?」
「ごめん、打ち間違えちゃったみたい。まあ、いずれは私も黒月になるんだから遅いか早いかの違いだよ」
口ではそう話すアリスだったが意地悪な笑みを浮かべていた事を考えると間違いなくわざとに違いない。
「私からの連絡はちゃんと返信してよね、じゃあ
そう言い残すとアリスは鍵を開けて部屋の中へと入って行った。それを見届けた後、俺は鍵を開けて自宅である605号室へと入る。
「今日は朝から色々あり過ぎてマジで疲れた」
起きてからまだ半日くらいしか経っていないというのに、密度濃い時間を過ごしたせいで家に帰ってくるのがめちゃくちゃ久しぶりに感じてしまう。
自室へと直行した俺は床にリュックサックを置いてベッドへとダイブする。寝転んだ状態でスマホを操作する俺だったが違和感を感じて手を止めた。
「あれ、俺のスマホってこんなに動作遅かったっけ……?」
理由は全く分からないが普段よりもほんの少しだがスマホが重いような気がするのだ。原因を調査し始める俺だったが特に何も分からなかった。
「……そろそろ機種変更した方がいいかもな」
このスマホは中学生の時に使い始めてから既に四年以上が経過しているため、色々と劣化してきていてそろそろ買い替えの時期なのかもしれない。
きっと動作が遅い原因もその辺りが関係しているのだろう。激しい睡魔に襲われこれ以上深く考える事が面倒になった俺はひとまずそう結論付けた。
実際はアリスの手によって個人情報が全て筒抜けになる遠隔監視アプリをスマホにインストールされたせいで重くなっていたわけだが、俺がその事実を知るのはまだかなり先の話だ。
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