第46話 分かってるとは思うけどあんな事拓馬にしかしないから

 チャペルの中に入った俺達は模擬挙式の受付を済ませて席に着席する。周りは二十代半ばから三十代前半くらいのカップルが多く、当然俺達のような高校生はいなかった。


「こういう場所に来るのは生まれて初めてだからちょっと緊張してる」


「だよね、実は私も初めてだから同じ気持ちだよ」


「あんまりキョロキョロしないようにしないとな」


 とにかく場違い感が半端なかったが、一年後にはアリスと結婚する事になるため今日の流れをよく覚えて帰ろう。そんな事を考えているうちに模擬挙式の開始時間となった。

 まずは牧師と新郎役が入場し、続いて新婦役が父親役と一緒に会場へと入ってくる。新郎新婦役なだけあって二人ともかなりの美男美女だった。

 まあ、俺の中ではアリスが一番美人だが。そして讃美歌斉唱と聖書朗読を行い、いよいよ誓いの言葉になった。


「夫たる者よ。汝、健やかなる時も、病める時も、常にこの者を愛し、慈しみ、守り、助け、この世より召されるまで固く節操を保つ事を誓いますか?」


「はい、誓います」


「妻たる者よ。汝、健やかなる時も、病める時も、常にこの者に従い、共に歩み、助け、固く節操を保つ事を誓いますか?」


「はい、誓います」


 新郎新婦役の二人は流石に慣れているのかスムーズに言葉を口にしていた。絶対俺なら緊張して声が震えてしまいそうな気がする。

 その後指輪の交換と結婚誓約書への署名、讃美歌斉唱を行い、最後に新郎新婦役が退場して模擬挙式は終了となった。時間にして大体三十分くらいだったろうか。


「誓いのキスは無いんだな、結婚式って勝手にありそうなイメージを持ってたけど」


「省略する場合もあったりするらしいよ。特に今回はあくまで模擬挙式だから新郎新婦役の二人は本物のカップルじゃないと思うしさ」


 確かに本当のカップルでは無いのにキスなんかしていたら大問題に違いない。万が一既婚者だった日には修羅場間違いなしだ。


「私達の結婚式の時は勿論誓いのキスまでしっかりやろうね」


「……アリスって本当にキスが好きだよな」


 アリスは転校初日にこの時間軸では初対面のはずの俺に対していきなりディープキスをしてきたくらいだし。


「分かってるとは思うけどあんな事拓馬にしかしないから」


「もしアリスが他の男とキスしてたら死ねる自信しか無いわ」


 そんなやりとりをしながら俺達は展示されていたウェディングドレスやタキシードを見始める。実際に試着できるためせっかくだから着てみようという話になっていた。


「拓馬は何色のタキシードにするの?」


「うーん、何色がいいんだろう?」


 目の前には様々な色のタキシードがあったため迷ってしまう。無難に行くなら白や黒だと思うが、ネイビーやグレーも選択肢としてはありな気がする。

 ワインレッドやゴールドは論外だ。そんな派手な色のタキシードは絶対俺には似合わない。着る前から分かり切っていた。

 しばらく考えた結果、白のタキシードを着る事にした。やっぱり結婚式のタキシードと言えば白のイメージが強い訳だし。アリスもどの色を選ぶか結構長い間迷っていたが、結局純白のウェディングドレスを選んだ。


「やっぱり色白のアリスには純白のウェディングドレスがよく似合うな」


「拓馬も結構良い感じだと思うよ」


「本当か……?」


 ハーフで大人びているアリスとは違い俺は年相応の容姿をしているため、どう考えてもタキシードに着られる感じになっているとしか思えないのだ。

 まあ、アリスは美術の課題で人物画を描いた時に俺をめちゃくちゃ美化していたため目に何かのフィルターがかかっている可能性も否定はできない。


「せっかくだし、写真撮らない?」


「そうだな、ウェディングドレスもタキシードも中々着る機会なんてないしな」


「よし、早速撮ろう。とりあえず何かポーズをとって立ってみてよ」


「こんな感じでどうだ?」


 そんな会話をしながら写真を撮り始める。俺単体やアリス単体、二人で一緒などとにかく様々な写真を撮った。


「あっ、今撮った写真をSNSにあげてもいい?」


「別に構わないぞ、それにどうせ断っても無駄な事は分かってるし」


 アリスは今までのありとあらゆる写真を勝手にSNSへとあげていた前科がある。だから何枚か写真が増えたところで今更何とも思わない。


「ありがとう、それとLIMEの新しいアイコンにもしておいたから」


「ちなみにどの写真だ?」


「これだよ」


 そう言いながらアリスはスマホの画面を俺に見せてくる。そこには俺とアリスが幸せそうに微笑むツーショット写真が表示されていた。


「またクラスメイトから何か言われるパターンじゃん、まあ別に良いけど」


 もはやアリスと婚約した事を隠す気は一切無いため好きにやってくれて大丈夫だ。そもそもベストカップルコンテストのせいでもう既に広く知れ渡っているため隠す意味があまり無い。


「よし、写真もたくさん撮れたしこのくらいで私は満足かな。また来年の結婚式で着ようね」


「ああ、そうだな」


 それぞれウェディングドレスとタキシードを脱いで返却した俺達はチャペルを後にした。

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