第5話 あの広い部屋に一人だと寂しかったから早速遊び来ちゃった
「拓馬、夕食が出来たからそろそろ起きて」
「……もうそんな時間か」
体を揺さぶられて目覚めた俺はそうつぶやきながらゆっくりと起き上がった。まだ眠気が残っているせいか頭がぼんやりとしている俺だったが、ベッド脇に立っていた人物を見た瞬間一気に目が覚める。
「な、なんで俺の部屋にいるんだよ!?」
てっきり母さんが起こしに来たのだと思っていた俺だったが、なんと母さんでは無くアリスだったのだ。俺が驚いたような顔をしているとアリスはまるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべて口を開く。
「あの広い部屋に一人だと寂しかったから早速遊び来ちゃった」
「いやいや、玄関に鍵かかってただろ?」
「拓馬の
どうやら母さんの仕業らしいがそれにしても一応お客様であるアリスに俺を起こさせるとは一体何を考えているんだろうか。
「とりあえず夕食だからダイニングに行こう」
「……ああ」
とりあえずアリスの言葉に従う事にした。それにしても同級生の美少女が俺の部屋にいる光景には違和感しか感じない。
二人でダイニングに行くと母さんがキッチンで最後の盛り付けをしていた。今日の夕食はハンバーグのようだ。
「拓馬を起こしてくれてありがとう、アリスちゃん」
「いえいえ、義母様。お安いご用ですよ」
俺が寝ている間にかなり仲良くなったらしいアリスと母さんは二人でそんな会話をしていた。ひとまず俺が席に着くとアリスも同じように着席する。
「……ひょっとしてまさかアリスもうちで夕食を食べる感じか?」
「私が誘ったのよ、せっかくなら食べて行きなさいって。私と拓馬だけなのは寂しかったし」
確かに父さんが単身赴任でいない今、母さんと二人で食卓を囲む事はちょっと寂しいと俺も思っていた。だが今日知り合ったばかりの相手をいきなり夕食に誘うなんていくらなんでも仲良くなり過ぎだろ。
学校でもアリスは転校初日だというのにクラスメイト達とあっという間に打ち解けていたため、もしかしたら他人と仲良くなる天才なのかもしれない。
それから三人で夕食を食べ始める俺達だったがアリスは母さんからめちゃくちゃ気に入られたようで、食事中ずっと楽しそうに話していた。
「へー、アリスちゃんって拓馬とほとんど変わらないくらい身長が高いと思ったら百七十二センチもあるんだ。それだけ美人でスタイル良いならモデルになれそうね」
「ありがとうございます、顔と身長はママからの遺伝なんですよね」
「って事はアリスの母親がイギリス人なのか?」
ヨーロッパ系のハーフは外国人の父親と日本人の母親という組み合わせのイメージが強い。そのため母親からの遺伝という言葉を聞いて気になってしまった。
「うん、そうだよ。パパが日本人でママがイギリス人なんだ」
「そっか、国際結婚は別に珍しくなくなってきてるけどその組み合わせは珍しいわね」
「はい、よく言われます」
しばらくハンバーグを食べながらそんな感じで雑談していた俺達だったが、気付けばかなりの時間が経っていた事に気付く。
「……じゃあ私はそろそろ帰りますね、ごちそうさまでした」
「また明日学校で」
「アリスちゃん、いつでも大歓迎だからまたおいで」
俺と母さんはアリスを玄関まで見送った。本来なら家まで送るのが男性としての礼儀だとは思う。しかしすぐ隣の部屋なためその必要は無いと判断した。その後母さんと二人で食器を片付け始める。
「アリスちゃん、良い子だったわね。礼儀正しくて上品だし、将来はああいう子が拓馬のお嫁さんになってくれたらいいのに」
「母さんはめちゃくちゃアリスの事を気に入ったんだな」
「最初インターホンを鳴らされて出た時はどんな子かなと思ってたけど、いざ話してみたら波長が合ったのよね」
母さんはかなり上機嫌になっていた。ここまで機嫌が良さそうな母さんを見るのはかなり久しぶりなので、本当に心の底から気に入ったのだろう。
「だから拓馬、頑張ってアリスちゃんを捕まえなさいよ」
「まあ適当に頑張ってみるわ」
捕まえるどころか逆にアリスから捕まえられそうになっているなんて母さんは想像すらしていないだろう。そんな事を思いながら食器を片付け終わった俺は部屋に戻る。
そして明日の予習をするためにリュックサックの中から教科書とノートを取り出そうとしていると、机の上に置いてあったスマホにLIMEのメッセージが届いている事に気付く。
「一体誰からだ……?」
ぼっちの俺にはやり取りをする相手なんて基本的にいないため、メッセージが送られてくる事はほとんど無い。
「ひょっとしてクラスのグループチャットかな?」
流石の俺でもクラスのグループにはちゃんと入っている。多分そうに違いないと思ってスマホの画面を見ると予想とは違いメッセージの送り主はアリスだった。
「えっと……明日も朝からよろしくか」
メッセージには絵文字などを使いつつ短くそう書かれていたが、
「まさか朝から俺の部屋に来る気じゃないだろうな……?」
そのつぶやきは見事的中する事になるわけだが、今の俺が知るよしも無かった。
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