第43話 嘘だな、だって父さんと母さんも含めて今まで誰にも話した事が無いし
ベストカップルコンテストの審査も残すところ告白だけとなった。クイズの正解数や二人三脚の順位で審査されていた先程までとは違い、告白は会場にいる観客達の拍手の大きさで審査されるらしい。
他のカップルの告白をステージの裏で聞きながら順番を待っているが、聞いているこっちが恥ずかしくなるようなセリフで告白をしていた。
「それで今回の作戦は?」
「私から告白したって設定でいくつもりだから拓馬はそれっぽく適当に合わせてくれれば良いよ」
なるほど、告白と聞けば男子が女子に対してするイメージがどうしても強い。だが逆に女子から男子にするというパターンも普通にあり得るはずだ。
「分かった、それで行こう」
「うん、よろしく」
それから少ししていよいよ俺達の順番がやってきた。ちなみに他のカップルは全組男子からの告白となっていたため女子からの告白パターンは今のところ無しだ。
ステージに立った俺達は司会に促され、した事もされた事もない完全にでっちあげな告白の再現を始める。
「拓馬、突然こんなところに呼び出しちゃってごめんね」
「アリスか、どうしたんだ?」
「実はね、拓馬に大事な話があるんだ」
「大事な話?」
俺はアリスに合わせてそれっぽいセリフを喋る。恐らくこの後告白される流れなのだろう。そう思っているとアリスは頬を赤らめながらニヤッとした笑みを浮かべて口を開く。
「高校を卒業したら私と結婚して欲しくてさ」
「……ちょっと待て、今何て言った?」
予想もしていなかった言葉が出てきて俺は思わず素に戻ってしまう。あれ、さっき聞いた話と全然違うんだけど。観客達もかなりざわついていた。
「拓馬が混乱しちゃう気持ちもよく分かるよ。私達まだ付き合ってないんだし」
「そ、そうだよ。いくらなんでもちょっと話が飛躍し過ぎじゃないか?」
「だから結婚前提に私と付き合って。それでもし拓馬が本当に結婚してもいいと思ってくれたら改めてプロポーズして欲しいな」
「えっと……」
どう答えればいいか分からなくなってしまった俺は言葉に詰まる。再現とは言え告白を受け入れてしまえば俺とアリスは結婚を前提に付き合っている事になってしまう。
その上ハルカス60で俺がアリスにプロポーズしたという情報が学内に拡散されている事を考えると、告白を受け入れると高校を卒業と同時に結婚しなければならなくなる。
かと言って告白の再現をやっているのだから受け入れない訳にはいかない。告白を受け入れなければ破綻してしまうし。あれ、完全に詰んでないかこれ。
「拓馬、告白を受け入れてくれないといつまで経っても再現が終わらないよ」
マイクに入らないほど小さな声でアリスはそう話しかけてきたわけだが、今までかつて見た事がないほど恍惚とした表情を浮かべていた。うん、完全に確信犯な奴だわ。
「……分かった、これからよろしく」
「うん、浮気しちゃ駄目だからね……以上で再現を終わります」
アリスがそう言い終わった瞬間、会場に大きな拍手が起こった。色々と急展開な告白だったが観客達にはウケたらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「私達が学内のベストカップルだって」
「クイズと二人三脚、告白で全部一位だったからそうなるだろ」
「やっぱり私と拓馬の相性抜群だね」
「そうだな」
ベストカップルコンテストは俺達の優勝という形で終わった。そのためアリスはさっきからずっと上機嫌だ。それに対して俺はモヤモヤが止まらなかった。
ぶっちゃけ外堀を完全に埋められてアリスと結婚せざるを得ない状況になってしまった事はあまり問題では無い。
正直アリスからロックオンされた時点でいずれはこうなってしまうと思っていたわけだし。そんな事よりも気になっているのはクイズの時にアリスが絶対知り得ないはずの俺に関する情報をいくつも知っていた事だ。
「なあ、アリスは何で俺の小学生の頃の将来の夢を知ってたんだ?」
「ああ、それは義母様に聞いたからだよ」
「嘘だな、だって父さんと母さんも含めて今まで誰にも話した事が無いし」
そう、小学生の頃の将来の夢が漫画家だった事はこの世で俺しか知らない。それをアリスが知っている事は本来あり得ないはずだ。それこそ何かの超常現象でも起きない限り。
「……そっか、ちょっと詰めが甘かったな」
「どういう事か教えてくれるか?」
「そうだね、拓馬に色々と隠してた事をそろそろ話そうと思ってたから丁度いい機会かもね」
思えばアリスは色々と謎が多かったが、どうやらようやく話してくれる気になったらしい。
「ただここだとちょっと話しづらいから私達の教室に行こうか。多分今の時間なら誰もいないと思うし」
「分かった、そうしよう」
俺達は教室を目指して歩き始める。学園祭も終わりの時間が近づいているという事で人通りはかなり少ない。
それから無言で歩き続けて数分が経ち教室に到着した。予想通り教室の中には誰もいない。夕日が差し込んでオレンジ色に染まった教室はどこか寂しげな雰囲気が漂っていた。
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