第25話 そこは大丈夫、ここは有人フロントじゃないから

 コスプレをして写真撮影をした後も引き続きアリスと色々なアトラクションで遊んでいたわけだが、気付けば辺りが薄暗くなり始めている。


「もうこんな時間か、楽しいと時間経つのはあっという間だな」


「そうだね、ちょっと名残惜しいけど次で最後にしようか」


「オッケー、じゃあ観覧車へ行こう」


 夜景がめちゃくちゃ綺麗だとパンフレットに書かれていたため観覧車は最後に乗ると決めていた。しばらく歩き続けて観覧車の前に到着した俺達だったが、結構人が並んでいる姿が目に入ってくる。


「やっぱり人が多いな」


「私達と同じ考えみたいだね」


 並んでいるのは家族連れやカップルが多かったが、夜景が楽しみという声が周りからちらほらと聞こえてきていた。


「観覧車は回転率が良いって聞くし、多分すぐ乗れるだろ」


「だね、今日撮った写真でも見ながら待とう」


 俺達は順番待ちをしながら二人で今日撮った写真をアリスのスマホで見返し始める。入り口や各アトラクションの前で撮った写真、コスプレした写真などアルバムアプリの中はたくさんの写真で溢れかえっていた。


「……おい、いつの間にこんな写真撮ったんだよ」


「ああ、それは拓馬があまりにも可愛かったから無音カメラでこっそり撮っちゃった」


 お土産ショップでアリスにめちゃくちゃ勧められて恐竜の被り物を一瞬だけ被った俺だったが、いつの間にか激写されていたようだ。油断も隙もあったもんじゃない。

 それから少ししてついに俺達の番となり、係員の指示に従ってゴンドラの中へと乗り込む。そのままゆっくりとゴンドラは上昇を始め、ユニバースランドの夜景が見え始める。


「思ってた以上に綺麗だな、流石パンフレットで映え写真が撮れるって紹介されてただけの事はある」


「ねえ、拓馬。私に何か言う事があるんじゃないの?」


 俺が夜景を見て一人で盛り上がっているとアリスは突然そんな事を言い始めた。真面目に考える俺だったが心当たりが無いため何も言葉が出てこない。黙り込んでいるとアリスはニヤニヤしながら口を開く。


「夜景よりアリスの方がずっと綺麗だ、他の誰のものにもしたくないとか今なら色々と私にアピールできるチャンスだよ?」


「……うん、真面目に考えた俺が馬鹿だった」


 どう考えてもそんなの分かるはず無かった。てか、そもそも俺がそんな事を絶対言うわけないだろ。そんな事もありつつ俺達はゴンドラが地上に到着するまで二人で外の写真を撮ったりしながら盛り上がっていた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 観覧車を降りてユニバースランドを後にした俺達は適当に夕食を済ませてからホテルへと向かい始めている。


「な、なあ疑うわけじゃないんだけど本当にこっちで合ってるのか?」


「うん、大丈夫」


 ホテルの予約をしてくれたアリスの案内で今日の宿泊先に向かっているわけだが、さっきから妙な胸騒ぎがしていた。

 その理由は簡単でどんどん繁華街から離れていっており、現在俺達が向かっている方向にはいわゆる夜の街しか無いからだ。

 夜の街に近づくにつれて家族連れや学生の姿はどんどん減っていき、通りには怪しいネオンがまたたき始める。しばらく歩き続ける俺達だったが、アリスはとある建物の前で足を止めた。


「目的地に着いたよ」


「えっ!?」


 俺達の目の前には城のような外観をした巨大な建物が存在している。どうやら今日の宿泊先はここらしい。


「じゃあ入ろっか」


「いやいや、ここどう見てもラブホテルじゃん。何考えてるんだよ」


 普通に中へ入ろうとするアリスに俺は思わずツッコミを入れた。


「実はホテルの予約するのを忘れちゃってさ。安く泊まれそうなところが他に無かったんだよね」


「本当かよ……」


 そんなしようもないミスをアリスがするとはとても思えないため絶対わざとに違いない。


「そもそも高校生の俺達が入れるのか?」


「そこは大丈夫、ここは有人フロントじゃないから。とりあえずここでずっと喋ってたら目立つし入ろう」


 そのままアリスに手を引かれて俺は中へと入る。場違い感が凄くめちゃくちゃ緊張する俺だったが、それとは対照的にアリスは堂々としていた。

 それからフロントに設置してあった電子パネルを操作して部屋を選択して移動する。そして扉を開けて部屋に入った。


「じゃあ私はお風呂の準備をしてくるね」


「ああ、頼んだ」


 床に荷物を置いたアリスがお風呂場に向かうのを見送った俺は部屋の中をぐるっと見渡す。ぱっと見は普通のホテルの部屋と変わらない感じだったが、枕元にコンドームが準備されていたり大人のおもちゃの自動販売機が設置されている点は明らかに違っていた。


「……まさか高校生でラブホデビューする事になるなんて思って無かった」


 日本全国の高校生でラブホテルに入った事がある人は少数派に違いない。まあ、アリスのせいで俺も少数派の仲間入りを果たしたわけだが。

 そんな事を思いながらテーブルに置かれていたリモコンでテレビを付け、面白そうな番組がないかチャンネルを変え続けていると予想外の事が起こる。


「えっ、マジか!?」


 なんと大音量でアダルトビデオが流れ始めたのだ。普通のテレビだと思って完全に油断していた。慌てて消そうとする俺だったが、運悪くアリスが戻ってきてしまう。


「へー、面白そうなもの見てるじゃん」


「違う、チャンネルをいじってたら勝手に流れ始めただけだから」


「拓馬も健全な男子高校生なんだし、エッチに興味がある事くらい普通だと思うよ」


 そう言ってアリスは俺を揶揄ってきた。顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった事は言うまでもない。

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