第8話 あっ、ひょっとしてまさか拓馬は口移しの方が良かったりする?
ショッピングモールで家具や家電などを見て回る俺達だったが、いつの間にかかなり長い時間が経過していた事に気付く。
「なあ、そろそろ疲れてきたから一旦この辺で休憩にしないか? さっきからだいぶ歩きっぱなしだし」
「実はちょうど私も提案しようと思ってたんだよね。クラスの友達からこのモール内にあるおすすめのカフェを教えて貰ったんだけどさ、せっかくだからそこで休憩しない?」
「ああ、そうしよう」
特に反対する理由も無かった俺は賛成した。スマホでカフェの場所がどこにあるのかを確認した俺達は飲食店街に向かって歩き始める。
「あっ、そうだ。さっき教室で助けてくれたお礼にカフェで何か奢ってあげるよ、その代わり私も好きなものを注文しても良いよね?」
「別に代金はアリスが払うんだから好きなものを注文するのは全然自由だと思うけど」
「ありがとう、じゃあ好きなものを注文するから」
質問の意図がよく分からなかったが俺がとりあえずそう答えるとアリスは何故かめちゃくちゃ嬉しそうな表情になった。
なぜそこまで嬉しそうな顔をしているのか少し不思議だったが、いくら考えても理由は分かりそうにない。少しして目的地のカフェに到着した俺達だったが、店内はカップルらしき若い男女達で溢れかえっていた。
周りがリア充だらけでとにかく落ち着かないため、入店したばかりだったがもう出たい気持ちになっている。
「俺はホットコーヒーでいいや」
「オッケー、なら店員呼ぶね」
アリスは既に注文が決まっていたらしく机の上に設置されていた店員呼び出し用のベルを押す。そしてテーブルにやってきた店員に向かって注文を伝え始める。
「すみません、ホットコーヒー二つ……それから
カップル限定という言葉を聞いた俺がめちゃくちゃ驚いたような顔をしていると、アリスはまるでいたずらが成功した子供のような顔をしていた。
「おい、カップル限定って一体どういう事だよ!?」
「さっき好きな物を頼んでも良いか聞いた時に拓馬は注文は私の自由だって言ってたよね? だからお言葉に甘えて私の好きな物を頼ませて貰っただけだよ」
その言葉を聞いてさっきのあの質問の後にアリスが嬉しそうにしていた理由がようやく分かった。はっきり言って完全に嵌められた気分になっている。
しばらくして机にカップル限定特大パフェが運ばれてきたが、その名の通りかなりの巨大サイズだった。一人では完食できるか怪しいと思えるほどのボリュームだ。
少食同士で付き合っているカップルなら完食できないのではないだろうか。現実逃避がてらそんな事を考えていた俺だったが更なる悲劇に襲われる事になる。
「ではお二人のツーショット写真の撮影を始めますね」
「はい、よろしくお願いします」
「えっ!?」
店員の言葉を聞いて状況が全く理解できなかった俺は思わずそう声をあげてしまった。俺が目線でアリスにどういう事だと訴えかけると、彼女はニコニコしながらメニュー表のカップル限定特大パフェのページを指差す。
「えっと……」
その内容を見る俺だったが、内容を理解した瞬間完全に言葉を失う。なんとカップル限定メニューを頼むとツーショット写真を撮られるようで、その上しばらくの間店内に飾られるらしいのだ。
こうなる事が初めから分かっていれば好きな物を注文するのは自由なんて事は口が裂けても絶対に言わなかった。だがもはや手遅れであり全てが後の祭りでしかない。
だから俺はノリノリなアリスとともにツーショット写真を撮られる羽目になってしまった。写真撮影が終わった後、満足そうな表情を浮かべていたアリスに俺は問いかける。
「……まさかとは思うけど、今日ショッピングモールに来たのって買い物がおまけで実はこっちが本命だったんじゃないだろうな?」
「あらら、やっぱりバレちゃってたか」
途中から何となくそんな予感はしていたが、やはりその通りだったらしい。どうやら全てアリスの目論見通りだったようだ。
「この量は一人だとちょっと食べきれそうにないから拓馬も一緒に食べようよ」
「そうだな、せっかくだし貰う事にするよ」
疲れ過ぎて何か甘い物が食べたい気分になっていたためアリスからの提案は正直助かった。まあ、俺がここまで疲れてしまった原因は言うまでもなく全部アリスのせいなわけだが。
「はい、あーん」
「いや、俺一人で食べられるから大丈夫だ」
俺にパフェを食べさせようとしてくるアリスに俺はそう言って断った。するとアリスはとんでもない事を言い始める。
「あっ、ひょっとしてまさか拓馬は口移しの方が良かったりする?」
「待て待て、本気か!?」
「拓馬がやって欲しいなら私は全然やるけど」
アリスなら本当にやりかねない。流石に公衆の面前で口移しされるという羞恥プレイを受け入れるような勇気は無かった。
結局両方断る事は出来そうになかったため、俺はアリスにパフェを食べさせて貰うという選択肢を選んだ。恥ずかし過ぎて味なんて全く分からなかった事は言うまでもない。
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