第15話 息をするように

(秋君……秋君。もしかしたら秋君は、目が覚めた後に自分を責めているかもしれない。でも、それは違うよ)



(私はね、秋君にフラれてからいっぱい考えたよ。秋君の家や学校の近くまで何度も行った。でも、もっと嫌われたら、秋君と女の子が一緒にいたらと思うと怖くって……息をするように、毎日泣いてた)



(あの頃の私に教えてあげたい。『秋君は、私の大好きな秋君のままだよ。君の事を想いながら病気と闘っていたんだよ』って)



(なのに、自分の命がけで私を助けてくれたんだよって)



(……ねえ、秋君)



(笑った顔、見たいなあ……)






「あの海の画像、プリントアウトしてきたよ。このあたりに飾ってもいいかなあ」



《話しかけるんだ。明里に届けたい言葉も、他愛もない言葉も》



「もう少ししたら、僕らが付き合い始めた記念日だね。リハビリがてら、写真を撮りにまた海に行ってくるよ。明里が目を覚ましたら、隠れた名所を教えてあげるから、悔しがらないでね……とかね。うそうそ!」



《一分一秒でも、想いを、言葉を届けるんだ。明里が目を覚ます、その瞬間まで》





(どこも痛くないけど、真っ暗なまま。私……本当にどうなってるんだろう)



(……ねえねえ、秋君)



(秋君は、私の為にお別れを選んだ。病気と闘いながら、私の幸せを願って、ずっとずっと苦しんでた)



(そう思うと、秋君の優しさに涙が出る)



(けど……悔しいって涙も出るんだ)



(秋君の悲しさや心の痛みが、未来の私の幸せに繋がってるのなら)



(秋君の不幸せで手に入る私の幸せがあるとしたら……そんなの絶対にイヤだよ)



(それに、ね?)



(私は秋君のいない幸せはほしくない。傍にいられない時間はもういらない)



(それだったら私は……秋君に片想いをする一ヶ月がほしい)



(秋君と顔いっぱいで笑いあえる一日がほしい)



(その方が幸せだよ? 私)



(ごめんね、ずっとずっとワガママで)



(でも大好き。大好き。大好きなの。秋君じゃないとイヤなの)



(迷惑かもだけど……会いたい、よ)





「肌寒くなってきたね。僕らの手術から三ヶ月。今、明里の心はどこを旅しているの? あっ……バスの運転手さんは元気だった?」


「こないだ、明里の事を調べたくて図書館行きのバスに乗ったんだけど、僕は会えなかったよ。一緒にまた会いたいね」



《話しかけるんだ。泣く暇なんてない。うつ向いてる時間が惜しい。考えるんだ、動くんだ》



《明里……離れたくないよ。もう、離れるのは嫌だよ……》



《許してもらえるなら……君の傍にまた、いさせてほしいんだ》

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