第20話 いつかの未来

「きゃー! 間に合ったぁ、どーん!」


「うわあ?!」


二ノ瀬にのせ君、おはよっ!」


「おはよ。ねえ、夕凪ゆうなぎさんは何で毎日、僕をクッション代わりにするの?」


「?」


「どうして、『え、何でそんな事聞くの?』みたいな顔なの?」


「えー! 二ノ瀬君は私が他の人に、どーん! ってしてもいいの……え? ちょっと待って! 『席替え願い』とか書かないでえ! だめー!」


「羽交い絞めをするのはやめてー! それに、くっつきすぎ!」


「ふふふ……ぴっちぴち17歳の身体、とくと味わうがよい……! ひあ?! ほっへらほっぺたのいはうお伸びちゃうよ?! のいる伸びるー! のいはうー!」


「もう! 自分からやったくせに!」


「にひひー☆」





【ピン、ポン、パン、ポーン。お昼の放送です】


「ね、夏休み近いね!」


「そうだね」


「何か予定あるの?」


「課題が終わったら塾の講習と、ボルダリングとか海行ったりかな」


「意外とアウトドア!」


「言い方!」


「ね、夏休み、近いね! ちらちらっ」


「擬音しゃべっちゃってるよ? というか、何故なぜ話題を戻すの?」


「二ノ瀬あきら君が予定を聞いてくれないのー」


「あ、はい。夕凪あかりさんの夏の予定は?」



【ベストアルバム、『君がいるから呼吸ができる』から『夏花火』をお送りします。今週は、発売から幾星霜の時を経た今も尚、色褪せることなく聴き手の心を震わせる『尾岡れき』特集、お楽しみください】



「この放送部の人、めちゃくちゃイケボだよね! 何か、バスの運転手さんみたいでカッコいい! ねえねえ、れきれき知ってる? 私大好き!!」


「話聞いてないし! 確かにイケボだよね、僕もこんなバリトンの低音出してみたい……。あ、尾岡れきさん僕も好きだよ」


「やったあ! いいよねー!」






 ~♪


 ~♬ ♪♪ ♪ ……



” あぁ、ため息ついている余裕なんか無いんだよ


 この花火が舞って


 散るまでの間に


 伝えたいんだ、いたいんだ…… ” 



 ~♪


 …………






「いい曲だね」


「聞いてると胸がジーン、ってなるんだ私」


「うん、わかる」



【……『夏花火』、お送りいたしました。続いては夏を舞台にして、揺れる気持ちを切なく歌い上げた名曲、尾岡れき『Never Ending Summer Vacation』をどうぞ】






 ~♪


 ~♬ ♪……



” 偶然会えた


 君は、なんだか大人になって


 変わって、無邪気に感情に触って、一周回って


 慌てて、のばした手 ”






「鼻、ツンとくる……」


「……僕もヤバいかも」






 ~♪♪


 ~♪ ♪ ♬……




”  Never Ending Summer Vacation


  適当にメロディーを口ずさんで ”



 ~♪


 …………








「夕凪さん、涙、涙! 鼻ちーんする? はい、ミニタオル」


「うう、あいがとありがとう……。この曲、私絶対にウルウル来ちゃう。あ……二ノ瀬君もほら、ちーんして?」


「……ずずっ。……ちょっと! ち、近いよ! どうしたの夕凪さん!」


「目の前の誰かさんが、頭をよしよしってしてくれないかなって」


「何で僕?! 間近で囁かないでよ!」


「灯は泣き虫さんだね。ほら、おいでってぎゅーしてくれないかなって」


「…………できるかあ!」


「あはは! 今一瞬、腕が上がりかけた!」


「もう……! からかい過ぎだってば!」


「あああああ、何かすっごく海に行きたいなー! 行っきたっいなー! ちらりらっ☆ ちらっ」


「さっきスルーしたくせに!」


「もうそろそろ、誘うところじゃないのかな? ないのかな?」


「……えっと、夕凪さんは泳ぐの、好き?」


「まっかせて! 小学校の時にスイミングスクール通ってたし、海大好きな灯ちゃんはとことん泳ぐから! というか、二ノ瀬君の方が……最近、体調とか悪くない? だいじょぶ?」


「そっか、よかった。じゃあ一緒にたくさん泳げるね。健康面も問題ないかな、今のところは」


「え? 今は……って?」


「あ、ごめん。そうじゃなくって。僕が言い出しっぺなんだけどさ、家族で毎年人間ドックに行くようにしてるから大丈夫だよ! だから……そんな、泣きそうな顔しないで」


「そっか、うん。よかったあ。じゃあ……決まりだね! 決まりだね! 一緒に海行くの、決まりだねー! やたやた、やったー!」


「あはは、決まっちゃいましたね……うわ! な、何?!」


「どさくさに紛れて突撃だあっ☆ うやあ、どーん! ぎゅうう」


「ちょっと! 何で抱きつくの?! それにその言葉、僕に聞こえていいものなのでしょうか?!」

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