第18話 見つかったのはまさかの場所

 捜索願いの呟きに返信が来てることに気づいたのは、帰りのホームルームが終わった直後。

 返信してきたのは『MARIO』って言う人で、話によるとその人もアオハル仕掛人のフォロワーで、たぶんわりと近所に住んでる人みたい。

 今朝投稿されたアオハルチャレンジを見て、おかきくんがいないか探していたら、それっぽい猫を見つけたんだって。


 この返信を見て、私と安達くんは顔を見合わせた。

「おかきくん、見つかったって!」

「うん……いや待って。まだ本人……じゃない、本猫とは限らないよ。それにこれ、ちょっと気になること書いてあるし」


 険しい顔をする安達くん。

 そう。この返信には、気になる続きがあったの。


【この猫、溝の中に入ってて出てきません。探してる猫と似てる気がしますけど、ハッキリとは分からないんです。】


 溝の中に入ってるって、いったいどういう状況だろう?

 テレビで狭い穴に入って出られなくなった猫ちゃんを救出する映像を見たことがあるけど、あんな感じなのかな?

 とにかく、もしこれが本当におかきくんだったとしたら、放ってはおけない。


「とにかく、俺達も行ってみよう」

「うん……あ、でもこれ、場所が書いてないよ」

「MARIOさんに聞いてみよう【そちらの住所は分かりますか? 近くに電柱や自動販売機があれば、住所が書いてあると思います】って、返信してくれない」


 了解。言われた通り返信を送ると、すぐに返事が返ってくる。

 送られてきた住所は私達の町の外れだった。


「よし、じゃあ早速行ってみよう」

「うん!」


 私達は教室を出て、学校を出て。指定された住所へと向かう。

 今朝は雨は止んでいたけど、今はまた黒い雲が空を覆っていて、今にも降りだしそう。これは急いだ方が良いかも。


 そうしてやって来たのは、人や車の通りの少ない、小さな路地。

 そして道の脇に3人、地面に目を向けている人影が見えた。

 ひょっとして、あの人達かな?


「あの、すみませーん。俺達猫探しているんですけど、この辺で見かけませんでしたかー?」


 私が聞く前に、安達くん声を掛ける。

 すると振り向いたのは、小学校高学年くらいの男の子と女の子。それに近くの高校の制服を着た、ロングヘアーのお姉さんだった。


「あなた達、もしかして『トモシビ』さん?」


 高校生のお姉さんが、私のユーザー名を口にしてくる。


「はい、私がトモシビで、彼は『神風』くんです。あなたは、『MARIO』さんですか?」

「ううん、MARIOはこっち」


 そう言ってお姉さんが指したのは、サラサラした髪の小学生の男の子。

 え、この子がMARIOさんなの? てっきりもっと歳上かと思ってた。


「トモシビさんですか? ボクが返信したMARIOです」

「ついでに言っとくと、アタシは『アリサ』。本名じゃなくて、アカウント名だけどね。アタシもアオハルチャレンジャーだよ」

「アオハルチャレンジャー?」


 聞き慣れない単語に、私も安達くんも首をかしげる。

 すると、アリサさんが意外そうに言う。


「あれ? ひょっとしてアオハルチャレンジャーって言ってるの、うちの学校だけなの? アオハルチャレンジをする人の事を、そう呼んでるんだけど」

「ああ、なるほど。アオハルチャレンジをするから、アオハルチャレンジャーなんですね」

「そう。アオハルチャレンジの呟きを見てたら、近所の住所が出てて、気になって来てみたんだけど。そしたらこの子達がいたってわけ」


 MARIOくんともう一人の、髪をポニーテールに結った女の子を指す。


「あ、そっちの子は雪ちゃん。スマホを持ってないから、アカウント名じゃないよ。MARIOくんの彼女で、一緒に猫探してたんだって」


 えっ、彼女? へー、小学生なのにもうお付き合いしてるんだー。

 すると恥ずかしいのか、「雪です」って返事をしながら、顔を赤らめてMARIOくんの後ろに隠れちゃった。

 きゃー、何この子達ー! 初々しいカップルって感じが可愛いー!


 だけど、本題を忘れちゃいけない。

 この子達が、おかきくんらしき猫を見つけたんだよね?


「それで、その猫はどこに? 溝の中に入ってるって言ってたよね?」

「それが、ここなんですけど……」


 MARIOくんが指差したのは、さっき彼らが見ていた地面。

 そこだけ見たら何の変哲もない、コンクリートで固められた地面。だけど少し右の地面に目を向けると、道路に溜まった雨水を逃がすための、小さな穴の空いたブロックが並んでいる。

 このブロックの下はたしか、雨水の流れる地面になっているはず。そしてさっきMARIOくんが指した地面の下にも、溝は続いていると思う。


 さらに少し先に目をやると、同じように、排水用のブロックが並んでいるか、。たぶん見えないだけで地面の中には、大きな一本の溝が伸びているんだろうなあ。

 そんな事を考えていると……。


「ニャ~」

「え、今の声?」


 今確かに地面の下から聞こえてきた、猫の声。まさか、おかきくんがいるのって。


「ひょっとしておかきって、地面の中にいるの?」

「はい。お姉さん達の探してる猫かは分かりませんけど、ボク達ここを通り掛かったら、猫の声が聞こえてきたんです」

「さっきはその穴から、姿が見えたんです」


 見ると地面にはまってるブロックの溝蓋の中に一つ、大きく破損している物があった。

 ひょっとしたらこの穴から、おかきくんは中に入ったのかも。猫って何故か、狭いすき間が好きなイメージあるからねえ。


「猫ちゃん、今は移動してよく見えませんけど、確かにいました。焦げ茶色の子が」

「顔もたぶん、似てたと思います」

「本当? おかきく~ん、出てきて~」


 すると「にゃ~ん」って返事が返ってきたけど、声がするばかりで出てくる気配はない。

 すると安達くんが、深刻な顔をする。


「もしかしたら、出られなくなってるのかも。テレビで穴だか溝だかに落ちた猫が出られなくなった話、よく聞くじゃん」

「それ私も思った。だったらマズイよ。早く助けなくちゃ」

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