第12話 ネタが無いなら集めよう
フミ子さんの家にお邪魔した後、私達は傘を借りて、学校へと帰った。
傘を返すのはいつでもいいって言われたから。写真が現像できてから、一緒に持っていこうかな。
私がデジカメで撮った写真はプリントアウトすれば良いだけだからすぐだけど、安達くんのフィルム式のカメラは、出来上がるまで少し時間が掛かる。
だけど安達くんいわく、そんな時間も楽しみの一つだから、焦らず待たないとだね。
「今日撮った写真は、帰りに行きつけの写真館によって現像に出しておくよ。天宮さんも、帰り道気を付けてね」
「うん、また明日」
学校の正門で安達くんとそんな挨拶をして、別れて帰宅。
そしてその日の夜。私は自分の部屋でフミ子さんの家で思い付いた作戦を実行に移していた。
【皆さん、アオハルチャレンジのネタが浮かばなくて困っています! そこで、アオハルっぽいお題を募集したいと思います。良いアイディアがあれば、ダイレクトメールで送ってください。】
……投稿、と。ああ、本当にやっちゃったー!
今のは私が、アオハル仕掛人のアカウントで、ツブヤイターに投稿した文章。
これこそフミ子さんの話をヒントに考えた、ネタ切れを起こしてるアオハルチャレンジの打開策。
私1人じゃネタが浮かばないなら、フォロワーさんから募集すれば良いんだよ!
「どうして今まで気づかなかったんだろう。たくさん集まってくれるといいなー」
さっきお風呂から上がった私は、パジャマ姿でベッドの上にごろんと寝転がる。
どんなお題が送られてくるか、楽しみ。だけどもしもお題が何も送られてこなかったら。その時はいよいよ手詰まりになっちゃうけど。
ちゃんと送られてくるよね……?
──ピコン
あれこれ想像していると、スマホが何かを受信した。
ひょっとして、もう誰かがアオハルチャレンジのお題を考えてくれたとか?
一瞬そう思ったけど、すぐに違うって分かった。だって反応があったのはツブヤイターのダイレクトメールじゃなくて、家族や友達とのやり取りに使っているメッセージアプリだったんだもの。
だけどガッカリしたのも束の間。送信者の名前を見て、目を丸くした。
「えっ……あ、安達くん!?」
思わず飛び起きて、ベッドの上でちょこんと正座する。
と、突然どうしたんだろう。何かあったのかな?
だけど早くスマホをタップしてメッセージ読みたい反面、髪はおかしくないかとか、今パジャマだよーとか、色々気になっちゃう。
姿を見られるわけじゃないのに、私ってば変。
深呼吸して、メッセージを開いてみると。
【こんばんは。アオハル仕掛人さんの呟き見た? アオハル仕掛人さん、お題募集なんて始めてるよ】
夜にいきなりメッセージを送ってきて、何だろうと思ったら。なんて事はない。
ついさっき私が投稿した、アオハルチャレンジのお題募集についてじゃない。
(変なの。こんな事で、わざわざ連絡しなくたっていいのに)
だけどそう思いつつも、そんな安達くんがおかしくて自然と笑みがこぼれる。
胸をホクホクさせながら、すぐに返事を書いた。
【もー、いきなりメッセージが来たから、ビックリしたじゃない。アオハル仕掛人の呟き、私も見たよ。お題を募集するなんてビックリだね】
送信っと。
でもこんな事言って本当は、私がそのアオハル仕掛人なんだけどね。
ふふっ、私ってば白々しいなあ。それともまさか安達くん、気づいてからかってるわけじゃないよね?
すると、その安達くんから返事が返ってくる。
【ごめん、急にメッセージなんて送って。SNS見てたら、アオハル仕掛人さんがまた面白そうな事始めたって思って、つい】
【別にいいよ。安達くんって、本当にアオハルチャレンジ好きだよね】
突然のメッセージには驚いたけど、こんな反応してくれるなんて、仕掛人としてはとっても嬉しい。
元々安達くんともっと仲良くなりたいって思ったのがアオハルチャレンジを作ったきっかけだったけど、これって思った以上の大成功だったってことじゃないかなあ。
【天宮さんは、何かお題のアイディアある?】
【私は、とりあえずは浮かばないかな。安達くんは?】
生憎私が浮かぶわけが無い。だからこそ、お題募集なんてしてるんだもんね。
【俺もとりあえずは思い付かないけど、何か無いか考えてみるよ。自分が考えたお題が採用されたら、嬉しいもんね】
ああ、そっか。思い付きで始めたお題募集だったけど、これって採用された方も嬉しいんだ。
たまに漫画で、登場してほしいキャラクター募集とか、主人公が着る服装募集とかあるけど、そんな感覚なのかも。
私はアイディアを送ってもらえて助かるし、採用された方も嬉しいなら、WinWinじゃない。
そこまで考えてたわけじゃなかったんだけど、お題募集って、かなりいい方法だったのかも。
安達くん、張り切って考えてくれてるみたいだけど、どんなの送ってくれるかなー?
安達くんが考えたアオハルチャレンジなら、優先的に採用しちゃうからねー!
【ねえ、安達くんはアオハルチャレンジって、やってて楽しい? やらなきゃいけない義務もないし、チャレンジをクリアしても賞品も無いけど】
【もちろん。確かに賞品は無いけど、何でもないような事を楽しむのが青春なんだって、前に漫画だったかテレビだったかで言ってたけど。アオハルチャレンジはまさにそれじゃん。例えば今日の雨上がりの写真を撮るにしたって、どこかで知らない誰かが同じようにチャレンジしてるって思ったら、ワクワクしない? アオハルチャレンジには、そういう不思議な面白さがあるんだよ】
うおぉぉぉぉっ! 安達くん、そこまでアオハルチャレンジの事を思ってくれてるんだねー!
こんなに好きでいてくれて、仕掛人冥利につきるよ。
何でもないことを楽しむ、かあ。そうだよね。さすが安達くん、何かを楽しむ事に関しては、天才だね。
心の中で安達くんを誉めていると、新しいメッセージが届いた。
【あと俺としては、天宮さんと一緒にできるのもポイント高いかな。天宮さんとアオハルチャレンジやりながら遊ぶの、好きだし】
──ボンッ!
送られてきたメッセージに、頭の中が爆発したみたいになる。
あ、安達くんってばまた、こんな勘違いしちゃいそうな事を平気で言ってくれちゃってー!
こんなのもらったら、『え、ひょっとして安達くんって、私のこと好き? もしかして両想い? キャー!』なんて思ってもおかしくないってのに。
実際今まで同じような勘違いをしたこともあったけどさ。安達くんってライクとラブを、一緒にしちゃってるってことがあるからねえ。
一見思わせ振りな態度に見えても、安達くんにとってはライクの意味での好き。「君のことを愛しているよ」って意味じゃなくて、「猫可愛いから好きー」てな感じの「好き」なのだ。
もう、ライクとラブの境界線がないなんて、まるで小学生男子だよ。
おかげでこっちはドキドキさせられてるってのに、人の気も知らないでー。
「……でもわざわざ私と遊ぶのが好きって言ってるってことは、ちょっとは特別って思ってくれてるって事なのかも?」
それはただの、都合のいい妄想なのかもしれないけど。そうであってほしいなー。
我ながらチョロいもので、たったこれだけの妄想で嬉しくなっちゃって胸がドキドキ。スマホを握ったまま、ベッドの上をゴロゴロと転がる。
この際安達くんの言ってる「好き」が、どういう意味での「好き」かなんてどうでもいいや。
好きな男の子にこんな風に言ってもらったら、やっぱり嬉しいもんね。
ベッドの上で腹ばいになりながら、しまりの無い顔でにへらーと笑った。
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