第13話 卒アルを見せ合おう
アオハルチャレンジのお題募集を始めた、次の日の夜。
一つもお題が来なかったらどうしようとか、たくさん集まればいいなとか。色々考えていたけど……。
「まさかこんなに集まるなんて……」
自分の部屋で椅子に座ってスマホを眺めながら、集まったお題の数々に唖然とする。
10件くらいアイディアがくれば、しばらくは困らないかなーって思ってたけど、集まったお題の数はそんなもんじゃない。こんなのはどうでしょう、こんなチャレンジをしたいですってダイレクトメールが、山のように届いたんだよ。
こんなにたくさんある中から選ぶのは、それはそれで大変。だけどアオハルチャレンジを好きな大勢の人が考えてくれたんだから、しっかり選ばないとだね。
もっとも中にはちょっと、使いづらいお題もあったんだけどね。
例えば。
【盗んだバイクで走り出す】
【夜の校舎に忍び込んで、窓ガラスを壊す】
【落とし穴を掘って、先生を落とす】
こ、これらはさすがに、採用できないかなー。だってこれ、犯罪だもんね。
わざわざお題募集を誰でも閲覧可能な返信じゃなくて、ダイレクトメールにしていたのは、こんな感じのお題が送られてくることを心配したから。
だって採用しなくても、もしもこれを見た人がやってみよーってなったら、大問題になっちゃつもの。アオハルチャレンジがきっかけで悪いことをする人が出たら、炎上必須。
せっかく盛り上がっているのに、一部の人の迷惑行為で叩かれたら、目も当てられないものね。
犯罪は絶対に絶対にダメー!
というわけで、やっても大丈夫なものの中から、アオハルチャレンジを選ぶよ。
「面白そうなお題はたくさんあるけど、やっぱり最初はこれかなー」
私は送られてきたアイディアの中から一つを選ぶと、正式なお題としてツブヤイターに投稿した……。
◇◆◇◆
「アオハルチャレンジ、【卒業アルバムを見せ合う】。みんな、卒アルはちゃんと、持ってきたね?」
新しいお題が発表されてから、2日後の昼休み。私と安達くん、それに今回は千鶴ちゃんや留美ちゃんも加えて、写真部の部室に集合していた。
今回のお題は募集で集まったアイディアの、記念すべき初採用の回。
その内容はさっき安達くんも言ってた、【卒業アルバムを見せ合う】だ。
一昨日の夜に新しいアオハルチャレンジとして投稿したんだけど、昨日千鶴ちゃんや留美ちゃんとも話して、どうせなら一緒に見せ合おうってなったの。
それで今日、それぞれ小学校の卒業アルバムを持ってきて、こうして集まってるってわけ。
どんな卒アルが見られるか楽しみー。そして集まった中でも、安達くんは特に嬉しそうにしている。
だって今回のお題というのは。
「それにしても。まさか俺の送ったお題が真っ先に採用されるなんて、ビックリだよ」
卒アルを手に、照れたように笑う安達くん。
そ・う・な・の! この【卒業アルバムを見せ合う】ってお題を送ってくれたのは、安達くんなんだよ!
お題募集をした次の日の朝。安達くんのアカウント、『神風』からダイレクトメールが送られてきた時は、ついに来たかって思ったよ。
知り合いだから、優先的に採用するなんて、ひいきなんじゃないかって? いいお題なんだし、何を選ぶか決められるのは、アオハル仕掛人の特権だよ!
安達くんの考えたお題が真っ先に選ばれたのには、千鶴ちゃんも留美ちゃんも驚いてて、卒アルを持ちながら笑っている。
「卒アルを見せ合うなんて面白そうって思ったけど。まさか安達くんが考えたものだったなんてね」
「一番に採用されるなんて凄いね。ひょっとしてアオハル仕掛人って、安達くんの知り合いなんじゃないの?」
「ははっ、まさかー」
安達くんはそんなわけ無いって笑ってるけど、留美ちゃん鋭いー!
ま、まあ黙っていればバレないだろうし、それより本題だよ。
「それじゃあ最初は、誰のを見ようか?」
「うーん。じゃあ、天宮さんでいい?」
「え、私? 別にいいけど」
言われるがまま卒アルを開くと、懐かしい小学校時代の写真がズラリ。
運動会や合唱コンクール、修学旅行の風景が納められていた。
「あ、灯発見。これは体育祭の写真ね」
千鶴ちゃんが指差したのは体育祭で男子と、二人三脚をやっている写真。一緒に走ってる男の子は、当時のクラスメイトだ。
「うんうん。中々上手く走れなかったから、一緒に写ってる男の子とたくさん練習したんだよね。まあそれでも、5組中3位だったんだけどね」
「十分だって。こっちは修学旅行? 灯の学校は、どこに行ったの?」
「えっとねー……」
こんな感じで写真について解説していく。
そういえば卒業して離れちゃった友達もいるけど、元気にしてるかなー?
中学に入ってからしばらくは連絡取り合っていたけど、それもだんだん少なくなっていったんだよね。
それでも、小学校の頃からやっていたツブヤイターにはたまにいいねを貰ってたんだけど。キリエちゃんの一見でアカウントを削除してからは、いよいよ繋がりがなくなっちゃった。
当時私のツブヤイターには、友達の彼氏を取っちゃう酷い子だって書き込みをされたり、中にはいじめをしてるなんて言う出所不明のデマが、あたかも本当の事みたいに書かれていたりしたんだよね。
小学校の頃仲の良かった子達も、アレを見てたのかな? 荒しの内容を信じて、誤解してなければいいけど……。
不安がよぎったけど、まあ今は置いておこう。それより卒アルだ。
次は留美ちゃんの卒アルを見せてもらったけど、吹奏楽部の大会で金賞を取った時の写真が目を引いた。
「留美ちゃんって、小学校の頃から吹奏楽やってたんだね」
「うん。部活に入る前も、習い事で楽器の演奏はしてたから」
「留美ってば凄いんだよ。あたしは吹奏楽始めたの、中学に入ってからだけど。留美は入部したてのころから期待の新人って言われてたんだから」
おおー、それは初耳。留美ちゃんとはよく一緒にいるけど、まだまだ知らない事があるみたい。
そんな留美ちゃんの卒アルを見終わると、今度は千鶴ちゃんか、それとも安達くんか……。
「じゃあ、最後は俺達だね」
「うん。あたし達のはこれよ」
そう言って二人が出してきたのは、全く同じデザインの卒アル。書かれている小学校名も同じだし……って、ちょっと待って。
「二人って、同小だったんだ」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「冬樹さんとは同小で、しかも6年間ずっとクラスが同じだったからね。一緒に写ってる写真も、あったと思うよ」
これも初耳。
卒アルを開いてみると、確かに安達くんと千鶴ちゃんが一緒に写ってる写真も、いくつかあった。
「本当に二人一緒にいるや。この背が高い子が、千鶴ちゃんだよね」
「この子が安達くんだよね。面影あるもの」
「へへっ、当たりー」
二人とも、写真を見てすぐにわかっちゃった。
千鶴ちゃんは、男子に交ざってサッカーをやってる。そして安達くんはこの頃から可愛い。と言うか、男子と女子で違いの無い体操着を着てる姿なんかはまるで……。
「そういえばこの頃、安達くん時々、女子と間違えられてたっけ」
「ちょっと冬樹さん!? 俺は男の中の男なんだからね」
「の割には。ハロウィンで女装した時はノリノリだったじゃない。ほらこれ」
指差した先にあったのは、魔女のコスプレをした美少女。
えっ、これも安達くんなの!? 私より可愛いんだけど!
「この時、張り切って呪文唱えてなかったっけ?」
「そりゃあ、やるからには全力で楽しまないと。今だってもしアオハルチャレンジで女装をするなんてお題が出たら、やるだろうしね」
何の気なしに言ってるけど。あ、安達くんの女装……み、見たい!
今度本当に、女装するってお題を出して見ようかな。安達くんのセーラー服姿、すっごく似合いそうな気がする。
ヤバッ、想像しただけで鼻血が出そうだよ。
ただ、それはそれとして……。
「冬樹さんは修学旅行の時、迷子になってたよね」
「それを言うなら安達くんだって、夜騒いで先生に怒られてたじゃない」
「それは言わないでよー」
楽しそうに思い出話に花を咲かせてる二人を見てると、なんか……。
胸の奥が、モヤモヤした気持ちになってくる。
なぜだろう。安達くんも千鶴ちゃんも、楽しく話してるのに……。
すると留美ちゃんが、そんな私を見る。
「灯ちゃん、大丈夫」
「へ? な、何が?」
ついとぼけたけちゃったけど、まるで心を読まれたみたいでドキッとした。
る、留美ちゃん。ひょっとして私の気持ちに気づいたって事はないよね?
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