第8話 アオハル仕掛人の正体
アオハルチャレンジの出題者、アオハル仕掛人の正体はこの私。ショーゲキの事実発覚だね。
『アオハル仕掛人』ってのは安達くんに教えている『トモシビ』とは違う、私の2つ目のアカウントなんだよ。
昨日の放課後、ツブヤイター大喜利やらの話をしている時に、ふと思い付いたの。
安達くんはこういう、ゲームみたいな遊びが好き。だったらそれを利用して上手く誘導すれば、遊びに誘う事ができるんじゃないかって。
だから早々に部活を切り上げて、家に帰ってから色々考え、完成したのがこの、アオハルチャレンジってわけ。
ゴールデンウィークに遊びに誘う。たったそれだけのために一度は離れたツブヤイターを再開させたり、アオハル仕掛人のアカウントを作ったり。手の込んだ事をしてる自覚はあるよ。
わざわざこんな事をしなくても、ただ一言「遊びに行かない」って言えばすむ話なのにね。
だけどその一言が言えないから、こんな回りくどいことをして安達くんをその気にさせたの。
女の子の恋は戦い。戦略や駆け引きが重要なんだから!
と言うわけで次の日から私は、【パンをくわえて走る】というふざけたチャレンジから、【四つ葉のクローバーを探す】っていう少しロマンチックなものまで、青春仕掛人としていくつかのアオハルチャレンジのお題を投稿していった。
そして何も知らない風を装おって、安達くんと一緒にチャレンジしていったの。
「よし、四つ葉のクローバー見つけたー! 早速投稿しよう。天宮さんはどう? パンくわえて走る写真、撮れた?」
「待って。走りながら自撮りするのって、結構難しくて。と言うかパンくわえて走るなんて、恥ずかしくない!?」
って、そのお題を出したのは、私なんだけどね。
深く考えずにお題を考えたことを、後悔したよ。
けどそれでも、安達くんとたくさんのチャレンジに挑戦するのは楽しかった。
そしてそれは、アオハル仕掛人のフォロワーさんも同じだったのかも。思い付きで始めたアオハルチャレンジだったけど、チャレンジ成功画像はどんどん増えていって、アオハル仕掛人のフォロワーは日に日に数を増やしていく。
これには私もビックリ。予想以上の盛り上がりだね。
そして、ゴールデンウィークが間近に迫った日の放課後、ついに……。
「ねえ、青春チャレンジで、【ゴールデンウィークに、友達と一緒にお出かけする】ってお題が出てるんだけど」
いつもの写真部の部室で、安達くんにお題を見せる。
まあ、私がアオハル仕掛人のアカウントで、ついさっき投稿したお題なんだけどね。
けどそうとは知らない安達くんは、「新しいお題出たんだ」とスマホを確認して頷いてる。
「ゴールデンウィークか。天宮さんは、何か予定ある?」
「わ、私は無いけど、安達くんは?」
「俺も。せっかくだから、どこか遊びに行く? もちろん、天宮さんがよければだけど」
「い、行く! 是非とも行かせてくださーい!」
驚くほどあっさり誘われてビックリしたけど、行くに決まってるじゃん。元々そのために、アオハルチャレンジなんて回りくどいことを始めたんだもん。
この時の私の喜びは、筆舌に尽くしがたし。
嬉しい気持ちを態度に出さないようにしながら返事をしてたけど、心の中ではクラッカーが鳴って打ち上げ花火が上がっていた。
やったー! ずっとやりたかった、真のチャレンジ成功だよー!
わざわざアカウントまで作って、手の込んだ作戦を考えた甲斐があったよー!
話し合った結果、二人で映画に行く事が決まった。あまりに嬉しくてこの日はスキップしながら家に帰ったんだから。
それに意識していなかったけど、二人でお出かけなんて、デ、デデデ、デートなんじゃ!?
今更ながらその事に気づいて、帰宅した後は後はベッドにダイブし「天宮くんとデートー!」ってゴロゴロ転がっちゃった。
ふふふー、嬉しいなー。
けど本当にやりたかったチャレンジも達成したことだし、これでアオハルチャレンジの役目は終わったよね。
ベッドの上でゴロンと横になりながら、スマホを操作する。
「アオハル仕掛人も、もう引退かな。思ったより楽しかったなー」
一緒におやつを食べたり、四つ葉のクローバーを探したり。最初は、いきなり【ゴールデンウィークに、友達と一緒にお出かけする】ってやるより、その前にいくつか他のチャレンジもあった方がいいかなって思っただけだったのに。何でもいいから、アオハルっぽいことやればいいやーくらいの気持ちだったのに。
これらのチャレンジもら案外悪くなかった。
この数週間、割とアオハルチャレンジの事ばかりかんがえてたから、ちょっと寂しいかな。
だけど、アオハル仕掛人のアカウントを確認していたら、ふとある事に気がついた。
(あれ、アオハルチャレンジが、思ったより拡散されてるんだけど。と言うかこれ、かなりバズってない?)
思わずベッドから身を起こす。
アオハルチャレンジは、ツブヤイター大喜利と同じで、見た人は自由に参加できるスタイル。
だから拡散するもチャレンジして画像を投稿するのも簡単なんだけど。
よく見たら、返信の数がすごいことになってる。
そ、そう言えば最近、あまりよくチェックしてなかったっけ。
慌てて返信を確認してみると、そこにはアオハルチャレンジをした人の呟きや画像が、ビッシリと並んでいた。
【友達と一緒におやつ。一週間継続中!】
【夕日に向かってダッシュ、やってみました】
【パンをくわえて走る。登校途中にチャレンジしてたら曲がり角でイケメン転校生とぶつかって、交際が始まりましたー!】
こんな感じで、チャレンジした人のツイートがズラリ。その数、一、十、百……ちょっと嘘でしょ!?
いつの間にかアオハルチャレンジャをする人の数は、信じられないくらい膨れ上がっていたの。
なにこれ、いったいいつの間にこんなに増えたの!? しかもほとんどが、全然知らない人なんだけど!
もちろんアオハルチャレンジは誰でも参加自由だから、見ず知らずの人が私の投稿を見てたまたまチャレンジしても、おかしくはない。
そういう事もあるって、考えてなかったわけじゃないもの。だけどこの数は、予想を大きく上回っていた。
アオハル仕掛人のフォロワー数、前に削除した私のアカウントと比べても100倍以上になってるんだけど、どういう事!?
ど、どうしよう。当初の目的は達成できたけど、このまま辞めても良いのかなあ?
このチャレンジしてる人達は、アオハルチャレンジのことをどう思っているんだろう?
ドキドキしながら、画面をスライドさせてみると。
【アオハルチャレンジ、毎回楽しみにしています】
【もっと面白いチャレンジ、期待しています】
【おかげで友達と過ごす時間が増えました】
表示されたのは、アオハルチャレンジをする人達の楽しそうな言葉の数々。
そう言えば安達くんも、面白いって言ってくれてたっけ。
考えてみたらお題に応えて投稿してくれるチャレンジャー達は、私の思惑なんて関係なしに、アオハルチャレンジを楽しんでくれているんだよね。
アオハル仕掛人なんて名乗っていながら、その事に気づいていなかった。
どうしよう。どうしようもなく個人的な理由で始めたアオハルチャレンジだけど、目的を果たせたからはい終わりって、やめちゃって良いのかな?
いや、待って……。
ベッドからスッと立ち上がって、スマホをじっと見つめる。
「……決めた。やめるのをやめよう」
寄せられた数々の投稿を見て、決意した。
だってこんなに楽しみしてる人達がいるんだよ。巻き込んでおいてこっちの都合で勝手に終わらせるなんて、できないよ。
よーし、今まで通りこれからも……ううん、今まで以上に真剣に、アオハルチャレンジを考えていこう。
本当のアオハル仕掛人になるんだー!
って、本物が何なのか、私にもよく分からないんだけどね。
とにかく。そんなわけで私は、アオハル仕掛人を続けることになって。
そして月日は流れて6月。私は今でも正体を隠しながら、アオハルチャレンジを投稿をしているの。
軽い気持ちで始めたのに、まさかこんな事になるだなんてビックリ。人生何が起こるか、本当に分からないよね。
ちなみに肝心の、ゴールデンウィークのお出かけだけど。実は結局行けなかったの。
一緒に映画にでも行こうって話してたんだけどね。張り切りすぎて私が当日熱を出しちゃうっていう、悲しいオチが待っていたの。
私のバカー! どうしてこんな大事な時に、熱なんて出してるのー!
泣く泣く中止が決まって安達くんに電話を掛けた時、残念そうに言われた「お大事に」が、しばらく頭から離れなかったよ。
よりによって一番大事なチャレンジを失敗するだなんてね。
フォロワーのみなさんすみません。アオハル仕掛人の正体は、こんなポンコツ女子でーす!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます