第7話 アオハルチャレンジの始まり
次の日の放課後。いつもの部室で、私は安達くんに話を切り出した。
「ねえ安達くん。私昨日あれから、ツブヤイターでアカウント作ってみたんだけど」
「え、本当? どのアカウントか教えて。フォローするから」
お互いのスマホを見せ合って、相互フォローする。
ふふふ、安達くんのアカウントゲット。何だか特別な繋がりができたみたいで、ドキドキしちゃう。
ツブヤイターでは、前に悪口を書かれて嫌な思いをしたけど、私は過去に囚われる女じゃないの。今度こそ、楽しい思い出を作ってやるんだから。
ちなみにツブヤイター上の名前は私が『トモシビ』。本名の『灯』を、別の呼び方にしたの。
そして安達くんが『神風』。こっちも下の名前の『風真』から、『風』の字を流用させている。
それに安達くんのことだから、『神風』って響きが格好良いからそれにしたのかもなあ。
おっと、それよりも本題だ。自分のスマホを、安達くんに見せる。
「そう言えばさ。昨日ツブヤイターで、こんなの見つけたんだけど」
「なになに? ……アオハル仕掛人の、アオハルチャレンジ?」
画面に映ってる文字を読み上げる。
呟き主は、『アオハル仕掛人』という人物。そしてそこには、アオハル仕掛人の考えた『アオハルチャレンジ』という遊びのルールが書かれていた。
アオハル仕掛人の出すアオハルっぽいお題……つまり青春っぽいお題をクリアして写真を投稿する。それがアオハルチャレンジ。
安達くん、こういうお題に答えるゲームみたいなやつ、好きだって言ってたよね。気に入ってもらえたら良いんだけど……。
すると安達くんの目が、キラキラ輝き出す。
「何これ、凄く面白そうじゃない!」
気に入ってくれたー!
興味津々の安達くんを見て、心の中で万歳をする。
良かったー。安達くんなら、きっと食いつくって思ってたんだー。
「それで、アオハルっぽいお題ってどんなの? やっぱり難しい?」
「えーとね。お題自体は、そんな難しくはないみたい。ほら、【連続おやつチャレンジ! 友達と一緒におやつを食べる。何日連続でできるかやってみよー】だって」
「なるほど、簡単だね。けど、アオハルチャレンジなんて今まで知らなかったよ。最近できたやつなのかなあ?」
「えっ? そ、そうかもねー」
「まあいいや。面白そうだし、せっかくだからやってみようか。丁度飴持ってるから、これ食べよう」
そう言って鞄から包装紙に包まれた飴を、2つ取り出した。
最初に会った時もそうだったけど、安達くんっていっつも飴を持ち歩いてるよね。
すると手にした飴の一つを、私に差し出してきた。
「はい、天宮さんの分」
「え、私の?」
「そうだよ。だって天宮さんも食べないと、『友達と一緒に』ってお題のクリアにはならないじゃない」
「そ、それもそうだね」
私はそっと、差し出された飴を受け取る。
お題に合った写真を撮るためには、二人揃ってスマホのカメラに映らないといけないから。二人並んで飴を口に運ぶ。
後はならんでから、その瞬間を自撮りするだけなんだけど……。
「天宮さん、もっとこっちよって」
「ふえ? ちょっとくっつきすぎじゃない?」
「でも、こうしないと二人とも入らないし……って、ごめん。ちょっと馴れ馴れしかったかな?」
「う、ううん。そんなことないよ!」
頭をブンブン横にふって、あわててフォローする。
安達くんって女の子にも距離が近いんだよね。クラスで女子と喋ってるのを何度か見たけど、普通は男女の間にある距離や壁が、彼の場合無いような気がする。
この距離だって、本当はちょっと近すぎないって気がしてる。
肩が触れるくらいの至近距離での、写真撮影。何だか変にドキドキしちゃう。
ううっ、甘いはずの飴の味も、よく分からないや。けど決して、嫌なんかじゃなかった。
そして幸か不幸か、ドキドキしてるのは私だけだったみたいで。安達くんはスマホカメラのシャッターを押すと、早速取れた写真を確認し始める。
「よしよし、よく撮れてる。じゃあ早速投稿しようか。天宮さんもやるよね」
「もちろん」
安達くんが私の事を全然意識してくれないのは残念だけど、まあいいや。
それより今はアオハルチャレンジ。やり方はすごく簡単で、お題を出しているアオハル仕掛人の呟きへの返信に、今撮影した画像を貼り付けて、チャレンジ成功を報告するだけ。ね、簡単でしょ。
見れば私達以外にも、何件か返信はあって。投稿してすぐに、安達くんの返信に『いいね』がついた。
「お、さっそく『いいね』ついてる。けど、アオハルチャレンジってこれだけ? 他には何か無いの?」
「うん。けどまだ始まったばかりだし、これからどんどんお題を出していくって、書いてあるよ。新しいチャレンジが出たら、またやってみよう」
「うん。やろうやろう」
無邪気に答える安達くん。
そして私はそんな彼の笑顔を見ながら、密かに「よしっ!」て拳を握りしめた。
ふふっ……ふふふふふふふーっ!
ひとまずここまでは計画通り。上手くアオハルチャレンジに、興味を持たせる事ができたよ。
そもそもどうして、安達くんにアオハルチャレンジを紹介したか。それは昨日言う事ができなかった、ゴールデンウィークに遊びに誘うって事にある。
安達くん、これからもアオハルチャレンジをやるって言ってくれたけど。実は今後出されるお題で、【ゴールデンウィークに、友達と一緒にお出かけする】ってのがあるの。
つ・ま・り! アオハルチャレンジに挑戦するって言う体で、安達くんを遊びに誘う事ができるってこと!
どう、この完璧な計画! 私って頭いいー!
……え? どうして私が、まだ出題されてないチャレンジの内容を知っているのかって?
答は簡単。だって私こそがこのアオハルチャレンジの出題者、アオハル仕掛人なんだもの!
ババーン!
ほら、ここ驚くところだからね! 効果音入れておいたよ!
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