第6話 安達くんと仲良くなりたい

 安達くんと知り合ってからしばらく経って。私は2年生になったのを機に、写真部に正式入部した。

 だって部員でも無いのに毎日入り浸るのも、おかしいもんね。

 幸い私はそれまで帰宅部でフリーだったし、写真部には安達くんしかいないのもどうかと思うしね。


 そ・し・て!

 嬉しいことにクラス替えで、安達くんと同じクラスになったの!

 廊下にはり出されたクラス分けを見た時は、心の中で万歳したよ。だって好きな男の子と同じクラスになれたんだもの。テンション上がらずにはいられないよね! 


 すると喜びを噛み締めていた私に、安達くんが声をかけてきた。


「天宮さん、今日から同じクラスだね。1年間よろしく」

「は、はいぃぃぃぃっ! 1年と言わずその先もずっと、末永くよろしくお願いしまーす!」


 なんて変なことを口走って恥ずかしい思いをしたけど、まあ良しとしよう。


 一方私に意地悪してたキリエちゃん達は、全員別のクラスになっていてホッとした。

 というわけで、暗黒時代はもう終わり。今まで嫌なことがたくさんあった分、これからは学校生活を、多いに楽しんでやるもん。

 私の青春は、ここから再スタートだー!


 安達くんともっと仲良くなるし、写真部だって新入部員をゲットして、盛り上げていくよー!

 と、意気込んでいたんだけど。


 4月下旬。私達は今日も、写真部の部室で二人で過ごしていた。


「……新入部員、入ってこなかったねー」

「うん。部活動紹介はそれなりにやれたつもりだったんだけど、いったい何がいけなかったなかなー?」


 椅子に座って、脱力したようにぐでーと机に頭をつけている安達くん。

 そう。新入部員は、0人だったんだよね。先日、体育館で行われた部活動紹介では私も安達くんもステージに立って、写真部の魅力を精一杯アピールしたんだけど。


「やっぱりアレがいけなかったのかなあ? 去年撮った写真。本当は拡大して紹介したかったのに、結局手のひらサイズになっちゃったこと」

「うん。あれじゃあ小さすぎて、何が映ってるかも分からないもんね。ごめんね、私も何か力になれたら良かったんだけど、写真の事何も分からなかったし」

「ううん。入ったばかりなんだから仕方ないよ」


 安達くんはフォローしてくれたけど。こっちは写真の『写』の字も、カメラの使い方も分かってない素人。これからたくさん、覚えていかなくちゃいけないなあ。


「まあ、集まらなかったものは仕方ないよ。それに新入生は入ってこなかったけど、天宮さんは入部してくれたし。それだけでも十分嬉しいよ」

「あ、ありがとう。そ、そういえば安達くんはどうして、写真部に入ったの?」

「俺? そうだねえ。じいちゃんがプロのカメラマンって事もあるけど……」

「えっ、プロ!?」


 何それ、初耳なんだけど。


「言ってなかったっけ?」

「言ってないよ。安達くんのおじいちゃん、どんな写真撮ってるの?」

「主に風景写真かな。海に沈む夕日や、霧の掛かった山の写真を撮ってる。けど、俺が写真に興味を持ったきっかけはじいちゃんじゃなくて、こっちなんだ」


 そう言ってズボンのポケットから取り出してきたのはスマホ。そして、SNSのアプリを開く。

 それは何気無い呟きや画像、動画を投稿できる、利用者の多いSNSだったんだけど……。


「そういえば天宮さんは、SNSってやってる?」

「えっと……それが、その。やってたんだけどちょっと前に、アカウントを削除したの」

「えっ、どうして?」

「ま、まあ色々あったんだよ」


 とっさに笑ながら誤魔化す。

 キリエちゃん達の意地悪で荒らされて削除したなんて、言いづらいよ。

 SNSを使った嫌がらせや攻撃があるっていうのはテレビで見て知ってたけど、まさか自分が対象になるなんて。

 もしかしたら私の知らないところで、今もまだ悪口をかかれているかもしれない。そう考えると、ゾッとするけど……。


(あー、ダメダメ。せっかく楽しい話をしてたのに、嫌なこと思い出しちゃった)


 ブンブンと頭を横にふって、考えるのをやめる。嫌なことは忘れて、もっと楽しい話をしなくちゃだね。


「私の事はいいから。それより安達くんの話の続き、教えてよ」

「そうだったね。ほら、これ見てよ」


 そう言って見せてきたのはSNSに投稿されている、写真の数々。

 あ、これは夏の空の写真かな。青空に大きな入道雲が掛かってて、爽やかな感じがする。

 こっちは可愛い、犬の写真。白いふわふわのポメラニアンがつぶらな瞳をカメラに向けていて、見てて癒されるよ。


「SNSで色んな写真を見るのにハマッて、それで自分でも撮りたくなったんだ。それで写真部に入ったってわけ」

「そうだったんだ。けど写真部って、スマホで撮るんだっけ? カメラじゃないの?」

「もちろん普通はカメラを使うよ。俺だって、じいちゃんのお古のカメラを貰ったし。けどスマホで撮影してSNSに投稿したっていいじゃない。俺が入った時いた先輩達も、好きなように撮ればいいって言ってくれたし」


 そうだったんだ。

 何だか緩い部活だけど、絶対にこうしなきゃいけないって縛られるより、こっちの方が楽しそう。

 私も写真を撮るなら、自由に伸び伸び撮りたいもの……。


「はっ! そういえば私、写真部に入ったはいいけど、カメラ持ってないや」


 写真部にも関わらず、ほとんどお喋りしてばかり。それに部活動紹介をどうするかだけ考えていたから、すっかり忘れてた!

 部室に入り浸っているうちに入部を決めちゃったけど、元々写真に興味があったわけじゃないし。それに、カメラってそうホイホイ買えるような、安いものじゃないよね。

 でもスマホで撮ってもいいなら、正直助かる。


「わ、私もスマホでの撮影ばっかりになると思うけど、いいかな?」

「全然構わないよ。それに、備品のデジカメもあるから。もしもコンクール用の写真を撮りたい時なんかは、借りるといいよ」


 良かったー。写真の事は全然分からないけど、これからバンバン撮っていこう。

 それにしても。おじいちゃんがプロのカメラマンだとか、SNSで写真を見てたのがきっかけで写真部に入ったとか。部室に通うようになってから結構一緒にいるのに、私って安達くんの事、何も知らないだなあ。


 本当は安達くんの事、もっとたくさんの事を知りたいし。部活だけじゃなくて休みの日も、一緒に遊びに行ったりしたいのに。

 あ、そうだ。


「ね、ねえ安達くん」

「なに?」

「も、もし良かったらなんだけど……」


 今度ゴールデンウィーク、どこかに遊びに行かない? そう言いたかった。

 だってこのまま連休に入ったら、しばらく会えなくなっちゃうんだもん。

 男の子を遊びに誘うのなんて人生初めてだけど。誘ってもおかしくないくらいには、仲良くなってるはずだよね。

 だけど……。


「その、今後私と……一緒に……」


 どこかに遊びに……ああっ、もうっ、無理ー!


 見つめられると緊張しちゃって、肝心な言葉が出てこないよー!


 何も告白しようってわけじゃない。ただ遊びに誘うだけなのに、こんなに心臓がバクバクになっちゃうなんてー!

 相手が女子の友達だったら簡単に言えるのに、安達くんが相手だとどうしてこんな簡単な事ができないんだろう?


 すると何も言えずにいる私に、安達くんは首をかしげる。


「顔赤いけど、大丈夫?」

「へ、平気。それよりその……あ、安達くんはSNSで、他にどんなことやってるの?」


 照れ隠しで言ったのは、全く関係ないこと。

 ううっ、私の意気地無し~。なにさSNSって~!


「そうだねえ。ツブヤイターのアカウントは作ってるけど、自分から何か呟くことはあまり無いかな。けど、エゴサなんかはよくするよ」

「へえ~、そうなんだ~」


 相づちを打ちながらも、どうやって遊びに誘おうか、頭をフル回転させる。

 何か自然に誘う方法は無いかなあ……。


「あ、でもこれはたまにやってるかな。ツブヤイター大喜利ってやつなんだけど、天宮さん知ってる?」

「うん。お題に対して、面白い答を考えるやつでしょ」


 アカウントを削除する前は、私もたまに見てたもの。


 ツブヤイター大喜利というのは出題者がツブヤイターでお題を出して、それを見た人が面白い答を投稿するというもの。


 ツブヤイターのアカウントさえ持っていれば誰でも自由に答を書き込めるから手軽に参加できるし、誰かが書いた答を見るだけでも面白いんだよね。


「安達くんもツブヤイター大喜利やってるの?」

「まあね。あんまり『いいね』はつかないけど。他の人がやってるのを見ると、つい参加したくなるんだよね」

「分かるー。面白い答えを見つけると、自分でも考えたくなるよね」

「他にも例えばハッシュタグを付けて、『お気に入りの写真を貼る』とか『好きな本を10冊挙げる』とか、色んなお題に答えるやつあるじゃない。ああ言うのを見るの、結構好きなんだよね」


 なるほど。自分から呟くことは少ないけど、そういう遊びにはよく反応するってことだね。何だか安達くんらしい。

 彼は面白いものが好きだからねえ。今だって可愛い顔で楽しそうに語っていて、聞いててなんだか癒される。やっぱり安達くんは、光属性だなあ。


 けどそれならツブヤイターのアカウント、私ももう一度作ってみようかなー。そしたら、同じ話題で盛り上がれそうだもの。

 何なら私も何かお題を考えて……ん?


「ほら、今ではこれなんか結構面白い……って、天宮さん聞いてる?」


 安達くんがスマホを見せながら話してくるけど、私は頭に浮かんだある考えに、意識を集中させていた。


 そうだ。この方法なら……。


「天宮さん……おーい、天宮さーん!」

「はっ!? な、なに安達くん?」

「だからツブヤイターの話……ひょっとして天宮さん、体調悪い?」

「大丈夫! 大丈夫だから!」


 むしろすこぶる調子がいい。だってこんな画期的なアイディアを思い付いたんだから!

 この方法なら、安達くんを自然に遊びに誘えるじゃない!


 だけど思い付いたそれを実行に移すには、準備が必要か……。


「ごめん、やっぱりちょっと気分悪いから、今日はもう帰るや」

「平気? 何なら、家まで送って行こうか?」

「そ、そこまで酷くないからいいよ」


 というか本当は、ピンピンしてるからねえ。なのに変に心配掛けちゃったら、申し訳ない。

 とにかく、早急に帰り支度をすませると、部室を出る。


「それじゃあサヨナラ。安達くん、明日を楽しみにしててね」

「え、うん? ……って、天宮さん。気分悪いのにそんな廊下を走ったらダメだってば!」


 後ろから安達くんの叫ぶ声が聞こえたけど、私の勢いは止まらない。

 待っててね。明日はスペシャルなイベントを、用意しておくから!







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