第16話 猫探しとアオハルチャレンジ
学校に戻った私達は、猫探しのポスターを作りたいと先生に頼んだところ、すぐに了承してくれた。
A4サイズの紙におかきくんの写真と特徴、探していますのメッセージを添えて、印刷を開始する。
だけど作業を始めた時間が遅かったせいで、終わった頃にはもう下校時間が迫っていた。
「今からじゃあまり配れないね。配るのは、明日の朝にするしかないか」
「うん……あ、でも吹奏楽部なら、まだ残ってるかも」
実は今日丁度千鶴ちゃんと留美ちゃんが、最近吹奏楽部の練習で帰りが遅くなってるって、話したばかりなの。
と言うわけで。私達は急いで音楽室に行くと、思った通り吹奏楽部はまだ残っていて。
千鶴ちゃんと留美ちゃん、それに部員の人達にも、ポスターを配った。
「……と言うわけで、この猫ちゃんを探しているの。もしも見かけたら、私達に連絡してくれないかな」
「なるほどね。分かった、私も帰り道に探してみる。先輩達もお願いできますか?」
千鶴ちゃんが尋ねると他の部員の人達も頷いて、さらに留美ちゃんが続く。
「猫ちゃん心配だね。早く見つかってくれるといいけど。ツブヤイターでも拡散しておくよ」
留美ちゃんありがとー。
これで少しは、情報が入ってくれれば良いんだけど。
だけどそう簡単に見つかるわけもなくて、何の進展もないまま次の日。
この日は連日降り続いてた雨は止んでいて、私はいつもより少し早く、学校に来ていた。
理由はもちろん、おかきくんのポスターを配るためだ。
(配るならやっぱり、校門の前が良いかな。ガバンは邪魔になるから、いったん教室に置いておこう)
そんな事を考えながら教室に行こうと早足で歩いていたんだけど、角を曲がろうとした時。そこにいた誰かにぶつかった。
「きゃっ!」
「わっ!」
頭をぶつけてしまって、想わす後退さる。
「痛たた。ご、ごめんなさい……って、香苗ちゃん」
「灯……」
ぶつかった相手はなんと香苗ちゃんで、気まずい沈黙が流れる。
向こうも向こうで何か思うことがあるのか黙っていたけど、すぐに「じゃあ」と言って立ち去ろうとする。
助かった。香苗ちゃん相手にどんな態度を取っていいか、分からないんだよね。
あ、でも……。
「ちょっ、ちょっと待って!」
「何よ?」
「えーと、実は私、今猫を探してるんだけど。香苗ちゃん知らない?」
急いでカバンから、昨日作ったポスターを取り出す。
正直、香苗ちゃんと話すのは気まずい。だけど今は少しでも情報が欲しいから、好き嫌いなんて言ってられないよ。
すると香苗ちゃんはビックリしたように、ポスターを見る。
「灯って、猫なんて飼ってたっけ?」
「ううん。私のじゃなくて、知り合いの猫なんだけど。少し前から帰ってないみたいなの。この子、おかきくんって言うんだけど、知らない?」
「うーん……ごめん、見たこと無い」
そっかー、そうだよね。
ダメ元で聞いただけだったとはいえ、ちょっと落胆する。
「何日も帰ってないなんて、確かに心配ね。何か手掛かりはないの?」
「ううん。ツブヤイターでも情報集めてるんだけど、中々集まらなくて。けど大丈夫。たくさん拡散してもらってるから、そのうち何か分かると思う」
私のアカウントではフォロワーは少ないけど、留美ちゃんや千鶴ちゃんが拡散してくれたし、昨夜安達くんだって同じ内容のものを投稿したんだもの。
これならきっと、情報が集まるはず。そう信じていたけど。
「あんたバカじゃないの? そんなんで見つかるわけ無いでしょ」
突然発せられた、希望を打ち砕くような声。
後ろを見るといつの間に来たのか。意地悪そうな笑みを浮かべるキリエちゃんが立っていた。
「キリエちゃん……見つかるわけ無いって、どうしてそんな事言うの?」
「だってそうでしょ。少し拡散したくらいで見つかったら、苦労しないじゃない。呟きを見た人だって、すぐに忘れちゃうんじゃないの?」
うっ。悔しいけど、強く反論できない。
この手のペット探しの呟きは私も何度も見たことあるけど、それがどんな犬や猫だったか、ハッキリ思い出せない事も少なくないもの。
それに何日か後に、同じ呟きがされることもある。それはつまり、呟いて拡散されたにも関わらず、いなくなったペットがまだ戻ってきて無いって事。
残念だけどキリエちゃんの言う通り、ちょっと拡散したからって見つかる確率は低い。
考え無しに大丈夫なんて言っちゃってたけど、甘かったのかも。
「分かった? こんな事をしても無駄なの」
勝ち誇ったように言うキリエちゃん。でも言ってることは間違ってないのかもしれないけど、こっちは心配して探しているのに、そんな風に言うだなんて。
悔しくて涙が出そうになるのを、奥歯を噛み締めてグッとこらえる。
すると。
「あ、あのさキリエ。さすがにそれは、言い過ぎじゃないかなあ」
口を開いたのは、香苗ちゃん。
私は驚いて彼女を見て、キリエちゃんは不機嫌そうに顔をゆがめた。
「はぁ? あんた、コイツの肩を持つ気?」
「そういうわけじゃないけど……私も前に猫飼ってて、同じように居なくなっちゃった事があるから……」
え、そうだったの? 香苗ちゃんとは以前までは仲良かったけど、猫を飼っていたのは初耳。
心配そうな顔をしていて、キリエちゃんもさすがにこれには強く言えなかったのか、バツの悪そうな顔をする。
「そう……悪かったわね。けど、嘘は言ってないでしょ。そんなポスター配ってちょっと呟くだけじゃ、効果無いのよ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「見た人だって心配はするかもしれないけど、本気で探したりはしないでしょ。灯、あんたは猫を探していますって呟きを見たからって、血なまこになって探してた?」
「それは……」
探してない。もちろん心配ではあったけど、今回みたいに知り合いの猫でもないと、ポスターを作って配るなんてしなかったもの。
キリエちゃんの言葉はキツいけど、けど、悔しいくらい正論。
呟きを見た人が本気で探してくれたら話は変わるかもしれないのに……。
「ん? 本気で探す……」
ポスターを配ったりツブヤイターで拡散したりしても、本気で探してはくれないのなら見つからない。
けどそれって裏を返せば、本気で探してくれたら分からないって事だよね。
それじゃあ本気になってもらうには、どうすればいいか……。
「あ……ああーっ!」
「うわ、ビックリした。何よいきなり」
「それだよ! 本気で探してもらえるよう、工夫すればいいんだよ。キリエちゃん、ありがとう!」
キリエちゃんは嫌味を言ってきただけだって分かっているけど、それでもついお礼を言っちゃった。
だっておかげで、良いアイディアが浮かんだんだもの。
「は、はあ? って、どこ行くのよ!?」
「灯、良いアイディアって、何考えてるの?」
キリエちゃんと香苗ちゃんが呼んだけど、私は振り返らずに教室へと向かう。
そして自分の席まで来ると、スカートのポケットからスマホを取り出して、ツブヤイターのアプリを起動させた。
だけどログインするのは表のアカウント、『トモシビ』じゃない。アオハル仕掛人のアカウントで、ツブヤイターにログインする。
そして。
【アオハルチャレンジ! 捜索願いが出されてるペットを見つける!】
【世の中には、いなくなったペットと、それを探している飼い主が大勢います。そんな行方不明になってるペットを見つけて、飼い主の元に送り届けよう!】
よし、投稿。
更にそれに付属させる形で、昨日『トモシビ』のアカウントで投稿した、おかきくんを探している呟きを貼り付けた。
確かにキリエちゃんの言った通り、拡散しても見た人が本気で探さなかったら、見つけるのは難しいかもしれない。
けどおかきくんを探すのを、アオハルチャレンジにしちゃえば。もしかしたら探してくれる人が増えるかも。
実際のところどうなるかはやってみないと分からないけど、出来る事は全部やってみよう。
「あ、でもおかきくんを探すってだけじゃ、ほとんどの人はチャレンジできないよね。迷子のペットを探してる呟きをどんどん貼り付けるよう、アナウンスしておこう」
こうしておけば、ペット探しの呟きがたくさん集まってくるはず。
おかきくんだけじゃない。離ればなれになって、困っている動物や飼い主がいるなら、このチャレンジを通じて見つかってほしい。
そんな願いを込めながら、呟きを投稿していった。
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