第2話 壁ドンをしよう
「あ、アオハル仕掛人、また新しいミッションを出してる」
「へえー、今度はどんなチャレンジ?」
「えーと……【壁ドンしてみる】?」
さっき教室で、女子が話してたやつだね。
壁ドン。それは少女漫画では定番の胸キュンシチュエーションで、イケメンの男の子がヒロインを壁に追い詰めてドンッて手をつくやつ。
安達くんはキョトンとしてるけど、私は内心ドキドキしていた。
だって壁ドンだよ壁ドン。このチャレンジをするって事は、私が安達くんに壁ドンされるって事だよね。キャー!
考えただけで、心臓はバックンバックン。
だって、だって私。実は安達くんの事がす、すすす、好きなんだもん!
叫びそうになるのを飲み込んで、うつ向きながらチラチラと安達くんの様子を伺う。
安達くんは気づいていないけど、私は密かに彼に恋心を抱いていいるの。
そんな安達くんから壁ドンだよ。ドキドキしないわけないじゃない!
さあ安達くん、私はいつでも準備OKだよ。アオハルチャレンジ、始めようじゃない。
だけどドキドキしながら待っていると。
「よし、それじゃあさっそく、壁ドンさせてくれる相手を探しに行こう」
「うんうん……って、ちょっと待ったー!」
予想外の発言に、ガタンと椅子から立ち上がる。
「ど、どうしてそこで他の子を呼ぶかなあ!? わ、私がいるじゃん!」
スルーするなんて酷い。だけど安達くんは、キョトンとした顔をする。
「だって俺と天宮さんでやったら、いったい誰が撮影するの?」
「そ、それは……スマホを固定してムービー撮影をしておくとか、色々方法はあるじゃない!」
「あ、その手があったか。天宮さん頭いいね」
ポンッと手を打って無邪気に笑う。
もー、こっちはこんなにドキドキしてるってのに、人の気も知らないでー!
「だいたい、こんな美人が近くにいるんだから、スルーするとかありえないし」
「確かに。ごめん、天宮さん可愛いのにね」
「んんっ!?」
冗談で言ったつもりだったんだけど。か、可愛いなんてズルい!
カーッて顔が熱くなって、思わず顔を背ける。
なのに安達くんってば、そんな私の気持ちに全く気づいてないみたいで、不思議そうに覗き込んできた。
「どうしたの天宮さん。顔赤いよ?」
「な、なでもにゃい! それより、アオハルチャレンジ。アオハルチャレンジを!」
と言ったものの。今この状態で壁ドンされるのか。し、心臓持つかなー。
ええーい、やってやる! 女は度胸だー!
恥ずかしさを振り払うように、苺ミルクに手を伸ばして一気飲みする。けど……。
「あ、それ俺の」
「ぶはっ!?」
盛大に吹き出して、ゲホゲホとむせかえる。
危うく苺ミルクを鼻から出すと言う、乙女にあるまじき姿を披露するところだった。
何とかそれは回避できたけど、落ち着いてはいられない。
間違えて飲んじゃったけど、これってか、かかか、間接キ……。
「天宮さんって、案外慌てん坊だよね。代わりにこれもらうね」
安達くんはクスクス笑いながら、何の躊躇いもなくさっきまで私が口をつけていた苺ミルクに手を伸ばす。
ま、待って。安達くんがそれ飲んじゃったら、ダブル間接キスに……ああーっ、飲んじゃてるー!
「うん、美味しい。それじゃあさっそく壁ドンを……って、本当に大丈夫? さっきより顔真っ赤なんだけど」
「バ……」
「えっ?」
「バカー!」
飲み干して空になった莓ミルクのパックを、彼の顔めがけてポーン!
なにさなにさ。人がこんなにドキドキしてるってのに、あっさり間接キスなんてしてくれて!
簡単にやりすぎだよ。だって女の子と間接キスなんだもん。もっとためらうとか、ドキドキするとか、ちょっとは意識してくれてもいいんじゃないかなあ!
しかも等の本人はなぜ怒られたか分かってないみたいで、それがまた腹立たしいの。
ちょっとは動揺してよー!
「私、今日はもう帰る!」
「ええっ、どうして? アオハルチャレンジはどうするの!?」
「知らないよ! 安達くん一人でやってよ!」
「一人で壁ドンやれって言うの!?」
バタンとドアを閉めて、廊下をダーシュ!
もうっ、安達くんってば本当に、女心が分かってないんだから。
間接キスとか本当にデリカシー無いし、その辺の感覚が小学生並みなんだよね。
なのに……ううーっ、どうして好きになっちゃったんだろー。
安達くんは学校一のイケメンってわけでもなければ、体育の時間に大活躍するようなスポーツマンでもない。
だけど私は、そんな彼に恋をしていて。だけど安達くんはそんな私の気持ちに、全然気づいてくれてないんだよね。
はぁ~。この恋を成就させるのは、アオハルチャレンジよりも、ずっと難しいチャレンジのような気がするよ。
ちなみに。少ししてから安達くんのツブヤイターに、一人で壁ドンをしている様子が投稿された。
ただ壁に手をついているだけの画像で、言われないと壁ドンだって分からない。ううん、言われてもピンとこない変な絵面。
けど一応アオハルチャレンジは、成功したことになるのかな?
「ふふっ、一人でなにやっているんだろう」
まあ、一人でやってって言ったのはわたしなんだけどね。けどまさか本当にやるなんて、安達くん素直すぎるよ。
だけどそんな素直で可愛い彼のことが、私は好きでたまらなかった。
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