第14話 嫉妬と友情

 目を背けようとしたけど、この気持ちが何なのか、心当たりがないわけじゃない。

 これは多分……嫉妬だ。

 私の知らない安達くんを、千鶴ちゃんが知ってる。そう思うと胸の奥を針でチクチク刺されたような、苦しい気持ちになってくる。


 けど、こんなのおかしいよね。二人は同小だし友達なんだから、仲が良いのもお互いのことを知っているのも、当たり前なのに……。

 すると不意に、校内放送のスピーカーから、声が流れた。


『2年2組の安達風真くん。2年2組の安達風真くん……職員室に来てください』


 ん、呼び出し? しかも安達くん?

 すると安達くんは、思い出したように言った。


「いけない。今日までに提出しなきゃならないプリントがあったんだ」

「また忘れてきたの? 小学生の頃も同じこと、何度もあったよね」

「それは言わない約束でしょ。出してないだけで、持っては来てるって。ごめん、ちょっと行ってくる。チャレンジ写真は後で撮るでいいかな?」


 安達くんは、「すぐ戻るから」と言って部屋を出て行って、後には私達3人が残された。


「安達くんってば。提出物を忘れるのは、昔からね」


 苦笑いを浮かべる千鶴ちゃん。たぶん小学生の頃も、似たようなことがたくさんあったんだろうなあ。

 だけどその時、留美ちゃんが気まずそうに口を開く。


「あの、千鶴ちゃん。安達くんの事を言い過ぎるのは……」

「えっ? ……あっ」


 千鶴ちゃんが、私の顔を見て固まった。


「ごめん。ちょっと馴れ馴れしかったよね」

「へ? 待って、馴れ馴れしって何のこと? どうしても私に謝るの?」

「いや、だって。灯、安達くんのこと好きでしょ。なのにあたしばっかり話して、嫌じゃなかった?」

「えっ……ええーっ!?」


 予想していなかった返答に、声を上げる。


「ど、どうして私が、安達くんの事を好きって分かったの!?」

「分かるわ!」

「分かるよ!」


 二人の声が重なる……って、千鶴ちゃんだけじゃなく、留美ちゃんまでー!?

 ひょっとして、私の気持ちってバレバレだったのー!?

 

「あたし達としては、隠してたつもりだったって事に驚きなんだけど」

「うん。灯ちゃん、安達くんといる時好き好きオーラ出しまくってたもの」


 二人は呆れた様子だけど、私はショーゲキのあまり口をパクパクさせる。


「そ、そんなに? じゃ、じゃあまさか、安達くんも既に気づいてるってことは……」

「あ、それは無い。安達くん、この手の話に疎いから」


 千鶴ちゃんに即答されて、ちょっと安心。

 もしも安達くんが、私の気持ちにずっと前から気づいてたってなったら、きっと恥ずかしすぎてひっくり返っちゃってたよ。

 するとホッとしてる私に、千鶴ちゃんが言う。


「それで、話を戻すけどさ。さっきの、嫌じゃなかった?」


 さっきのって、千鶴ちゃんが安達くんと、楽しそうに話してた事だよね。

 嫌と言うか、モヤモヤしたのは確か。嫌な顔をしたつもりはなかったけど、こんな風に言ってくるってことは、もしかしたら表情に出ちゃっていたのかも。


 好きな男の子が自分以外の女の子と仲良くしてるのは、面白くない。

 それは一年生の頃仲間外れにされた時、何度も責めるように言われた言葉。皮肉な話だけど、今ならキリエちゃんの気持ちが、少し分かった気がする。

 わがままだって分かってはいるけど、好きな人には自分だけを見てほしいって気持ちは、私の中にもあったんだもの。

 だけど、それでも……。


「気にしないで。同小なんだし、仲良くたって当たり前じゃない。そもそも千鶴ちゃんの事を、嫌だなんて思うわけないじゃん!」


 千鶴ちゃんに、笑顔で返事をする。

 ちょっとモヤモヤしたのは本当。だけど、これだけは断言できる。

 留美ちゃんもそうだけど千鶴ちゃんも、新しいクラスになって馴染めるか心配だった私に、初めてできた友達なんだもの。


 だいたい、その手の嫉妬を向けられたらどれだけ苦しいか、身を持って知ってるものね。


「私はそんなことで嫉妬するような、小さい女じゃないの。だから心配しないで」

「ありがとう……あと誤解の無いように言っておくけど、安達くんとはフツーに友達として仲いいだけだから」


 慌てて付け加える千鶴ちゃんに、ちょっとホッとする。

 と言うか、勝手にモヤモヤしちゃった自分が恥ずかしいよ。


「なんかゴメンね。変に気を使わせちゃって」

「良いって良いって。そ・れ・よ・り、安達くんのどこが好きになったのか、教えてもらっても良いかな?」

「あ、それ私も聞きたい。ずっと気になってたんだよねー」


 ええーっ!

 ま、待って。私としては今の今まで、安達くんのことは隠してたつもりで。なのにいきなり話さなきゃいけないってのは、かなり恥ずかしいんだけど。


 だけど二人は目を輝かせながら迫ってきて。こ、断れないー!


「分かった。分かったから二人とも落ち着いて」


 結局この後、安達くんが戻ってくるまで根掘り葉掘り聞かれる事になって、恥ずかしかったー!


 けど3人でする恋バナは、卒アルを見せ合うに負けないくらい、アオハルっぽくて楽しかった。

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