第20話 集まる仲間達
ホームセンターに行って、目当てのバールを買うと、元来た道を足早に引き返していく。
バールなんて買ったことないからどこにあるかもわからなかったけど、店員さんに聞いたおかげで素早く買うことができた。
空はもう黒い雲に覆われていたけど、幸い雨はまだ降っていない。だけどそれも、時間の問題な気がするよ。
即効でおかきくんが閉じ込められている溝まで戻ってくると、アリサさん達が待ってくれていた。
て言うか、ちょっと待って。
「なんか、人数増えてない?」
ホームセンターに行く前、ここに残っていたのはアリサさん、MARIOくん、雪ちゃんの3人。
だけど今は、見知らぬ男性が2人追加されていた。
え、どう言うこと? 1人は、アリサさんと同じ高校の制服を着てるけど、知り合いかな? 背が高くて色黒の、スポーツをやっていそうな男の人。
そしてもう1人は、近くの中学校の制服を着た、眼鏡を掛けた男子だった。
「お、来た来た。どう、バールは買えた?」
「はい、買ってきましたけど……」
返事をしながら新しく来た2人に目をやると、察したみたいにアリサさんが答える。
「この2人も、アオハルチャレンジャーだよ。実はアンタ達が行った後、こんな呟きをしたんだ」
アリサさんが見せてきたスマホには、次のような文章が書かれていた。
【アオハルチャレンジを達成するチャンス! 今溝の中に猫が入って、人手がいるの。アオハルチャレンジ達成したい人は集まって!】
なんと、私達がいない間に人集めをしてくれていたんですか!?
確かにさっきまでのメンバーじゃちょっと不安だったけど、ツブヤイターを使って人を集めるなんて。
「さっきトモシビちゃんがツブヤイターを使って蓋の外し方を聞いてたから、マネしてみたんだ。あ、コイツは蒔田慶次って言って、アタシの同級生。たまたま近くでヒマしてたみたいで、すぐに来てくれたよ
「おい杉田、ヒマとはなんだ。それに、本名言うなよ。『舞茸』ってアカウント名あるだろ」
「そっちだって今苗字で呼んだじゃん。心配しなくても、この子達なら本名知っても、悪さしないって」
アリサさん、高校生のお兄さんとは知り合いみたいで、親しげに話してる。
「で、こっちの眼鏡の彼が『ぐるぐる』くん」
「どうも」
眼鏡の男子が、ペコリと会釈する。
彼は進学校の制服を着ていたけど、そんな学校の子がアオハルチャレンジをやっていた事にビックリ。
何となくお堅いイメージがあったのに。
けど、協力してくれるのは素直に嬉しい。
これで私達を含めて7人。最初は私と安達くんだけでおかきくんを探すつもりだったのに、こんなに集まってくれるなんて。
「皆さん、集まってくれてありがとうございます」
「お礼言うのはまだ早いって。それより、助けてあげないと。『神風』くん、バールはあるね」
「はい、待っててください」
カバンに入っていたバールを取り出すと、溝蓋の穴に突っ込んだ。
後はこれで持ち上げさえすれば……。
「うっ……ダメだ。バールを使ってもまだ重い」
可愛い顔を、苦しそうにゆがませる。
コンクリートでできた溝蓋はほんの少し浮いたけど、それまで。そんな、これでもダメだなんて。
だけど仕方ないかも。こう言っちゃなんだけど、安達くんは小柄だし、力があるようには見えないから。
だけどここで蒔田さん……ううん、舞茸さんが前に出る。
「代われ。お前より俺の方が力がある」
「すみません。お願いしていいですか」
「任しとけ……ふんっ!」
バールを受け取った舞茸さんが、力一杯持ち上げる。
舞茸さんは体格がよくて、いかにも力がありそう。ちょっと持ち上げるのがやっとだった安達くんとは違って、コンクリートでできた溝蓋がどんどん浮いてくる。
「凄い。俺も筋トレしようかな」
安達くんが、感心した声を漏らす。だけど。
「ん……ヤバい。なんか引っ掛かってて、上手く上がらねー」
「何やってるの。柔道で鍛えてるんじゃなかったの?」
「なこと言われても……一旦下ろすぞ」
途中まで持ち上がった溝蓋は、また元通りに戻っちゃった。
ああー、もうちょっとだったのにー!
するとここで、『ぐるぐる』くんが口を開いた。
「ちょっといいですか。もしかしたら蓋の隙間にゴミがつまって、それでつっかえて持ち上げにくくなっているのかも。だったら蓋をバールで叩けば、詰まってる物が落ちるかもしれません」
「なるほど、それだ。ナイスぐるぐるくん!」
「あと、見てて思ったんですけど、蓋は真上に持ち上げるより斜めの方が、テコの原理で持ち上げ易くなるかもしれません」
なるほど、テコの原理。ぐるぐるくん頭いい!
私はそんなの思い付かなかったのに、瞬時にそこまで考えられるなんて凄いや。
さすが、進学校の生徒なだけはあるよ。
アドバイスを受けて、舞茸さんは早速バールで、溝蓋を叩き始める。
「おら、これでどうだ!」
ガンガンと言う音が、辺りに響く。するとそれに合わせるみたいに、もう一つ、地面の下から何かが聞こえてきた。
「ニャー! ニャー!」
「おかきの鳴き声……急に鳴き始めたけど、ひょっとしてビックリしてるのかも」
「けど、こうしないと持ち上がらないんだろ。我慢してもらうしかないな」
「叩くの、もうその辺でいいんじゃないの? とりあえずもう一回、持ち上げてみよう」
言われて舞茸さんは、さっきと同じように。ううん、さっきとは違ってバールを差し込んだ後、斜めに蓋を持ち上げる。
するとどうだろう。さっきは途中で止まってたのに、今度はメキメキと持ち上がっていく。
「おお、スゲー……よし、下に隙間ができたぞ。誰か手を入れて、一緒に持ち上げてくれ」
「だったら私がやります」
手を上げて志願すたけど、安達くんが怪訝な顔される。
「力仕事だけど、いいの? それに、手も汚れるよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。早くしないと、雨が降りだしてからじゃ遅いんだから」
「分かった。俺も反対側から持つよ」
安達くんと2人、両サイドから空いた隙間に手を入れる。
溝蓋の底に触れると、ぬるっとした感触があって気持ち悪い。こんなことならさっきバールを買った時、軍手も一緒に買っておけば良かったなあ。
だけど今更言っても始まらない。「せーの」の掛け声で、溝蓋を持ち上げた。
「上がった上がった!」
「よし、このまま横に置こう。天宮さん重くない? ちゃんと持てそう?」
「な、何とか」
って返事はしたものの、実際はかなり重い。
ヨロヨロと抱えながら横へと移動させたけど、数歩歩いたその時、ぬるっとした底に手を取られて、溝蓋を滑らせた。
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
ガンッて強い音を立てて、溝蓋は地面へと落ちる。
幸いだったのが、誰の足の上にも落ちなかった事。
壊れるんじゃないかってくらい激しく落下させちゃったけど、溝蓋は頑丈でヒビも入っていないし、とりあえず退かすことはできた。
ただそのかわり。
「痛っ──」
「大丈夫? 待って、血が出てるじゃない」
安達くんの言う通り、手を滑らせた表紙に溝蓋の角で切ったのか、私の右手からは血がにじんでいた。
で、でもまあ大した怪我じゃないし、それよりも。
「おかきくんは? 助けられそう?」
溝蓋が外された穴を見ると、アリサさんがスマホのライトで照らしながら、中を覗き込んでいる。たけど。
「まだちょっと無理ね。手を突っ込もうにも、もうちょい穴が大きくなきゃ。けど隣の蓋も外したら、どうにかなると思う」
アリサさんの言う通り、空いた穴から手を入れるには、さっき取った溝蓋と並んでいたもう一つの溝蓋を外した方がやり易そう。
「それと、穴の中の写真撮ったけど、猫写ってたよ。これ、おかきって猫であってる?」
アリサさんの見せてくれた写真には、暗くて狭い空洞の奥に、焦げ茶色の猫の姿が。
間違いない、おかきくんだ。
「はいこの子です」
「それはよかった。ならもう一個の蓋も、さっさと外しちゃおう」
後一息。すると舞茸さんも、バールを手に溝の上に立つ。
「よし、それじゃあ俺がもう一度バールで持ち上げるから、隙間ができたら抱えてくれ」
「分かりました。じゃあまた私が……」
「天宮さんはダメ! 怪我してるじゃない!」
瞬時に安達くんに止められた。
そんな、これくらい平気……って言いたいところだけど。もしもまた途中で落としちゃったら危ないし。申し訳ないけど、大人しくしていた方が良さそう。
怪我をした手を擦りながら、肩を落としていたけど……。
「……ハンカチ、使う?」
「ありがと──えっ!?」
不意に後ろから声がしたかと思うと、振り返りざまにハンカチを差し出された。
でも、その人を見て固まってしまった。
だって、ハンカチを差し出してきたのは……。
「か、香苗ちゃん!?」
そこにいたのは──なんと香苗ちゃんだったの。
けど、どうして香苗ちゃんがここに? と言うか、どうしてこんな私を助けるような事してるの?
数ヶ月前、キリエちゃんと一緒に仲間外れにして以来、香苗ちゃんの方から絡んでくることなんてなかったのに。
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